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加水分解されたホエイタンパク質は、未加工ホエイタンパク質より筋肉のタンパク質合成をより強く刺激する

2020年02月26日

筋肉量は、タンパク質の合成と分解のバランスにより変動する。食事性タンパク質、とくに必須アミノ酸(essential amino acids;EAA)は、ラパマイシン複合体1(mechanistic target of rapamycin complex 1;mTORC1)経路の活性化を介してタンパク質合成を刺激することが示されている。EAAの中でも分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)は、タンパク質合成の活性化に関与するアミノ酸とされ、とくにロイシンの作用が最も強力であると考えられている。

加水分解されたホエイタンパク質は、未加工ホエイタンパク質より筋肉のタンパク質合成をより強く刺激する

ホエイタンパク質(乳清タンパク質/牛乳・乳製品に含まれるタンパク質)の摂取後は血中アミノ酸濃度が上昇し筋タンパク質の合成を促進するが、とくにカゼインは消化吸収が穏やかでタンパク合成をより長時間促進することが知られている。このことから、タンパク質摂取後の筋タンパク質同化作用は、摂取するタンパク質の組成や消化吸収速度によって異なると言える。近年の研究では、加水分解されたホエイタンパク質(whey protein hydrolysate;WPH)は、未加工のホエイタンパク質(intact whey protein;WHEY)に比較し低用量で筋タンパク質合成を刺激することが報告されている。

よってWPHは、サルコペニアを含む筋肉の分解・異化が亢進した状態において筋骨格におけるタンパク質合成を促す重要な栄養補助食品となる可能性が考えられる。しかしWPHとWHEYの効果を直接比較した報告はまだみられない。そこで本検討では、WPHとWHEYの両者が同レベルの低用量で用いられた場合、筋タンパク質合成作用は前者が勝るとの仮定のもと、摂取後の血中アミノ酸濃度、mTORC1シグナル伝達、および筋タンパク質合成応答を比較した。

健常男性対象クロスオーバー試験で検討

被験者は米国テキサス州の一般市民から募集された10名の若い健康な男性。病的肥満、糖尿病、がん、重大な心血管疾患、腎・肝・肺疾患の既往者、および活動性感染症のある者、日常的にタンパク質サプリメントを用いている者は除外した。主な背景は、年齢28.7±3.6歳、BMI25.5±2.9歳、体脂肪23.0±6.3%。

検討方法は無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、全体を5名ずつの2群に分け、1群にはWPH、WHEYの順、他の1群にはその逆の順で試験を行った。2回の検討の間には4~6週間の間隔をおいた。被験者には体重あたりタンパク質量として0.08g相当のWPHまたはWHEYを300mLの水に溶解させた水溶液として摂取させた。

WPHとWHEYはともに筋タンパク合成を促進

それでは、検討の結果をみてみよう。

血中アミノ酸濃度

血中のアミノ酸(BCAAおよびフェニルアラニン)濃度は、WPHとWHEYの摂取により、バリンが摂取後60分間、ロイシンが90分間、イソロイシンが60分間、フェニルアラニンが45分間、それぞれベースラインより有意に上昇した。これらの血中アミノ酸濃度は、どの時点においても2条件間に有意差はなかった。ただしバリンについては、非有意ながらWPHがWHEYに比し、摂取15分後に若干高値となる傾向がみられた(p=0.06)。

血流、血糖、乳酸、インスリン

血流速度はWPH、WHEY摂取後に変化せず、条件間の差もみられなかった。 血糖値は摂取後から徐々に低下し、180分後にベースライン時より有意に低下した。ただし条件間の差はなかった。 乳酸値は摂取から両条件で徐々に低下した。120分および150分後では、WPHでのみ有意な低下が認められた(ベースライン時からの変化量:-21.6±4.8 vs -17.1±6.8%)。 インスリン値は摂取30分後まで両条件で有意に上昇した。条件間の差はなかった。

ロイシン

ロイシン濃度は摂取後60分後に両条件ともに有意に増加したが、180分後ではWHEY条件のみわずかではあるが有意な上昇が観察された。下肢へのロイシン輸送量(血流量とロイシン濃度の積)は、両条件で摂取60分後に同等の有意な上昇が認められ、180分後にベースライン値に戻った。筋肉へのロイシン輸送量は、両条件で摂取後60分後に上昇したが、その上昇幅はWPH条件において有意に大きかった(WHEYに比較しp<0.05)。筋肉へのロイシン輸送速度は、両条件ともに60分後はベースライン時より有意に上昇していたが、180分後はWPH条件でのみ有意な上昇が維持されていた。

mTORC1シグナル

・Aktのリン酸化は、摂取後60分後に両条件ともに有意に増加していた。
・S6K1のリン酸化は、摂取後60分および180分後に、両条件ともに有意に増加していた。
・rpS6のリン酸化は、WPH条件のみ60分後に有意に増加していた。
・4E-BP1のリン酸化は、WHEY条件では180分後に有意な低下が認められた。
・eEF2のリン酸化に関しては、両条件ともに有意な変化が認められなかった。

筋タンパク質合成速度及びフェニルアラニン動態

摂取180分後の筋タンパク質合成速度は両条件で増加し、条件間の有意差はなかった。動脈、静脈および筋肉内のフェニルアラニン濃度は、条件間で有意差はなかった。動脈および静脈レベルは摂取60分後に両条件で上昇していた。

摂取後のフェニルアラニン動態からタンパク質利用率を測定すると、WPHおよびWHEYの摂取60分後においては両条件でタンパク質合成のためのアミノ酸利用率上昇が認められた。ただし180分後においてはWPH条件でのみ、引き続き利用率の有意な上昇が観察された。筋タンパク質分解指数は摂取後、両条件で経時的に上昇したが、有意な上昇はWPH条件の180分値でのみ認められた。

WPHは少量で筋肉へのロイシン輸送を増やし、
mTORC1を活性化して筋合成を刺激する

以上一連の結果から、著者らは「加水分解されたに乳清タンパク摂取が筋肉へのアミノ酸輸送、mTORC1シグナル伝達の活性化、および筋タンパク質合成の増加につながる。この働きは未加工のホエイタンパク質摂取後に観察された刺激と類似していた。興味深い点は、現在使用されているタンパク質または必須アミノ酸サプリメントの投与量と比較し、この反応が比較的少ない投与量で発生したことである」と述べている。

また、筋タンパク質合成作用はWPHとWHEYの間で全体的には類似していたが、ロイシン濃度やフェニルアラニン動態にみられた相違から「加水分解された乳清タンパクに含まれる生理活性ペプチドは、未加工のタンパク質源に比べて容易に消化および吸収され、筋肉のタンパク質合成を改善する栄養戦略である」と結論付けている。

文献情報

原題のタイトルは、「Whey Protein Hydrolysate Increases Amino Acid Uptake, mTORC1 Signaling, and Protein Synthesis in Skeletal Muscle of Healthy Young Men in a Randomized Crossover Trial」。〔J Nutr. 2019 Jul 1;149(7):1149-1158〕

原文はこちら(PubMed)

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