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栄養摂取のタイミング ~運動前・中・後に摂取すべき栄養素とその根拠

「栄養のタイミング」というタイトルのレビュー論文が「Nutrients」誌に掲載された。栄養摂取のタイミング次第で、スポーツパフォーマンス、トレーニング負荷からの回復が異なる。この領域の研究は、当初のパフォーマンス向上を中心とした目的から、競技後の回復への影響へと広がり、また最近はいかに筋肥大を効果的に起こすかという点に重点がおかれる傾向がみられる。本レビューを著者らは「栄養素の相互関係のエビデンスに基づき新しいポイントを示唆し、栄養摂取のタイミングをより包括的にフレーム化するのに役立つ実用的なアプローチ」としている。

栄養摂取のタイミング ~運動前・中・後に摂取すべき栄養素とその根拠

「イントロダクション」に続き、「運動前の栄養」「運動中の栄養」「運動後の栄養」などに章立てがなされている。内容の一部を抜粋して紹介する。

イントロダクション

「栄養のタイミング」とは、特定の栄養素がトレーニングを取り巻く特定の時間に摂取され、急性のパフォーマンスや慢性的な適応を強化するための食事戦略を指す。初期の研究は、グリコーゲンの利用と枯渇回避のための炭水化物の摂取を主眼とするものが多く、続いて持久力と筋力運動の双方のパフォーマンス、および回復のための蛋白質摂取の急性効果の研究が始められた。

運動中はホルモンの変動に伴いさまざまな生理学的現象(心拍数の上昇、筋肉への血流の増加など)と代謝の亢進(解糖系と脂肪分解)を引き起こす。これらの生理学的反応に基づいて、運動後の摂食を利用して運動中に発生する異化の影響を抑制し、同化をより促進できるとの理解が広がった。運動後の一定期間は、糖輸送担体であるGLUT4活性の上昇が続いており、インスリンによる刺激がなくてもグリコーゲン合成酵素の作用が増加する。この期間は、約45分間続くと仮定された。この期間に炭水化物を利用できない場合、コルチゾールの蛋白質分解作用により、筋蛋白質分解が生じる。

一方、近年は、この運動後の「アナボリックウィンドウ」(同化が亢進する時間帯)の存在を疑問視する論調もみられる。2013年のメタ解析の結果、蛋白質の摂取タイミングは筋肥大に影響を与えないようだと報告された。ただしこれは考慮すべき方法論的な問題があり、メタ解析の対象論文が必ずしも摂取タイミングによる相違の解明を目的とした研究ではないことや、訓練されたアスリートを対象とした研究報告があまり含まれていないことなどが指摘されている。

運動前の栄養

運動前の栄養摂取のタイミングは、トレーニング開始の約1時間以内であると考えられているが、研究では4時間前まで拡大し評価されることもある。この間の栄養摂取の主な目的は、運動中にパフォーマンスを最適化するための十分なエネルギー源を筋肉が利用できるようにすることにある。ヒトはエネルギー源を脂肪組織に大量に貯蔵しているため、遊離脂肪酸の可用性が運動パフォーマンスの制限要因になることはめったない。しかし炭水化物は肝グリコーゲン(75~100g、300~400kcal)と筋グリコーゲン(300~500g、1,200~2,000kcal)、および循環グルコース(15~20g)として、全身に少量のみ貯蓄されている。これにより、炭水化物の摂取を通じて運動前の栄養を最適化することが基本となる。

運動前の炭水化物摂取に関連してしばしば指摘される懸念は、反応性低血糖である。ただし反応性低血糖は全員に発生するものではなく、急性のパフォーマンスを妨げないことが示されている。実際、トレーニングまたは競技の前に炭水化物を摂取することのエルゴジェニック効果は、反応性低血糖に伴うリスクを上回るようであり、また、トレーニングまたは競技の前のウォームアップと短時間の休憩で、低血糖による影響を抑制することが可能だ。

パフォーマンスへの効果とは別に、運動前の栄養摂取の見過ごされがちなメリットは、免疫能への影響である。運動前の高炭水化物食の摂取は低炭水化物食に比較して、運動2時間後の免疫細胞数とインターロイキン-6への影響が少ないとの報告がみられる。現在の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミックを考慮すると、これは看過されてよい効果でないが、あまり顧みられることがない。

運動中の栄養

運動中の炭水化物摂取は、筋肉と肝臓のグリコーゲン利用を抑制し、血糖値を維持する。これは、運動持続時間が60分を超える場合、またはより短い時間であっても最大努力での運動では重要である。

ただし、これらの条件下で大量の炭水化物を摂取すると、消化管不調を引き起こす可能性があり、パフォーマンス向上という目的に対して逆効果になり得る。しかし、グルコースのみの場合、その最大酸化率は1g/分であるが、複数のタイプの炭水化物を摂取すると異なるトランスポーターが利用され、炭水化物の取り込み能力が増加する。その結果、およそ1.5g/分の速度で酸化が可能となる。

複数のタイプの炭水化物の摂取により消化管の不調を伴わずに炭水化物の可用性を高めるだけでなく、パフォーマンスも向上する可能性があり、サイクリストがグルコースのみを摂取した場合と比較して、フルクトースも併用した場合に、タイムトライアル中のパワーが上昇したとの報告もみられる。

消化管の症状を最小限に抑えながら炭水化物を摂取し、パフォーマンスをさらに改善するためのもう一つの戦略は、蛋白質と炭水化物を同時に摂取することだ。最近のメタ解析からその好ましい影響が報告されている。また、蛋白質と炭水化物の同時摂取には、アミノ酸の生物学的利用率を増加させるという間接的な効果もある。さらに中枢性疲労の軽減効果も報告されている。

運動後の栄養

運動後は異化プロセスが優位になり、コルチゾールとカテコールアミンの上昇、インスリンの低下、筋蛋白質の異化亢進がもたらされる。これに対し、運動後の炭水化物と蛋白質の摂取は、血糖値を上昇させ、コルチゾールを減少させて、異化状態から同化状態へと導く。さらに、筋肉のGLUT4トランスポーターの活性化、グリコーゲン合成酵素活性の亢進、およびインスリン感受性の増強により、骨格筋の炭水化物およびアミノ酸の取り込みが増加する。

一方、運動後の蛋白質摂取のタイミングは、筋蛋白質合成の最大化には重要ではないとの指摘もある。筋蛋白質の肥大には、運動後の蛋白摂取のタイミングよりも総摂取量のほうが重要であるとの考え方だ。この考え方は、高強度の有酸素運動や筋力運動の後、運動誘発性筋蛋白質合成が24〜48時間上昇するという事実によって裏付けられ、「アナボリックウィンドウは存在しない」と主張される。

ただ、トレーニングの質と1日の蛋白質総摂取量が、運動後の蛋白質の急性摂取よりも、筋肥大にとって重要ではあるが、要は優先順位の問題と言える。摂取のタイミングに配慮することで、たとえわずかなメリットしか得られないとしても、パフォーマンスの向上を目指すエリートアスリートにとって、重要な考慮事項になる可能性があるだろう。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrient Timing: A Garage Door of Opportunity?」。〔Nutrients. 2020 Jun 30;12(7):E1948〕
原文はこちら(MDPI)

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