高身長を規定するのは良質の蛋白摂取と出生率の低さ、152カ国・地域のデータから判明
成人の身長を左右する因子として、乳製品や肉類など良質の蛋白質の摂取と、合計特殊出生率の影響が大きいことが、世界152の国や地域のデータを解析した結果として報告された。反対に、米蛋白質の摂取量が多いことは、成人の身長と負の相関があるという。
この研究は、国際連合食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations;FAO)のデータベースからの47の食品平均摂取量、および、国連開発計画(United Nations Development Programme;UNDP)や世界銀行のデータベースからの7つの社会経済指標と、それぞれの国や地域の成人の平均身長との関連を検討したもの。人口が5万人を超える主権国家および地域のデータを対象とし、各国・地域の健康調査や人口統計、学校統計などの公衆衛生データ、徴兵時の記録なども利用した。
人類の平均身長
世界の男性の平均身長は172.9cm
データ解析の結果、世界152カ国・地域の男性の平均身長は172.9cm、中央値は173.0cmであることがわかった。大陸別の平均値はヨーロッパ大陸178.1cm、北アフリカ・アジア・オセアニア170.0cm、アメリカ171.9cmだった。男性の平均身長が最も高い国はオランダで183.8cm、最も低い国は東ティモールで160.0cmだった。
世界の女性の平均身長は160.4cm
データ解析の結果、世界149カ国・地域の女性(調査データの得られた対象国・地域は男性より少ない)の平均身長は160.4cm、中央値は160.6cmであることがわかった。大陸別の平均値はヨーロッパ大陸165.0cm、北アフリカ・アジア・オセアニアは158.0cm、アメリカ159.6cmだった。女性の平均身長が最も高い国はオランダで170.5cm、最も低い国はグアテマラで148.7cmだった。
社会経済指標と身長の関係
男性の身長と1人あたりGDP、GNI
成人の身長は、1人あたり国内総生産(Gross Domestic Product;GDP)や国民総所得(Gross National Income;GNI)と、ほぼ完全な正相関がみられた(いずれもr=0.99、p<0.001)。ただし、男性の身長との相関は女性よりも低く、その理由は、産油国は1人あたりGDPやGNIが高いものの実際には国民の食事の質は低いためと考えられた。
男性の身長と合計特殊出生率
合計特殊出生率(女性1人が生涯で出産する子どもの数)は男性の身長と強い負の相関があり(r=-0.70、p<0.001)、合計特殊出生率が高い、つまり兄弟が多い人ほど身長が低いという関係がみられた。
男性の身長と人間開発指数(HDI)
平均余命、教育水準、1人あたりGDPなどから計算される人間的生活の尺度「人間開発指数(Human Development Index;HDI)」と男性の身長の間には強固な正の相関が認められた(r=0.76、p<0.001)。
食品摂取量と身長の関係
食品摂取量と身長の関連は、前記の社会経済指標関連因子とは別に検討された。
男性の身長と正相関する乳蛋白質・動物性蛋白質
男性の身長と強い正の相関が認められた栄養関連因子は、乳蛋白質摂取量(r=0.75、p<0.001)、総蛋白摂取量(r=0.71、p<0.001)、総摂取エネルギー量(r=0.70、p<0.001)だった。相関係数が0.5以上のその他の因子は、じゃがいも蛋白質(r=0.58、p<0.001)、豚肉蛋白質(r=0.57、p<0.001)、卵蛋白質(r=0.52、p<0.001)だった。
男性の身長と逆相関する植物性蛋白質
一方、男性の身長と逆相関する栄養関連因子として、米蛋白質(r=-0.67、p<0.001)が抽出され、同じ植物性蛋白質であるとうもろこし蛋白質(r=-0.29、p=0.001)より強力な負の相関因子だった。豆類の蛋白質の総摂取量の相関はr=-0.31(p<0.001)だった。
背景に乳糖不耐症や宗教上の理由
このように、乳蛋白質や動物性蛋白質の摂取量は男性の身長と正相関し、それらの摂取量が少なく植物性蛋白質の摂取量か多いことは男性の身長と逆相関した。このような現象の背景には、穀類を主食とする東アジアの人種・民族は乳糖不耐症が多いこと、北アフリカからアジアのイスラム国家では豚肉を摂取しないことなどが関係していると考えられた。
なお、魚蛋白質の摂取量と男性の身長には有意な関連がみられなかった(r=0.04、p=0.65)。
重回帰分析の結果からわかること
この研究で男性の身長との関連が検討された47の食料品摂取量と7つの社会経済指標を統合し重回帰分析を行ったところ、1人あたりGDPや人間開発指数などは有意性が消失した。有意な因子として残ったのは、正相関するものは豚肉・卵・じゃがかいも蛋白質摂取量(r=0.31、p<0.001)のみ、逆相関するものは米・とうもろこし蛋白質摂取量(r=-0.54、p<0.001)と合計特殊出生率(r=-0.35、p<0.001)の2項目だった。
女性の身長との関連因子
女性の身長と関連する因子は男性とほぼ同様だったが、相関係数は男性よりも低かった。これは、女性の身長が男性よりも低いことによるものと考えられた。
男性と女性の身長差
男性と女性の身長の差は12.4cmで、比は1.077だった。これを大陸別にみると、ヨーロッパでは13.3cm(比は1.079)、北アフリカ、アジア、オセアニアは12.0cm(同1.076)、アメリカ12.3cm(同1.077)だった。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional and Socio-Economic Predictors of Adult Height in 152 World Populations」。〔Econ Hum Biol,37,100848 2020 Feb 28〕
原文はこちら(Elsevier)