日本学術会議が「健康栄養教育を担う管理栄養士の役割」に関する提言を議決
内閣府の特別機関の一つであり、科学に関する重要事項の政府に対する政策提言などを行っている日本学術会議の健康・生活科学委員会家政学分科会は、このほど「健康栄養教育を担う管理栄養士の役割」という提言をまとめた。増加する生活習慣病予防に対する管理栄養士の介入が十分でないなどの問題点や、運動や睡眠などの多領域を理解した上で栄養指導を行える管理栄養士の育成の重要性を指摘している。以下はその要旨の抜粋。
提言の背景
現在の日本は超高齢社会であり、健康寿命の延伸が課題の一つと考えられる。この問題解決に重要な役割を担える者として、家政学関連分野においては、「食べる」領域の指導・改善を行う管理栄養士が該当することから、管理栄養士の社会における役割、およびその役割を担うにあたり必要な資質について提案することが、今回の議決の背景。
現状と問題点
・管理栄養士活動の現状:病院の外で活躍する管理栄養士に期待
健康寿命延伸には生活習慣病の予防が重要だが、例えば糖尿病の患者数は予備群を含めると約2,000万人と推計され、その他にも高血圧性疾患の増加傾向もあり、生活習慣病の発症予防は十分でない。生活習慣病の原因の一つは食生活の乱れにあることから、その改善のため、栄養についての専門知識を有し栄養指導を実践できる能力を備えた管理栄養士が、広く職場や地域で活動することが必要。
管理栄養士の業務先は病院が30%と多い。疾病の予防を目的としての取り組みは保健所での母子栄養と、40~74歳までの健康保険への加入者を対象に行われている特定健診・特定保健指導の該当者にのみ、個別介入がなされている。その一方で一般人への健康栄養指導は十分でなく、とくに20~30歳代への生活習慣病予防の対応は不十分である。
・管理栄養士の資質:養成カリキュラムやリカレント教育の問題
管理栄養士養成のためのカリキュラムは、疾病者への対応として医学の分野で扱う内容に重点が置かれている。しかし、一般人のQOL向上を目的とした疾病予防のための生活の理解、つまり、家族構成や生活スタイル、運動、睡眠を含む休養、年齢、性別などの要因が絡む多様な因子を理解したうえで、食事内容や食べ方(食事時間等)まで指導できる管理栄養士の資質が必要。
また、管理栄養士の職場としては、官公庁、学校、病院、事業所、児童福祉施設、社会福祉施設、介護保険施設と多岐にわたり、領域ごとに必要とされる専門性が異る。現在の養成カリキュラムは、医療の分野を除き、いずれの領域についても広く浅い知識・技術を習得するカリキュラムになっている。4年間ですべての領域の深い専門知識を習得することは困難であり、また、現職の管理栄養士に対するリカレント教育もほとんど行われていない。さらに、専門家養成のための大学院の数も、管理栄養士養成施設144校中69校と極めて少ない。
提言の内容
・社会的ニーズに対応する管理栄養士活動の広がりの必要性
大学生や一般社会人への健康栄養教育として、大学では管理栄養士による栄養相談コーナー等の開設や、一般社会においては健康な人を対象とした健康教育や栄養指導を管理栄養士から常時、受講や相談することができる行政または民間組織の構築が求められる。とくに、地域包括支援センター等での管理栄養士の活動の場が確保されるべき。
また、食生活の乱れから誘発される肥満者は、20~30歳代で増加傾向にある。この増加は中・壮年期から高齢期の生活習慣病の増加につながるが、この世代への栄養教育はなされていない。加えて一般社会人の中でも企業などでは40歳以上を対象として生活習慣病を対象に、健康管理を行っていることが多い。習慣的な食事の摂取状況を管理し、継続的な身体状況の変化から栄養や食事の摂取について指導できる管理栄養士を職場に配置し、日常的に活用できるようなシステム作りが必要。
・管理栄養士の資質の向上
医療や介護に依存せず、健康で充実した日常生活を過ごすためには、一般社会人への健康栄養教育が必要であり、管理栄養士にその役割が期待される。しかし現在の管理栄養士資格取得の必須科目や単位数は多く、内容は疾病の治療に偏っている。単位数は今よりも少なくし、選択科目を設けて興味のある職種分野の知識を修得するようにする。そして、卒業研究を必修とし、課題解決に向けて自らが考え、計画・遂行し、結果を導くことができる能力を修得するようにする。
また、管理栄養士の職場として、病院以外の分野は官公庁、学校、事業所、児童福祉施設、社会福祉施設、介護保険施設と多岐にわたるが、各分野のより深い専門性は大学院で修得することとする。管理栄養士の評価・理解を上げるには、リカレント教育などの継続的教育の義務化が必要である。大学院教育やリカレント教育を行うためには、それらを担う指導者の育成が必要であり、そのためには、大学院博士課程での研究が充実しなくてはならない。資格更新制度の導入も視野に入れて継続的な教育制度を検討すべきである。大学院博士課程を修了し、実務経験を積んだものに対し上級の資格制度(専修管理栄養士)を設置することなどして管理栄養士の質の向上を図ることも考えられる。
関連情報
提言の要旨(日本学術会議)
提言全体(日本学術会議 健康・生活科学委員会 家政学分科会)