パラアスリートは微量栄養素が不足 スポーツ栄養士によるサポートの必要性を示唆
障がい者アスリート(パラアスリート)の栄養摂取状況の調査結果が報告され、微量栄養素が不足していることなどが明らかになった。ブラジルからの報告。
パラアスリートの栄養摂取状況に関する情報は限られている
ブラジルのスポーツ奨学金制度は、公的資金をアスリートに直接再分配する仕組みで、1年単位で行われている。給付額は個々の記録に応じてカテゴリーに分けられ、学生アスリートの最低カテゴリーの月額74ドルから、パラリンピックでメダル獲得の可能性のあるアスリートの最高カテゴリー月額3,000ドルの範囲に広がる。なお、ブラジルの最低賃金は月額208ドル。
パラアスリートの栄養ニーズは、運動生理学だけでなく、アスリートの障がいのタイプや程度によって異なる。現時点において、パラアスリートに適用可能な栄養に関するエビデンスに基づく推奨事項は存在せず、エネルギー需要と摂取量に関する情報の集積が、ガイドライン確立のために不可欠。
この現状を背景に、本研究では、ブラジルのパラアスリートにおける摂取エネルギーと微量栄養素の摂取量を、スポーツ奨学金の受給の有無別に評価し比較することを目的として実施された。研究開始時点の著者らの仮説は、奨学金を受けているパラアスリートは、奨学金を受けていないパラアスリートよりも、微量栄養素が不足している割合は少ないというものだった。
13種目、101名のパラアスリートを対象に調査
調査対象は、ブラジルの地域大会、国内大会、および国際大会への参加経験のある18歳以上のパラアスリート。除外基準は、24時間思い出し法による食事内容の報告が困難な重度の知的障がい、または視覚障がいのあるアスリート、およびパラアスリートとしては初心者のキャリアが短いアスリート。
陸上、アーチェリー、馬術、パワーリフティング、ラーリング、水泳、ラグビー、テニスなど、13種類のパラリンピック競技、計101名のパラアスリートがこの適格基準を満たし、2018年9月~2019年8月の間に実施された。
対象者の背景、奨学金の受給状況
対象者の年齢は33.3±9.83歳で、男性が多数(81.2%)を占めた。スポーツ奨学金の受給者は46人(45.5%)だった。
陸上競技アスリートは8名中7名、バスケットボールは11名中7名が奨学金を受けており、この2種類は奨学金受給率が高い競技だった。一方で脳性麻痺障がい者サッカーは14名中2名のみ奨学金を受けていた。
栄養関連指標の調査結果
栄養サポート状況と摂取エネルギー量
調査対象101名中、専門家の栄養サポートを受けていたのは31名(30.7%)だった。奨学金の受給状況別にみると、奨学金を受けている46名中、栄養サポートを受けているのは18名、奨学金を受けていない55名では13名が栄養サポートを受けていた。
摂取エネルギー量は、奨学金を受けているアスリートは2,128±124kcal/日、受けていないアスリートは2,239kcal/日で、有意差がみられた(p<0.001)。
果物・乳製品の不足が顕著
食品の摂取量は、穀類、野菜、果物、乳製品について、米国の2000年版食事ガイドラインの推奨量と比較検討した。推奨量を満たしていないアスリートの割合をみると、穀類は奨学金受給の有無にかかわらず50%台で、野菜に関しては奨学金を受けていない群が50.8%、受けている群は37.2%と差がみられた。
その一方で、果物や乳製品に関しては、奨学金受給の有無にかかわらず、推奨量を満たしていないアスリートが80%を超えていて、摂取不足状態にあると考えられた。
微量栄養素の摂取状況
微量栄養素については、パラアスリート全体で摂取量が全般的に不足していた。とくにビタミンD不足はほぼ100%が該当した。また、カルシウム不足やマグネシウムの不足も3分の2に上り、ビタミンAの不足は過半数、ビタミンC不足は3分の1が該当した。女性アスリートでは鉄の摂取不足が29.5%に認められた。
奨学金の受給状況で比較すると、ビタミンC、葉酸、マグネシウムが不足している割合は奨学金を受けていないアスリートで有意に高く(p<0.001)、一方、ビタミンD、カルシウム、ビタミンA、チアミン、リボフラビン、亜鉛が不足している割合は奨学金を受けているアスリートで有意に高かった(p<0.001)。
なお、サプリメントの摂取も含め、過剰な栄養摂取は報告されず、全参加者がいずれも許容上限値を超えた摂取はしていなかった。
パラアスリートにスポーツ栄養の介入を
これらの結果から、ブラジルのパラアスリートの栄養摂取量は全般的に推奨値を下回っており、ほとんどの微量栄養素の摂取量が不十分であることが示された。これは、スポーツ奨学金の受給の有無にかかわらず認められ、この点において著者らの当初の仮説は否定された。他方、サプリメントの使用はパラアスリートでは一般的ではなく、過剰摂取は認められなかった。
著者らは、「スポーツ奨学金の支援はパラアスリートの栄養不足を改善するのに十分ではなく、パラアスリートは栄養と食事のニーズにおいて、スポーツ栄養士からのサポートの必要性があることが示唆される。パラアスリートの微量栄養素摂取量をモニタリングし、十分な栄養摂取を確保して障害のあるアスリートの健康状態とパフォーマンスを改善するための栄養指導を奨励するとともに、障がいのあるアスリートの微量栄養素の不足についての理解を深めるには、より多くのアスリートを対象とした適切なデザインでの研究が必要」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Micronutrient deficiency in the diets of para-athletes participating in a sports scholarship program」。〔Nutrition. 2020 Aug 29;81:110992〕
原文はこちら(Elsevier)