オメガ3脂肪酸の有益性はアスリート、アマチュアで同等か? ナラティブレビュー
オメガ3脂肪酸に関して、心血管疾患リスク抑制のエビデンスは豊富だが、近年はそれに加え、スポーツパフォーマンスへの有益性を示唆する報告が増えている。ただし、心血管疾患のリスク抑制に比べれば、まだエビデンスレベルが高くない。こうした中、アスリートまたはアマチュアのパフォーマンスに対するオメガ3脂肪酸摂取の影響をナラティブレビューとして検討した論文が報告された。
オメガ3脂肪酸を巡る最近の話題
スポーツ栄養の主たる目的は、増大しているエネルギーと栄養素の消費を補うことであり、パフォーマンスの向上、傷害や疾患リスクの低減なども重要だ。
近年、オメガ3脂肪酸のスポーツにおける役割が注目されるようになってきた。オメガ3脂肪酸は、パフォーマンス向上、疲労回復、疾患や傷害のリスク低減に有益な影響を与える可能性が示唆されつつある。
しかし、一般人口のオメガ3脂肪酸摂取量は推奨量を満たしていないと考えられている。例えば欧州連合(EU)諸国では、全人口の74%が欧州食品安全機関(European Food Safety Authority;EFSA)の推奨量(250mg/日)に到達していないことが報告されている。EFSAの推奨は一般成人を対象とするものだが、アスリートもエネルギー消費が多いことや代謝回転が速いことを考慮すると、やはり十分量を摂取していないと考えられる。実際に全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)ディビジョンIのフットボール選手を対象とした最近の横断研究でも、オメガ3脂肪酸の摂取不足が報告されている。
文献検索の手法
一方、オメガ3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(eicosatetraenoic acid;EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid;DHA)が、持久力を向上し回復を促進する可能性が報告されているものの、コンセンサスの形成には至っていない。そこで本研究は、EPA/DHAによる介入研究の報告を収集し、アスリートとアマチュアのスポーツ栄養におけるEPA/DHAの総合的な影響を評価した。
文献検索にはPubMedが使用された。2020年3月に、オメガ3脂肪酸、n-3脂肪酸、魚油、スポーツ、スポーツパフォーマンスというキーワードにより、2010年1月~2020年2月に公開された、ヒトを対象として英語で執筆されたランダム化比較臨床試験の報告を検索。ヒットした310件から53件を抽出した。
53件の論文のうち、21件はアスリートについての研究で、32件はアマチュアを対象とする研究だった。ナラティブレビューは、スポーツパフォーマンス、回復、疾患や傷害という3点に焦点を当てて行われた。
解析に際しては、サプリメントの摂取量と介入期間が結果に及ぼす影響の検討を主眼として、それらを最適なカットオフ値で二分し比較するという手法を採用した。
パフォーマンスに及ぼす影響
スポーツパフォーマンスとの関連は、30件の研究で検討されていた。これらの研究のうち10件はアスリートで実施され、21件はアマチュアで実施されていた(2件は両者)。使用されていた用量は、EPAは0.06~4.9g/日、DHAは0.04~4.7g/日の範囲であり、介入期間は、摂取後の急性効果を検討したものから、最長24週の範囲だった。
介入期間の長短での比較
前述のように、本研究ではサプリメントの摂取量と介入期間を最適なカットオフ値で二分し、結果を比較するという手法で検討している。まず介入期間については、アスリートでは5週、アマチュアでは8週が、介入期間の違いによるパフォーマンスへの影響の差異をみる最適なカットオフ値とされた。
アスリートで介入期間が5週間以下の場合、5件中2件が無効、3件が有益と報告していた。それに対して、介入期間が5週を上回る場合、無効との報告は5件中1件のみで、5件中4件は有益と報告していた。一方、アマチュアを対象とした介入では、8週以下の場合、7件中2件が無効、5件が有益、8週を上回る場合、14件中1件のみ無効、13件が有益と報告していた。
摂取量の多寡での比較
摂取量に関しては、アスリートでは2g/日、アマチュアでは1.8g/日が、摂取量の違いによるパフォーマンスへの影響の差異をみる最適なカットオフ値とされた。
アスリートの摂取量が2g/日以下の場合、5件中2件が無効、3件が有益と報告していた。それに対して、摂取量が2g/日を上回る場合、無効との報告は5件中1件のみで、5件中4件は有益と報告していた。一方、アマチュアを対象とした介入では、1.8g/日以下の場合、10件中2件が無効、8件が有益、1.8g/日を上回る場合、11件中1件のみ無効、10件が有益と報告していた。アマチュアに関しては合計21件の研究のうち18件が、カットオフ値より上か下かに関係なく有益との結果を報告しているため、用量の多寡は影響が少ないようだ。
回復に及ぼす影響
回復との関連は、22件の研究で検討されていた。これらの研究のうち11件はアスリートで実施され、同じく11件がアマチュアで実施されていた。使用されていた用量は、EPAは0.06~2.4/日、DHAは0.04~1.2g/日の範囲であり、介入期間は、摂取後の急性効果を検討したものから、最長24週の範囲だった。
介入期間の長短での比較
介入期間のカットオフ値を、アスリートでは8週、アマチュアでは6週とすると、介入期間の違いによる回復への影響の差異をみる最適なカットオフ値とされた。
アスリートで介入期間が8週間以下の場合、5件中2件が無効、3件が有益と報告していた。それに対して、介入期間が8週を上回る場合、6件の研究のすべてが有益と報告しており、無効との報告はなかった。一方、アマチュアを対象とした介入では、6週以下の場合、5件中1件が無効、4件が有益、6週を上回る場合、6件の研究のすべてが有益と報告しており、無効との報告はなかった。
摂取量の多寡での比較
摂取量に関しては、アスリートでは1.14g/日、アマチュアでは1.8g/日が、摂取量の違いによる回復への影響の差異をみる最適なカットオフ値とされた。
アスリートの摂取量が1.14g/日以下の場合、4件中3件が無効と報告し、有益との報告は1件のみだった。それに対して、摂取量が1.14g/日を上回る場合、7件の研究のすべてが有益と報告しており、無効との報告はなかった。一方、アマチュアを対象とした介入では、1.8g/日以下の場合でも、6件の研究のすべてが有益と報告しており、無効との報告はなかった。1.8g/日上回る場合では、5件中1件のみ無効、4件が有益と報告していた。
傷害や疾患リスク抑制
傷害や疾患リスクとの関連は、4件の研究で検討されていた。これらの研究のうち2件はアスリートで実施され、同じく2件がアマチュアで実施されていた。
トレーニングを行っている男性対象の研究では、EPA3.7g/日、DHA2.5g/日という高用量で3週間の介入により、肺機能マーカーの改善を報告している。アマチュア対象の検討からは、運動誘発性気管支収縮のマーカーの改善も観察され、EPA/DHAが炎症性作用をもたらした可能性がある。その一方で、炎症マーカーを評価した検討では、有意な変化が報告されていない。
その他、プロフットボール選手において、DHA2g/日による神経保護作用が報告されている。
これらの結果から、著者らはナラティブレビューの結論を以下のようにまとめている。
EPA/DHAサプリメントの摂取は、約6~8週間で好ましい結果が現れるようだ。用量は約1.5~2.0g/日を超える場合に反応が良好。アスリートに比べると、アマチュアはより短期間、より低用量で有益性を得られるように思われる。EPA/DHAは最大1日5gまで安全であると考えられていることから、本検討で示された数値を摂取しても有害性はほとんどないのではないか。
文献情報
原題のタイトルは、「Omega-3 Fatty Acids for Sport Performance--Are They Equally Beneficial for Athletes and Amateurs? A Narrative Review」。〔Nutrients. 2020 Nov 30;12(12):E3712〕
原文はこちら(MDPI)