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4R栄養戦略とは? 運動後の回復を促す四つの「R」 文献レビューからの考察

運動後の回復をサポートする栄養戦略を、「4R」というキーワードで論説したレビュー論文が公開された。4Rとは、「R」で始まる四つの単語のことだ。その中の「Refuel(補給)」については、新しい世代の糖質にもスポットを当てている。

運動後の回復を促す四つの「R」 4R栄養戦略とは? 文献レビューからの考察

4Rが運動後の回復をサポートする

「運動」と「4R」という単語を聞いて、どのような事柄をイメージされるだろうか? 試みにネットで「4R+運動」で検索すると、ゴミ削減運動の解説がヒットする。「4R運動」とは、「Refuse(あとでゴミになるものはもらわない)」、「Reduce(ゴミの量を減らす)」、「Reuse(繰り返し使う)」、「Re cycle(資源の再活用)」のことだそうだ。最初の「Refuse」のない「3R運動」というのもヒットする。

これに対して本論文でいうところの「4R」は、「Rehydration」「Refuel」「Repair」「Rest」の頭文字。運動後の栄養戦略は、失われた水分の補給、筋肉や肝臓のグリコーゲンへの補充、蛋白質やクレアチン等の摂取による筋損傷の修復、休息による回復の促進という「四つのR」が重要であり、これらは運動終了後の時間経過を考慮して適切なタイミングで行うことで、回復をより促進させられる。

本論文は、この四つのキーワードに着目して、既報論文を対象とする文献検索を行い、収集された知見を整理しまとめたもの。

文献検索の方法

文献検索には、ScienceDirect、PubMed/MEDLINE、Google Scholarを用い、栄養戦略、栄養補助食品、および運動後の回復の関連についての研究を検索した。2010年以降に発表された英語論文を優先したが、この条件に当てはまらないものの中からも研究者の判断により重要な報告は手作業で追加した。運動後の回復について述べられていない論文、フルテキストを利用できない論文は除外した。

ヒットした論文総数は1,816件で、本研究のトピックへの適合性に基づいてスクリーニングをしたうえで、抽出された研究報告を分析した。以下はその結果の抜粋。

Rehydration:水分補給

運動後にまずすべきことの一つは、運動によって失われた水分と電解質の補充だ。水分補給は、とくに持久力スポーツ、チームスポーツで重要。一般的なアドバイスとしては、脱水の迅速な補正のために、運動終了後の短時間(4時間未満)に、運動で失われた体重の150%の摂取が推奨される。そして、次のトレーニングセッションの前に体重が回復していることを確認する。また、40~60mEq/Lのナトリウム含有飲料を摂取すると、セッション間の時間が短く限られている場合や、中程度の脱水症状がみられる場合に、体液貯留と水分補給を同時に満たすことができる。

水分補給は4時間以上、ときに24時間にわたって必要なことがある。そのような場合、状況が許せばクラッカー、ピーナッツ、パン、牛乳、チーズ、ハム、スープなどのナトリウムを含む食品の摂取が良いかもしれない。回復時間が12時間未満の場合は、次のトレーニングまたは競技の前に、より積極的な水分補給が必要。

水分補給は運動後の回復の基本的なステップだが、何を、どのように、いつ、どのくらい摂取すべきかは、個々のアスリートの特性と競技・トレーニング内容、環境等の条件によって異なる。アスリートに対しては、水分補給の重要性、発汗量の評価、水分補給の目安等の教育が求められる。

Refuel:エネルギーの補充

運動後の筋肉と肝臓のグリコーゲン補充を最大化するための、いくつかの戦略が存在する。それらの戦略は、とくに1日のうちに2回以上のセッションを行う場合、または競技が連日続く場合に重要となる。運動の種類に加え、トレーニング量、スケジュールなどからグリコーゲン枯渇のレベルを考慮する必要がある。炭水化物摂取はグリコーゲン補充だけでなく、免疫能の維持にも重要。

一方、体重の大きいアスリートや減量を要する競技種目のアスリートでは、摂取エネルギー量を減らすほうがよい場合がある。また、レジスタンス/パワーア系のスリートは、持久力アスリートほど多くの炭水化物を必要としないことが多い。

運動後に炭水化物が消化され筋肉や肝臓組織にグリコーゲンとして取り込まれるまでに約4時間かかる。したがって、運動後に摂取可能な時間が限られている場合は、日常の炭水化物摂取量を増やす(8g/kg/日以上)という戦略も検討し得る。

運動後4時間以内に十分な炭水化物を摂取可能な場合(1.2g/kg/時)、インスリンレベルを高める目的での蛋白質摂取は必要ない。炭水化物の摂取が十分である場合、さらにインスリンレベルを高めても筋グリコーゲン合成速度は増加しない。ただし、炭水化物摂取量が十分でない場合は、炭水化物に加えてクレアチンの適量摂取が筋グリコーゲン合成にプラスの作用を及ぼすことが示されている。

なお、国際スポーツ栄養学会は、炭水化物摂取について以下のように推奨している。

  • 低~中等度のトレーニング(例えば、1日あたり2~3時間の激しい運動を週に5~6回):5~8g/kg/日
  • 中等度~重度の持久力トレーニング(例えば、1日あたり3~6時、1~2回の激しい運動を週に5~6日間):8~10g/kg/日
  • 極端な運動プログラムまたは競技(1日あたり6時間以上、または1週間連続の競技):10~12g/kg/日以上

さまざまな特性を持ついくつかの新世代の炭水化物が存在する。それらのスポーツにおける利点について、以下に取り上げる。

パラチノース

「パラチノース」として商業的に知られている6-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトース(イソマルツロース)は、消化吸収が緩徐な炭水化物である。インスリン分泌の急速な亢進を緩和し、運動時の血糖維持に役立ち、パフォーマンスが維持される。具体的には、イソマルツロース摂取により、運動中の血糖値が安定し脂肪酸化が増加して、持久力トレーニングを受けたアスリートのパフォーマンス向上が示されている。

糖利用が適度に抑制されるため、脂質代謝への依存が高まり、グリコーゲン利用が節約される可能性がある。パラチノースのスポーツパフォーマンス上のメリットは、多くのエビデンスが存在する。

トレハルロース

パラチノースが糖質利用の速度という点のメリットがあるのに対し、「トレハルロース」として知られる1-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースは熱に対する安定性が特徴。その他、イソマルツロースに近い特性があるため、アスリートにとっても興味深い。スポーツ栄養の観点では、今後のエビデンス蓄積が求められる。

Repair:筋損傷の修復

筋蛋白質合成(muscle protein synthesis;MPS)は、物理的な刺激と食事性蛋白質摂取によって刺激され、両者により相乗反応が期待できる。運動2時間後までの高品質蛋白質食品の摂取が、MPSにプラスの作用があるとされる。ただし運動直前の高品質蛋白質の摂取でも同様の作用がみられるとする報告もある。

蛋白質の摂取量が不十分なアスリートは、異化亢進により負の窒素バランスとなり回復に悪影響が及ぶ。その負荷の蓄積とともに、筋肉の消耗、怪我、トレーニング耐性の低下につながる可能性がある。これに対して運動中のインスリン分泌性蛋白質および/または必須アミノ酸混合物の摂取が、運動後の筋肉蛋白質同化作用を刺激すると考えられる。

また最近、マラソンランナーの回復期の適量の蛋白質摂取のメリットが報告されるようになった。炭水化物のみの摂取と比較し、蛋白質の同時摂取は筋グリコーゲン合成速度が同等であり、合成と分解のバランスは向上するという報告がみられる。

なお、国際スポーツ栄養学会は、以下のように解説している。

MPSを強化するための蛋白質の最適な摂取量は、年齢、エネルギー摂取量、および抵抗運動刺激に依存する。運動後には0.5g/kg、絶対量としては40gの高品質蛋白質が必要。食事あたりでは、0.25~0.40g/kg、絶対量としては20g必要。

運動前および運動後の蛋白質摂取のメリットを考慮し、アスリートごとに蛋白質摂取の最適なタイミングを決定する必要がある。運動後の同化作用は長続きするが(少なくとも24時間)、時間の経過とともに低下する可能性がある。

一方、クレアチン一水和物の摂取(0.1g/kg/日)がパフォーマンスを向上させるだけでなく、筋肉の損傷を減らして、かつ回復を促すことを示す多くのエビデンスが存在する。さらに、慢性的なクレアチン摂取は、炭水化物摂取のみよりもグリコーゲン再合成を促進することが示されている。

また、分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids;BCAA)は、筋力低下抑制、筋損傷の軽減、および同化に有利なホルモン環境を整えるように働く可能性がある。ロイシン由来の化合物(β-Hydroxy-β-methylbutyrate;HMB)は、高強度運動後の回復を改善することが示されている。

Rest:休息

睡眠は絶対に不可欠であり、運動後の回復において最も重要な要素であることは間違いない。昼寝や睡眠時間の確保が運動後の回復を促し、パフォーマンスに有利に働くというエビデンスがある。8時間以上睡眠をとり、推奨される栄養摂取量を満たすアスリートは、怪我のリスクが低いことも明らかになっている。それにもかかわらず、アスリートは十分に睡眠をとっていないことを示唆する報告がある。

就寝前の食事は、より適切な組み合わせにすることを心がけるべきだろう。炭水化物(高グリセミックインデックスの夕食)、メラトニン、トリプトファンが豊富な蛋白質、抗酸化物質が豊富な果物(タルトチェリージュース等)など、いくつかの栄養素が睡眠を改善することが示されている。睡眠のために栄養素摂取のタイミングを整えることは、アスリートの栄養ニーズを満たすことと同じくらいに重要と言える。

この新しいパラダイムについて、現在の推奨は以下のとおり。

  • 睡眠約30分前のカゼイン40~48gの摂取は、運動後の回復を促し、健康な若年成人の一晩の急性蛋白質代謝を調整する。
  • 一部のサプリメント(アシュワガンダなど)は、健康な男性と女性の被験者で、睡眠の質を改善することが認められている。

「4R」とは、運動からの回復における栄養戦略の四つのポイント

これらの文献的考察のまとめとして、著者らは結論の中で「4R」を以下のように位置付けている。

「入手可能なエビテンスに基づいて、Rehydrate、Refuel、Repair、およびRestという『4R』で表現されるトピックをまとめた。これら四つのRは、現在の方法論にとって代わるものではなく、また新しいパラダイムの確立を狙ったものでもなく、回復プロセス中に考慮すべき栄養戦略を的確に表すことを意図している」。

文献情報

原題のタイトルは、「The 4R's Framework of Nutritional Strategies for Post-Exercise Recovery: A Review with Emphasis on New Generation of Carbohydrates」。〔Int J Environ Res Public Health. 2020 Dec 25;18(1):103〕
原文はこちら(MDPI)

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