腸内細菌叢の違いがパフォーマンスレベルに影響? 中国の武道家の検討で有意差
近年、腸内細菌叢がさまざまな疾患の発症や進行と関連していることが明らかになってきており、アスリートのパフォーマンスレベルとの関連の研究も進められている。今回紹介するのは、中国の武道アスリートを対象とする研究で、競技成績によって腸内細菌叢のパターンに有意な相違がみられたという論文だ。ハイパフォーマンスの選手は、炭水化物代謝やヒスチジンの代謝経路が亢進していることも認められたという。
研究の背景と、研究方法
ヒトの腸内細菌叢は、宿主の生理機能、免疫機能、栄養、代謝などに多大な影響を与え、"臓器"であるとする見方がされることもある。これまでの研究によって、肥満症、炎症性腸疾患、精神疾患など、幅広い疾患と関連していることが示唆されている。腸内細菌叢の動的変化は、遺伝、年齢、食習慣、抗生物質の使用などの影響を受ける。
さらに最近は、運動が腸内細菌叢を調節する重要な要因として注目されつつある。ただし運動と腸内細菌叢の相互作用の研究はまだ緒についた段階で、メカニズムはほとんど知られていない。
研究対象は、北京体育大学の学部生
この研究は、中国の北京スポーツ大学で行われた。20〜24歳の武術アスリート31名(女性15名、男性16名)を募集。そのうち12名は、「全国エリート選手(National Elite Athletes)」、5名は「全国一流選手(National First-class Athletes)」、14名は「全国二級選手(National Second-class Athletes)」の資格所有者だった。後述の検討に際して、全国エリート選手を高パフォーマンス群(H群)、その他を低パフォーマンス群(L群)として、2群に分類した。
除外基準は、消化器系疾患(炎症性腸疾患や下痢など)、代謝性疾患(肥満、脂肪肝、糖尿病など)、アルコール乱用、喫煙。また過去3カ月間に抗生物質またはプロバイオティクス飲料を使用していた人も除外した。最終的に28名(H群12名、L群16名)が解析対象とされた。
ハイパフォーマンス群で腸内細菌叢の多様性が有意に高い
研究対象者の主な背景は、女性の割合がH群41.67%(5名)、L群50%(8名)であり、以下、H群、L群の順に、年齢20.08±1.83、20.19±1.22歳、BMI22.24±2.12、21.72±1.21で、これらに群間の有意差はなかった。トレーニング歴はH群11.17±1.75年、L群9.0±3.50年でH群のほうが長いものの、統計的な有意水準には至っていなかった(p=0.066)。トレーニング時間はH群29.25±9.48時/週、L群16.63±6.82時/週であり、H群のほうが有意に長かった(p=0.002)。
トレーニング時間と相関する菌種も
糞便検体の解析の結果、腸内細菌叢の豊富さや多様性を表す指標に有意差がみられ、H群がL群よりも高かった(Shannon指数:4.797±0.722 vs 4.148±0.543, p=0.019.Simpson指数:0.915±0.044 vs 0.856±0.066,p=0.001)。
また、Parabacteroides属、Phascolarctobacterium属、Oscillibacter属、Bilophila属は、H群で豊富である一方、Megasphaera群はL群で豊富だった。さらに、Parabacteroides属の豊かさは、トレーニング時間と正相関することも明らかになった。なお、具体的にH群のParabacteroides属の比率は中央値2.301%であるのに対し、L群は0.840%だった。
機能性の解析の結果、H群ではヒスチジン代謝や炭水化物代謝に関連する微生物遺伝子のマーカーが高いことがわかった。
スポーツ栄養介入で腸内細菌叢にアプローチし、パフォーマンスを向上し得るか?
著者らは、「パフォーマンスの高いアスリートは腸内細菌叢の多様性と代謝能力が高いことが示された。トレーニング量に応じた腸内細菌叢の変化が、パフォーマンスにプラスの影響を与える可能性もある」と結論と考察を述べている。さらに今後の研究に向けて、「腸内細菌叢の特性を調べることでスポーツパフォーマンスを予測できるかや、スポーツ栄養介入をとおして腸内細菌叢にアプローチし、パフォーマンスを向上し得るか、などの仮説が立てられる」としている。
文献情報
原題のタイトルは、「Characteristics of the gut microbiota in professional martial arts athletes: A comparison between different competition levels」。〔PLoS One. 2019 Dec 27;14(12):e0226240〕
原文はこちら(PLOS ONE)