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日本人の低炭水化物食と死亡リスクとの関連はU字型 蛋白源や脂質源による差異も存在

低炭水化物食と死亡リスクとの関連を、日本人で調べた研究結果が報告された。全体的に、炭水化物のエネルギー比率が低くても高くても死亡リスクが高くなるという、U字型の関連が認められた。ただし、蛋白質や脂質の摂取源を動物性食品と植物性食品に分けての解析からは、植物性食品の場合、炭水化物の比率が低いほど死亡リスクが低いことが明らかになった。国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)のデータを解析したもので、「Clinical Nutrition」に論文掲載されるとともに、国立がん研究センター予防研究グループのサイトにニュースリリースが掲載された。

日本人の低炭水化物食と死亡リスクとの関連はU字型 蛋白源や脂質源による差異も存在

研究の背景:低炭水化物食の影響を日本人で調べた研究は少ない

近年、減量や糖代謝の改善などを目的とする低炭水化物食の効果が注目されている。しかし、炭水化物、蛋白質、脂質の三大栄養素は、全体のバランスとして考える必要があり、例えば炭水化物の摂取が少なければ蛋白質や脂質の摂取が多くなる。そのため低炭水化物食に切り替えて、動物性食品からの蛋白質や脂質の摂取が増えた場合に、健康への好ましくない影響も報告されている。

とは言っても、米国で多くの研究が行われているのに対し、国内からは、低炭水化物食スコアと死亡リスクを検討した研究が1件のみで、蛋白質や脂質の摂取源についてまで検討した研究はない。そこで本論文の著者らは、低炭水化物食スコアと死亡リスクとの関連を死因別に検討し、さらに炭水化物以外の栄養素(蛋白質と脂質)の摂取源が動物性か植物性かの違いを考慮した検討を行った。

研究の手法:低炭水化物スコアで栄養摂取状況を評価

データ解析に用いたJPHC研究は、生活習慣とがん・脳卒中・心筋梗塞などの疾患との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるために行われている研究。今回の解析では、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所の管轄区域内に居住していた45~74歳の人のうち、食事調査アンケートに回答した男女約9万人を対象とした。平成26年(2014年)まで追跡し、低炭水化物食と死亡リスクとの関連を検討した。

低炭水化物食スコアの計算方法

食事調査アンケートの結果を用いて1日の摂取エネルギー量を推定し、炭水化物、蛋白質、脂質からの摂取エネルギー比率を計算。それに基づき、炭水化物からの摂取エネルギー比が高いほど小さな得点を与え(10点から0点)、脂質と蛋白質は多いほど高い得点を与えて(0点から10点)、それらを合計して低炭水化物食スコアとした。このスコアが高いほど、炭水化物の摂取量が少なく、蛋白質や脂質の摂取量が多いことを意味する。

極端な低炭水化物は行っていない対象での検討

次に、対象者全体を低炭水化物食スコアで五分位に分類。その結果、第1五分位群(低炭水化物食スコアが最も低く、炭水化物エネルギー比率の高い上位20%の人たち)の炭水化物エネルギー比は平均65%、第5五分位群(低炭水化物食スコアが最も高く、炭水化物エネルギー比率の低い下位20%の人たち)は平均43%だった。

本研究は一般住民を対象とした研究であり、食事を低炭水化物に変更するという介入は行っていない。そのため、スコアの最も高い第5五分位群でも、それほど極端な低炭水化物食ではないと言える。

低炭水化物食スコアと死亡との関連はU字型

16.9年間(中央値)の追跡期間中に1万3,179人が死亡した。死亡の原因は、がん5,246人、循環器疾患3,450人、心疾患1,811人、脳卒中1,358人。

低炭水化物食スコア第1五分位群を基準に、他の群の全死亡(すべての原因による死亡)、および循環器疾患やがんによる死亡のリスクを比較した。なお、死亡リスクに影響を与え得る因子(年齢、性別、地域、BMI、喫煙・飲酒・身体活動習慣、高血圧・糖尿病・高コレステロール血症の既往、職業、摂取エネルギー量、コーヒーや緑茶の摂取量)は統計学的に調整した。

全数解析では、全死亡、循環器疾患と心疾患による死亡がU字型の関連

その結果、低炭水化物食スコアは、低くても高くても全死亡のリスクが高いというU字型の関連がみられた。死因別では、循環器疾患と心疾患による死亡は、全死亡と同様にU字型の関連が存在した。他方、がんや脳血管疾患による死亡は、低炭水化物食スコアとの有意な関連は確認されなかった(図1)。

図1 低炭水化物食スコアと死因別リスク
図1 低炭水化物食スコアと死因別リスク
(出典:国立がん研究センター予防研究グループ)

蛋白質や脂質を植物性食品がとっている場合は、死亡リスクと負の相関

次に、蛋白質と脂質の摂取源を動物性食品と植物性食品に分けて検討。その結果、動物性食品に基づく低炭水化物食スコアと全死亡リスクとの関連は、全数解析と同様にU字型の関連がみられた。ただし、全数解析で認められた、循環器疾患と心疾患による死亡との有意な関連は、認められなかった(図2)、

図2 動物性食品に基づく低炭水化物食スコアと死因別リスク
図2 動物性食品に基づく低炭水化物食スコアと死因別リスク
(出典:国立がん研究センター予防研究グループ)

一方、植物性食品に基づく低炭水化物食スコアとの関連は、全死亡および、がんによる死亡を除く検討したすべての原因による死亡について、スコアが高いほど死亡リスクが低下するという有意な関連が認められた(図3)。

図3 植物性食品に基づく低炭水化物食スコアと死因別リスク
図2 動物性食品に基づく低炭水化物食スコアと死因別リスク
(出典:国立がん研究センター予防研究グループ)

低炭水化物食にするなら蛋白・脂質源を植物性食品に

本研究により、日本人において、炭水化物の摂取量に対する脂質や蛋白質の摂取量が少ない場合と多い場合の双方が、死亡リスクの上昇と関連していることがわかった。また、蛋白質や脂質の摂取源が、動物性食品か植物性食品かによって、死亡リスクとの関連が異なることもわかった。

これにより、炭水化物の摂取量を減らして脂質や蛋白質の摂取量を増やす場合には、死亡(とくに循環器疾患による死亡)のリスク低減の観点から、蛋白質や脂質は主に植物性食品から摂取することが望ましいことが示唆された。

日米の違いの考察

米国の研究では、低炭水化物食スコアが高いほど死亡リスクが高いという結果が報告されている。それに対して本研究は、U字型という結果だった。この違いの理由として、著者らは「米国と日本では、炭水化物や蛋白質、脂質の摂取源が異なることが考えられる」と述べている。米国では炭水化物の摂取源が炭酸飲料やソーダ、ケーキなどだが、日本では主に米からであり、蛋白質や脂質の摂取源となる動物性食品は、米国は主に肉類であるのに対し、日本では魚介類の摂取量が多かったという。

このほか、炭水化物の摂取量を極端に減らすと、穀類に含まれる食物繊維などの生活習慣病の予防に寄与する有益な栄養素の摂取が減り、疾患リスクが高まる可能性を指摘している。ただし本研究は炭水化物について、食物繊維やビタミン等を多く含む玄米や全粒粉については検討しておらず、この点は研究上の限界点として挙げられる。

また、前述のように本研究において最も炭水化物エネルギー比率が低い群でも43%であり、この範囲を超えた低炭水化物食、ケトン産生食などの健康への影響については、さらなる研究が必要。

関連情報

低炭水化物食と死亡リスクとの関連(国立がん研究センター予防研究グループ)

文献情報

原題のタイトルは、「Low carbohydrate diet and all cause and cause-specific mortality」。〔Clin Nutr. 2020 Sep 23;S0261-5614(20)30478-7〕
原文はこちら(Elsevier)

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