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月経にはエネルギーが必要 過度の運動、食事摂取量の不足による月経不順の考察

2020年06月04日

月経とエネルギーの関連をテーマに取り上げたレビュー論文が「Clinical therapeutics」誌に掲載された。低体重や過度の運動、高ストレス状態による月経への影響を、文献レビューからまとめている。特に思春期の女性アスリートにおいて、運動負荷と低体重が相乗的に作用し、月経発来、月経周期に大きく影響することに注意を促している。要約し紹介する。

月経にはエネルギーが必要 過度の運動、食事摂取量の不足による月経不順の考察

摂食障害は青年期女性で3番目に多い慢性疾患

摂食障害は思春期から増加し青年期において女性では3番目に多い慢性疾患である。米国産科婦人科学会によると、痩身の女性アスリートの16~47%が摂食障害を起こしている。これは、一般人口における摂食障害の有病率0.5~10%に比べて高い。

神経性食欲不振症の死亡率は5~6%であり、最も死亡率の高い精神疾患と言える。また死亡率が高いだけでなく、心血管疾患、骨代謝異常、生殖の問題、消化器症状など、さまざまな合併症を来す。

多くの慢性病と同様に、摂食障害にも遺伝的傾向がみられる。神経性食欲不振症の遺伝率は33~84%、神経性過食症では28~83%と報告されている。

成長と食事

思春期のエストロゲンの産生にとって、バランスのとれた栄養は重要。12~18歳の活動的な女性の推定必要エネルギー量は、約2,200~2,400kcal/日である。また1日最低60分の運動が必要とされる。

適切な蛋白質摂取が最も重要な時期は、11~14歳の成長のピーク期だ。この時期に食事摂取が不安定な場合や、摂取制限をしている場合、または菜食主義の若者は、成長の遅れ、除脂肪体重の減少のリスクが高くなる。

身体が十分な栄養とエネルギーを欠いている状態では、思春期の間に予期される成熟と成長が達成されず、それ以降の人生にわたって健康に影響を与える。エネルギーの収支バランスこそ後からでも修正可能だが、それによってすべてが回復につながるわけではない。よって最適なエネルギー、栄養、運動について教育し、早期に介入することが不可欠だ。

体脂肪率と月経

機能性視床下部性無月経(Functional Hypothalamic Amenorrhea;FHA)は、低体重、過度の運動、ストレスから生じるもので、二次性無月経の約25~35%を占める。思春期のアスリートは、運動負荷と低体重が前記の思春期特有のストレスとの相乗的作用により、発症率が高くなる。

月経異常が現れやすい競技種目

月経発来には17%以上、正常な月経周期の維持には22%以上が必要最小体脂肪率とされている。競技種目別にみると、陸上、体操、フィギュアスケート、ダンスなどの選手は、痩せていることが有利と考えられ、機能性視床下部性無月経(FHA)の有病率が高い。反対に体重負荷がかからないスポーツである水泳は、痩せていることのメリットが少ないため、FHAのリスクは低い。

食欲関連ホルモン

脂肪細胞から分泌されるレプチンは低エネルギー状態では低く、体重増加と脂肪量の増加に伴いレプチンレベルが上昇し、月経が再開することが示されている。運動性無月経の女性では、レプチンは典型的な日内変動が認められない。

レプチンのほかに、胃底腺から分泌される食欲刺激ホルモンであるグレリンは、低体重状態で高レベルとなる。ペプチドYYは腸から分泌され食欲を抑制する。これら食欲に関連するホルモンの働きは、いまだ十分理解されていない点が少なくない。

骨代謝への影響

機能性視床下部性無月経(FHA)は、他の考え得る原因を除外した後、卵胞刺激ホルモン(Follicle Stimulating Hormone;FSH)、黄体形成ホルモン(Luteinizing Hormone;LH)、エストラジオール低値を伴う無月経で診断される。通常、これらの変化はストレス、運動、低体重などの要因に関連して生じる。

エストロゲンは破骨細胞と骨芽細胞の活性バランスをとることによって骨の恒常性に寄与する。よって低骨密度(骨量減少)は青年期女性で懸念事項となりやすい。

女性は18歳までに一生の最大総骨塩量の92%に到達する。デュアルエネルギーX線吸収測定(DEXA法)により、骨密度をZスコアで評価する。Zスコアが-1.0~-1.9の若年女性は低骨密度に該当し、Zスコアが-2を超えた場合は骨粗鬆症に該当する。エリート女性アスリートの約22~50%が低骨密度に該当すると報告されている。

女性アスリートトライアド

女性アスリートのトライアド(低エネルギー可用性、機能性視床下部性無月経〈FHA〉、骨粗鬆症の三主徴)に関する関連学会のコンセンサスでは、危険因子に基づく骨密度モニタリングを推奨している。1つ以上のハイリスク因子、または2つ以上の中程度リスク因子が存在する場合、DEXA法による評価が望まれる。

ハイリスク因子とは、(1)DSM-V(精神疾患診断マニュアル第5版)に基づく摂食障害の既往、(2)BMI17.5未満、(3)体重が85%未満へ減少、または直近1カ月で体重が10%減少、(4)16歳以上での初潮、(5)12カ月で月経が6回未満、(6)ストレス骨折または低エネルギー性非外傷性骨折の既往、(7)Zスコア-2未満。

中程度のリスク因子とは、(1)6カ月以上の食事の乱れの既往、(2)BMI17.5~18.5、体重が85%~90%へ減少、または直近1カ月で体重が5~10%減少、(3)15~16歳での初潮、(4)12カ月で月経が6~8回、(5)ストレス骨折の既往、(6)Zスコア-1~-2。

治療目標と再発抑制

低エネルギー可用性に伴うエストロゲン低レベル状態は、無月経、骨密度低下、腟および乳房の萎縮、不妊症、性交痛など、さまざまな症状となって現れる。FHAおよびその下流に該当するそれら種々の臨床症状の治療の目標は、体重の増加による月経の自然再開である。自然月経の再開は、視床下部の機能障害と低エストロゲン状態が解消されたことを示す指標と言える。月経の再開には、理想体重の90パーセンタイル以上が維持された場合で平均9カ月を要する。

低骨密度に対しては、体重負荷運動などの非薬理学的オプションを併用しつつ、カルシウム摂取量1,200?1,500mg/日を維持し、ビタミンD補給によりその血清レベルを32?50ng/mLに維持する。ホルモン製剤を使用する場合、経口よりも肝初回通過効果を受けない経皮製剤が望ましい。

医師、栄養士、家族のチームアプローチ

生活習慣の変更、体重増加、運動のアレンジには、内科医、栄養スタッフ、家族、コーチからなるチームアプローチが必要。思春期の食事の管理は、親が完全にコントロールすることから、健康的なアイデンティティーの確立にあわせて徐々に本人へと移行する。このアプローチは、体重増加率の改善と再発率の低下につながる。

これらの治療とチームベースの介入は、健康的な体重増加、ポジティブなエネルギーバランス、および月経の再開を可能とする。骨への悪影響は改善されるものの、完全に回復するとは限らない。

機能性視床下部性無月経(FHA)につながる生活習慣パターンを理解することは、将来の再発防止にも有益と考えられる。神経性食欲不振の再発率は35?65%、過食症は42%と高いことが報告されており、継続的な教育と再発した場合の早期認識・早期介入が、女性の生涯の健康にとって重要である。

文献情報

原題のタイトルは、「Menses Requires Energy: A Review of How Disordered Eating, Excessive Exercise, and High Stress Lead to Menstrual Irregularities」。〔Clin Ther. 2020 Mar;42(3):401-407〕
原文はこちら(Elsevier)

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