趣味として運動を楽しむ人に向けたスポーツ栄養戦略のポイント
レクリエーションスポーツ(趣味として楽しむ運動)への参加は個人に多くの潜在的なメリットをもたらす。ただし、運動量が増加した場合や食事摂取量が制限されている場合は、スポーツと栄養の専門家が好ましいトレーニングと競技パフォーマンスの最適化のための栄養戦略をサポートする必要がある。栄養戦略のポイントについて、オーストラリアのスポーツ栄養士がまとめたレビューが総合診療ジャーナル誌に掲載された。
「フードファースト」アプローチ
アスリートの栄養需要は、主にトレーニング負荷(日々のトレーニング強度・頻度・期間)、スポーツの種類、および体重によって決まる。アスリートは食事摂取量を管理して、パフォーマンスとトレーニングを最適化することが推奨される。最近、エネルギー摂取量とトレーニング負荷の増加を一致させる「フードファースト」アプローチをサポートするリソース※が開発された。
このようなリソースは、毎日のトレーニング要件を満たすために食事摂取量が不足するリスクがあるレクリエーションアスリート(趣味として運動を楽しんでいる人)、とくに持久力系、審美的スポーツ、ウェイトスポーツ、および思春期のアスリートの教育に効果を発揮するだろう。毎日のトレーニング量の変動を食事で補完するよりも、やせることを優先する栄養戦略は、疾患や怪我などのアクシデントへの脆弱性につながる。
エネルギー可用性の低下を評価する
「エネルギー可用性」の概念は、不十分なエネルギー摂取によるアスリートへの影響を理解するのに役立つ。簡単に言えば、エネルギー可用性とは、〔エネルギー摂取量-エネルギー消費量〕である。アスリートの相対的なエネルギー不足は、代謝、月経機能、骨の健康、免疫、蛋白質合成および心血管疾患のリスクにつながる。
女性において月経周期の異常または無月経は明らかにエネルギー可用性が不足していることの臨床症状である。ただし、女性の無月経、あるいは男性の低テストステロン症を引き起こす「閾値」は存在しない。そこで種々の臨床マーカーと症状からエネルギー可用性を判定する指標が必要となる。以下はそのために開発されたものの1つ。
- グリーンフラッグ(低リスクであり、スポーツへの完全な参加が可能):
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- 適切なエネルギー可用性がある健康的な食習慣
- 内分泌代謝機能が正常
- 年齢や民族・スポーツ競技にみあった骨密度
- 筋骨格系に異常がない
- イエローフラッグ(中等度のリスクがあり、管理下でのスポーツ参加):
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- 1カ月で5~10%の体重減少
- 若年者では予想される成長・発達に達していないこと
- 月経異常
- 骨密度が-1DS未満
- チームメンバーに悪影響を与える摂食行動
- 治療コンプライアンス不良
- レッドフラッグ(スポーツへの参加を中止):
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- 深刻な摂食障害
- 低エネルギー可用性に関連する深刻な状態
- 脱水や生命にかかわる極端な減量
骨と鉄
レクリエーションアスリートの低エネルギー可用性で生じる確率が最も高い2つの症状は、骨へのストレスと鉄分不足に関連している。特に女性において急速に影響が進展し、わずか5日間の低エネルギー可用性状態で骨蛋白質合成および石灰化にマイナスの影響を与えることが報告されている。
鉄に関しては、アスリートの鉄欠乏状態を評価する以下の指標が存在する。女性アスリートの約15〜35%、男性アスリートの3〜11%がステージ1の貯蔵鉄消耗状態であるとの報告もある。
- 貯蔵鉄消耗:
- 血清フェリチン35μg/L未満、ヘモグロビン115g/L以上、トランスフェリン飽和度16%以上。骨髄、肝臓、脾臓の鉄が枯渇
- 早期の機能性鉄欠乏:
- 血清フェリチン20μg/L未満、ヘモグロビン115g/L以上、トランスフェリン飽和度16%未満。赤血球への鉄供給が減少することで赤血球産生が減少する
- 鉄欠乏性貧血:
- 血清フェリチン12μg/L未満、ヘモグロビン115g/L未満、トランスフェリン飽和度16%未満。ヘモグロビンの産生が低下し貧血が起きる
スポーツ食品とサプリメント
「フードファースト」ポリシーがアスリートの栄養計画の基礎ではあるが、既に栄養不足が生じている時、あるいは消費エネルギー量にみあった量を摂取することが非現実的である時、アスリートの栄養所要量を満たすためにスポーツ食品やサプリメントが必要なことがある。
サプリメントに関しては、科学的エビデンスに従い以下のように4つのカテゴリーA~Dに分類する考え方がある。カテゴリーAには、カフェイン、重炭酸塩、βアラニン、硝酸塩、クレアチン、グリセロールが含まれる。ただし、それらも特定のイベントやシーン、個人といった特性に限られた範囲で有効と考えられる。例えば、繰り返しのスプリント力が要求される競技、遠征時や酷暑、高地などの厳しい環境、ベジタリアンなど食事の選択肢が制限されている個人などである。
理想としては、各アスリートはコーチやスポーツ栄養の専門家と協力し、パフォーマンスを最適化するために個別化され、かつ実用的な栄養プランを作成すべきであろう。
- カテゴリーA:
- エビデンスに基づいたプロトコルにおいて、特定の状況での使用が支持される。例)スポーツ食品・ドリンク、医療補助食品、パフォーマンス補助食品
- カテゴリーB:
- さらなる研究が必要とされる段階であり、研究プロトコルまたはモニタリングの下での使用は検討可。例)コラーゲンサポート製品、β-メチル酪酸(HMB)、ケトンサプリメント、ケルセチン
- カテゴリーC:
- 有用性に関するエビデンスがほとんどない。A、B、Dのカテゴリーにないもの
- カテゴリーD:
- 禁止されている、またはドーピングリスクがあるもの。例)プロホルモン、β2刺激薬、アンドロゲン受容体モジュレーター
文献情報
原題のタイトルは、「Sports nutrition for the recreational athlete」。〔Aust J Gen Pract. 2020 Jan-Feb;49(1-2):17-22〕