牛乳の健康効果を科学的に考察 国や食習慣、年齢、病態により異なる影響
医学界のトップジャーナル「New England Journal of Medicine」誌に、「Milk and Health」というタイトルのレビュー論文が掲載された。
牛やその他の人間以外の哺乳類の乳製品は、古くから摂取されてきており、骨折リスクの軽減などのためにも摂取が推奨されている。ただし、乳製品を多く摂取することによる健康上の利点は確立されているとは言い切れず、悪影響か存在する可能性についての検証も十分ではない。
こうした背景から、本論文では牛乳摂取と健康の関連を、成長、骨代謝、肥満、心血管疾患、糖尿病、がん、アレルギー、死亡率、環境への影響などの観点で考察している。
乳製品の特徴
牛乳の機能は哺乳類へ栄養を与えることであり、成長促進に必要なすべての必須栄養素と複数の同化ホルモンを含んでいる。また乳牛は、より高いインスリン様成長因子-I(IGF-I)を生産するように飼育されている。
また牛乳の加工も多くの潜在的な健康への影響力をもっている。低温殺菌により、ブルセラ症、結核、その他の感染リスクは低下し、熟成させたチーズやヨーグルトなどを製造するための発酵による組成の変化も健康への影響力をもつ。また、低脂肪製品、ホエイ蛋白なども供給されている。
牛乳摂取と成長促進
母乳を利用できない場合、牛乳は乳幼児期に重要な栄養源となる。食事による栄養が十分であっても牛乳の摂取は成長を促進させる。この成長促進作用が、特定のアミノ酸、同化ホルモンによって引き起こされるものなのかどうかは明確でない。
牛乳には蛋白質の品質を左右する分岐鎖アミノ酸であるロイシン、イソロイシン、バリンが大量に含まれている。これらアミノ酸を摂取することで、成長ホルモン作用を媒介するIGF-Iの血中濃度が上昇し、アポトーシスを阻害するラパマイシン(mTOR)経路を活性化する。
牛乳と骨の健康
牛乳摂取が推奨される主要な根拠は、骨の健康に必要なカルシウム要件を満たすことだ。ただし、牛乳または乳製品の摂取量と股関節骨折のリスクは関連しないとのメタ解析の報告もあり、股関節骨折の予防という点では乳製品摂取量の増加のメリットは積極的には指示されない。
牛乳は成長を促進するが、背が高いことによって股関節や他の部位の骨折リスクが強く関連してくる。男性では思春期の牛乳摂取量が晩年の股関節骨折のリスクと関連し、女性では関連がみられないとのデータもある。牛乳消費量が多い国ではカルシウム摂取量が多いにもかかわらず骨折発生率が高いことが多いが、背景にはこのような関連が存在する可能性もある。
牛乳や乳製品と体重
牛乳は体重管理に有益であると言われることが多いが、無作為化試験のメタアナリシスの結果からはそれは証明されなかった。一方、ヨーグルトの摂取は体重増加率の減少と関連していた。ヨーグルトなどの発酵乳製品は、腸内微生物叢に影響し健康上の利益をもたらす可能性がある。ただし疫学研究において、ヨーグルトを摂取する人々に一般的にみられる健康的なライフスタイルによる交絡を排除することは困難である。
牛乳と血圧、脂質、心血管疾患
牛乳はカリウム含有量が比較的高いため、牛乳の摂取量を増やすと血圧が低下する可能性が示唆されている。ただしこれも比較対象次第という面があり、健康的な飲み物との比較で有意性を示すにはハードルがある。一方で比較対照が加糖飲料であれば有意で明確な効果が得られるであろう。
脂質に関しては一般的に、全脂肪代替品ではなく低脂肪乳製品の消費が推奨される。しかし前向きコホート研究では、全乳も低脂肪乳も冠動脈性心疾患や脳卒中の発生率および死亡率と明らかな関連は報告されていない。他の栄養素の研究と同様に、牛乳の脂質と心血管疾患のリスクとの関連は、比較対照食品に依存する。炭水化物摂取量が多い食習慣で低所得国に住んでいる人にとって、乳製品の適度な摂取は、血糖負荷を減らすことによって心血管疾患を減らすかもしれない。
牛乳と糖尿病
乳蛋白質と膵島細胞の間の交差反応が生じる可能性が指摘されており、牛乳は1型糖尿病の誘因になり得ると仮定されている。しかし無作為化試験の結果はそれを証明していない。1型糖尿病のリスクとしての牛乳摂取量の関係は明確でない。一方、一部のコホート研究では、乳製品の摂取が2型糖尿病リスク低下と関連していた。
牛乳とがん
乳製品の摂取は乳がん、前立腺がん、その他のがんの発生率と相関がみられる。対照的に、結腸直腸癌のリスクとは逆相関がみられる。既存の報告の解釈上の主な制限は、ほとんどすべての前向き研究が中年以降の人を対象に開始されている点だ。青年期の食生活との関連を調査した研究では、牛乳の摂取量は乳がんの将来のリスクとは無関係であることが示された。
牛乳とアレルギー、乳糖不耐症
牛乳蛋白質に対するアレルギーは、乳児の最大4%に影響を及ぼし、栄養上の問題を引き起こす可能性がある。また、乳頭不耐症の子どもを対象とした二重盲検クロスオーバー研究では、豆乳を摂取したときに症状が改善し、牛乳を摂取したときは不変だった。
牛乳と全死亡率
29のコホート研究を含むメタアナリシスでは、牛乳の摂取量や乳製品の総摂取量は、全死亡率と関連していなかった。主要蛋白源での比較では、乳製品の摂取は加工赤身肉や卵の消費よりも死亡率が低く、未加工の赤身肉、家禽、魚の摂取と同等であり、植物性蛋白質よりは高かった。
有機牛乳
牛乳に農薬や抗生物質の残留物が存在することへの懸念から、有機牛乳を推奨する動きがある。有機牛乳はn-3系多価不飽和脂肪酸とベータカロチンをわずかに多く含む可能性がある。
環境への影響
食品は、その生産過程で環境への影響が生じる。穀物由来の食品と蛋白質の単位当たりの環境負荷を考慮した場合、牛乳は5〜10倍影響が大きい可能性がある。
文献情報
原題のタイトルは、「Milk and Health」。〔N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):644-654〕
原文はこちら(Massachusetts Medical Society)