炭水化物のみ vs 炭水化物+蛋白質 運動能力に及ぼす影響をメタ解析で検討
炭水化物のみの摂取と、炭水化物に蛋白質を加えて摂取するのとでは、どちらが運動パフォーマンスを向上させるのかを、既報文献のメタ解析により検討した結果が報告された。摂取タイミング等の条件により有意差の有無は異なるが、総じて後者の有用性が示唆されたという結論だ。
炭水化物オンリーか、蛋白質を加えるべきか?
肝臓や筋肉のグリコーゲン貯蔵を増大させ、筋疲労の回復のための栄養介入には多くの研究が行われている。持久力系スポーツでは高炭水化物が推奨されることが多く、運動中または運動直後のできるだけ早い時間に炭水化物を摂取すると良いとされる。しかし、炭水化物のみが良いのか、蛋白質も加えたほうが良いのかという点については、研究により方法論的な相違があり、結果に一貫性がみられない。
そこで本論文の著者らは、これまでに報告された論文のシステマティックレビューとメタ解析によって両者の有効性を比較検討した。パフォーマンスは、サイクリングまたはランニングの疲労限界時間(Time to Exhaustion;TTE)またはタイムトライアル(Time trial;TT)で評価し、摂取のタイミングの影響や摂取エネルギー量の影響を検討するサブ解析も行った。
1950年以降に報告されたRCTをシステマティックレビュー
PubMedおよびEmbaseという文献データベースを用い、1950年1月1日から2019年10月31日までに発表された英語論文を対象として、「炭水化物」「蛋白質」「パフォーマンス」「TTE」「TT」「サイクリング」「ランニング」「アスリート」「健康」というキーワードで検索。
ヒットした1,568件から、無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)を抽出した後、2名の独立した査読者がスクリーニングを行い、最終的に43件の介入研究(研究対象者の合計326名)を含む30件のRCT論文が解析対象となった。これら研究の研究デザインは、1件が並行群間研究で、その他はすべてクロスオーバー研究だった。
全体解析とサブ解析の結果
メタ解析では、TTEやTTへの影響を、運動実施後に摂取した場合と運動中に摂取した場合など、いくつかの条件別に実施している。
結果をみてみよう。
TTEに及ぼす影響の全体解析
炭水化物のみを摂取した場合と、炭水化物と蛋白質を摂取した場合とで、TTEを比較検討したRCTは24件(n=256)該当した。メタ解析の結果、炭水化物単独よりも蛋白質も加えたときのほうがTTEは良好という結果で(平均差〈mean difference;MD〉;3.62,95%CI;0.44~6.79,(p=0.03)、効果量(Zスコア)は2.2だった。
運動中に摂取した場合のTTEに及ぼす影響
上記の24件の研究のうち、運動の最中に炭水化物のみを摂取した場合と、炭水化物と蛋白質を摂取した場合とで、TTEを比較検討したRCTが9件(n=121)報告されていた。メタ解析の結果、炭水化物単独よりも蛋白質も加えたときのほうがTTEは良好だった(MD;8.34,95%CI;3.52~13.53,p=0.0008,Z=3.34)。
回復(リカバー)中に摂取した場合のTTEに及ぼす影響
一方、運動後の回復(リカバー)として炭水化物のみを摂取した場合と、炭水化物と蛋白質を摂取した場合とで、TTEを比較検討したRCTは14件(n=130)報告されていた。メタ解析の結果、炭水化物単独よりも蛋白質も加えたときのほうが良好な傾向はみられたが、結果は有意でなかった(MD;1.55,95%;CI-3.06~6.16,p=0.51)。
続いて、運動後のリカバーとして摂取の影響を検討した上記の14件の研究を、運動終了から摂取までの時間の長短(8時間以内と8時間超)で分けた検討を行った。
運動終了後8時間以内の短期リカバーとして摂取した場合でTTEを比較検討したRCTは11件(n=93)報告されていた。結果は、両群に有意差は認められなかった(MD;-0.64,95%CI;-5.27~3.99,p=0.79)。
一方、運動終了後8時間を超えてからリカバーとして摂取した場合でTTEを比較検討したRCTは3件(n=37)報告されていた。結果は、炭水化物単独よりも蛋白質も加えたときのほうがTTEは良好だった(MD;10.59,95%CI;4.18~17.01,p=0.001,Z=3.24)。
エネルギー量が等しい場合と異なる場合とでのTTEに及ぼす影響
報告された研究には、摂取エネルギー量を両群でそろえて行った研究と、そうでないものがあった。エネルギー量が等しい場合で比較検討したRCTは6件(n=59)報告されていた。メタ解析の結果、両群に有意差は認められなかった(MD;1.27,95%CI;-4.73~7.26,p=0.68)。
一方、摂取エネルギー量を統一してない17件のRCT(n=189)では、炭水化物単独よりも蛋白質も加えたときのほうがTTEは良好という結果だった(MD;3.99,95%CI;0.12~7.87,p=0.04,Z=2.02)。
TTに及ぼす影響
炭水化物のみを摂取した場合と、炭水化物と蛋白質を摂取した場合とで、TTを比較検討したRCTは19件(n=190)該当した。メタ解析の結果、炭水化物単独よりも蛋白質も加えたときのほうがTTは良好という結果だった(MD;1.50,95%CI;0.63~2.37,p=0.0007,Z=3.39)。
炭水化物+蛋白質のほうがパフォーマンスへの影響が強いことが多い
以上より著者らは、「炭水化物と蛋白質の摂取が、炭水化物単独摂取と比較して、疲労限界時間(TTE)やタイムトライアル(TT)のパフォーマンスにメリットをもたらす。サブグループ解析から、運動終了後8時間以下のリカバリー時に摂取する場合、TTEに有意な差は見られないが、8時間以降に摂取した場合には、炭水化物と蛋白質の摂取による影響が有意に大きかった。また、摂取エネルギー量を一致させた場合は有意差はないが、蛋白質が適量追加された場合には有意差が認められる」と結論をまとめている。
なお、運動後のリカバリーは早いほうが良いとされるが、このメタ解析では8時間以内に摂取した場合は炭水化物単独と蛋白質を追加した場合とで有意差がなく、8時間以上経過してから摂取した場合に群間差が認められた。これについて、著者らは長期的なリカバリー効果を検討したのが3件の研究のみであることを考慮する必要があると述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Effect of Ingesting Carbohydrate and Proteins on Athletic Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials」。〔Nutrients. 2020 May 20;12(5):E1483〕
原文はこちら(MDPI)