ビタミンD補給で運動による骨格筋障害マーカーの上昇が抑制される
ビタミンDの補給によって、トロポニン等の筋障害マーカーの上昇が有意に抑制されるとのデータが報告された。ウルトラマラソンランナーを対象とする、プラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果だ。
マラソンランナーの筋力がビタミンDレベルと相関するとの報告があり、ビタミンD欠乏は、筋損傷リスクの増大や筋疲労につながる可能性も指摘されている。ただし、運動能力の維持や回復のために必要な最適なビタミンDレベルはわかっていない。本研究は、低用量のビタミンD補給によって筋障害のバイオマーカーが改善するのではないかとの仮説のもと、ウルトラマラソンランナーを対象とする検討を行った。
24名のポーランド出身ウルトラマラソンランナーで検討
少なくとも5回の大会参加経験があり約7年のトレーニングを続けている24名の男性ウルトラマラソンランナーが、この研究に参加した。全体を無作為に12名ずつに分け、一方をビタミンD補給群、他方をプラセボ投与の対照群とした。
ベースラインにおいて、年齢(ビタミン群33.7±7.5 vs 対照群35.09±5.3歳)、BMI(同順に、23.8±2.2 vs 23.7±2.1)、体脂肪率(13.7±3.3 vs 13.5±4.4%)、骨格筋量(36.5±5.1 vs 36.9±4.5kg)、VO2max(54.5±9.4 vs 58.1±7.4mL/kg/分)、ピークパワー(321.5±77.9 vs 351.4±68.3W)最大心拍数(181.0±11.0 vs 186.0±9.0b/分)、エネルギー摂取量(29.6±3.0 vs 28.0±2.0kcal/kg/日)、ビタミンD摂取量(7.8±7.1 vs 8.4±7.2/日)、血清25(OH)D値(34.9±4.7 vs 33.9±4.8ng/mL)などに有意差はなかった。
ビタミンD群には、50μg/日(2,000IU/日)、対照群にはプラセボ(ラクトース一水和物)1.3gを、1日2回食事とともに摂取させた。3週間の介入後、トレッドミル負荷試験によるVO2maxの測定、および、遅発性筋肉痛症状を誘発するとされる下り坂ランニングテストを施行し、ワークアウト直後、1時間後、24時間後に筋障害パラメーターを測定した。
これらの試験は、紫外線曝露による血清25(OH)Dへの影響を抑えるため、プレシーズンの2~3月に実施し、また被験者には介入期間中、サプリメント、カフェイン、アルコールの摂取を禁止し、激しい運動を控えるよう指示した。
筋障害マーカーなどに有意な影響
ビタミンD補給とプラセボ投与が、ランナーの血清25(OH)D、筋障害マーカー、および炎症性サイトカイン濃度に及ぼす影響を、各治療プロトコルの3週間後に比較した。
血清25(OH)D
血清25(OH)Dレベルに対するビタミンD補給の有意な効果が明らかになった。
まず、安静時のプラセボ群に比較して、有意に高い介入後25(OH)DレベルがビタミンD群で観察された(p<0.05)。また、ワークアウト直後、1時間後、24時間後の後の25(OH)Dレベルも、ビタミンD群が有意に高かった。
筋障害バイオマーカー
トロポニンIへの有意な影響も明らかになった。ビタミンD群では、介入前値に対して有意に低値であり(p=0.004)、ワークアウト後の値は対照群に対して有意に低値だった(p=0.03)。
ミオグロビンやクレアチンキナーゼについては、介入後のワークアウト1時間後の値に有意な影響が認められた。乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase;LDH)については有意な影響は認められなかった。
ワークアウト24時間後のミオグロビンレベルは25(OH)Dと有意な逆相関が認められた(r=-0.57,p=0.05)。
炎症性サイトカイン
腫瘍壊死因子α(Tumor Necrosis Factorα;TNFα)はワークアウト1時間後、インターロイキン-6(Interleukin-6;IL6)はワークアウト24時間後に、有意な影響が観察された。
ワークアウト24時間後のTNFαは25(OH)Dと有意な逆相関が認められた(r=-0.58,p=0.047)。
これらの結果から、「3週間のビタミンD補給は、トレーニングを積んでいるランナーの血清25(OH)Dレベルにベネフィットをもたらし、運動後の筋障害バイオマーカーレベルを低下させた。ビタミンDの補給は、アスリートの運動後の筋肉機能の改善と骨格筋損傷の予防に重要な役割を果たす」と結論付けている。
文献情報
原題のタイトルは、「The effect of vitamin D supplementation on serum total 25(OH) levels and biochemical markers of skeletal muscles in runners」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2020 Apr 9;17(1):18〕
原文はこちら(Springer Nature)