エリートアスリートの栄養摂取と栄養補助食品の利用状況 リトアニアからの報告
リトアニアのエリートアスリートの食品および栄養補助食品の摂取状況に関する調査結果が報告された。同国からオリンピックへの出場を目指すレベルのエリートアスリートの76.7%を対象とする調査。運動経験年数は平均7.9±3.8年、平均ワークアウト時間は178±63.7分/日。食事摂取状況は、同国のスポーツセンターにおいて、24時間思い出し法により把握した。
主要栄養素の摂取状況
エネルギー出納はマイナス
アスリートの摂取エネルギー量は2,197.6~4,244.9kcal/日の範囲にあった。一方、基礎代謝率と身体活動量から計算した推定エネルギー必要量(estimated energy requirement;EER)は、3,461.7~4,845.1kcal/日の範囲に分布しており、それを満たしていないことが多いと示唆された。
6割強は炭水化物不足
炭水化物の平均摂取量は、男性が5.6±1.9g/kg/日、女性が4.8±2.1g/kg/日であり、推奨される最小値である6.0g/kg/日に満たなかった。アスリートの62.4%は十分な炭水化物を摂取していないと判断された。性別に比較すると、男性に比し女性においてその割合が高かった(50.8 vs 77.0%、p=0.031)。
炭水化物摂取量が少ないことは食物繊維の摂取量が少ないこととも関連しており、女性アスリートでその割合が高かった(20.1 vs 66.1%、p<0.001)。
脂質摂取は超過
炭水化物の摂取不足を脂質摂取により補填している状況が認められ、76.5%のアスリートは摂取エネルギー量の35%以上を脂質から摂取していた。これに関連し、87.9%は飽和脂肪酸(saturated fatty acid;SFA)を摂り過ぎており、78.5%はコレステロールを摂り過ぎていた。SFAやコレステロールを過剰摂取している割合は、男性に多かった(87.0 vs 53.2%、p<0.001)。
対照的に、52.6%のアスリートは多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid;PUFA)の摂取量が不足していた。また、99.5%というほぼすべてのアスリートがω3系脂肪酸が不足し、41.3%のアスリートはω6系脂肪酸が不足していた。
蛋白質摂取量は個人差と性差が大きい
蛋白質摂取量は、男性アスリートでは嫌気性競技で1.8±0.6 g/kg/日、嫌気性と好気性の混合で1.7±0.7g/kg/日の範囲に分布し、女性アスリートは1.2±0.4~1.5±0.7g/kg/日の間に分布していた。推奨量(recommended daily intake;RDI)に見合った量を摂取しているのは全体の32.8%であり、38.1%は過少、29.1%は過剰に摂取していた。
蛋白質摂取量には性差がみられ、男性アスリートの36.2%が過剰摂取している一方で、女性アスリートの61.3%は摂取不足だった(p<0.001)。
微量栄養素や栄養補助食品の摂取状況
ビタミンDやカルシウム、および女性では鉄が不足
ビタミンやミネラルに関しては、それらのほとんどについて、RDIを大幅に超える量を摂取していた。
女性の鉄摂取量に関しても18.8±7.5mg/日であり、少なくとも15mg/日とされるRDIは満たしていた。ただし女性アスリートには最大70%増の25mg/が推奨されており、この値に比較し6.2±7.5mg/日不足していた(p<0.001)。
ビタミンDの摂取量は、男性144±104IU/日、女性88±76 IU/日であり、男女ともにRDIより低かった(p<0.01)。
アスリートの骨の健康の最適化には、カルシウム1,500mg/日の摂取が必要とされる。しかし、男性は272±511mg/日、女性は527±472 mg/日、それぞれ有意に不足していた(p<0.001)。
栄養補助食品は競技種目や性別により異なる傾向
栄養補助食品を使用しているアスリートが摂取する栄養成分は、炭水化物(86.0%)、ビタミン(81.3%)、ミネラル(74.5%)、蛋白質(70.4%)、マルチビタミン(61.8%)などか多く、PUFA(46.7%)、カフェイン(36.0%)クレアチン(24.6%)、カルニチン(25.4%)、ハーブサプリメント(19.0%)が続いた。
競技種目による相違を検討すると、長時間の持久力トレーニングをするアスリートは、トレーニング中にカフェインをよく使用していた(20.5%)。一方、嫌気性スポーツアスリートではトレーニング中のカフェイン使用が少なく(3.8%)、長時間の持久系アスリートや好気性と嫌気性の混合スポーツアスリート(19.6%)と比較して有意差がみられた(p=0.011)。
性別の比較では、蛋白質とカフェインのサプリメントは女性(それぞれ50.0%、8.3%)より男性(同68.2%、20.5%)がより多く使用していた(p=0.013,0.032)。一方で女性はトレーニング中にハーブ食品サプリメントを使用していた(26.7 vs 14.8%、p=0.050)。
食事および栄養補助食品の体組成への影響
女性の嫌気性スポーツアスリートで体脂肪率が高値
体脂肪率を競技種目および性別にみると、嫌気性スポーツでは男性が18.2±4.5%、女性は27.1±5.9%で、女性アスリートは過剰と考えられた。好気性と嫌気性の混合スポーツでは同順に、16.0±5.4%、22.5±3.6%、好気性スポーツでは16.1±4.1%、22.0±3.7%であり、これらは適当と考えられた。
食事からの蛋白質摂取量のみが除脂肪体重と影響する可能性
栄養補助食品(炭水化物、蛋白質、クレアチン、ビタミン、ミネラル、マルチビタミン、PUFA)の使用の有無で、除脂肪体重率に違いがあるかを検討したところ、統計的有意差は認められなかった。
一方、食事からの主要栄養素の摂取量と除脂肪体重率との相関を多変量回帰分析で解析した結果から、蛋白質の摂取量とは有意に近い相関が認められた(β=3.481、p=0.057)。
スポーツ栄養士は女性アスリートの栄養失調に留意を
以上の結果をもとに著者らは、「アスリートは、炭水化物、ビタミンD、カルシウム、多価不飽和脂肪酸の摂取量が少なく、脂質、飽和脂肪酸、コレステロールの摂取量が多く、蛋白質摂取量は個人差が大きい。スポーツ栄養士は、女性アスリートの栄養失調のリスクにも注意すべき。栄養補助食品は、食品からの栄養摂取不足を部分的に相殺した。それにもかかわらず、体組成に対する栄養補助食品の影響は、通常の食事に比較してわずかである。アスリートは、まず食生活の最適化を優先し、その後、サプリメントを使用する必要がある」と結論している。
文献情報
原題のタイトルは、「Actual Nutrition and Dietary Supplementation in Lithuanian Elite Athletes」。〔Medicina (Kaunas). 2020 May 20;56(5):E247〕
原文はこちら(MDPI)