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お酒好きはヨーグルトを食べない? 日本人の食習慣と遺伝子の関係が明らかに

さまざまな病気の発症・進行に遺伝子が関与していることが明らかになっている。その一方で、食生活が多くの病気の発症・進行に関係があり、特に生活習慣病の治療や予防においては食習慣の改善が欠かせない。ところがその食習慣もまた遺伝子の関与があることが明らかになった。理化学研究所と大阪大学および東京大学の共同研究グループが、日本人約16万人の遺伝情報を解析した結果で、英国の科学雑誌「Nature Human Behaviour」に論文が掲載されるとともに、理化学研究所のサイトにニュースリリースが掲載された。

お酒好きはヨーグルトを食べない? 日本人の食習慣と遺伝子の関係が明らかに

遺伝子多型は多くの食習慣に関連している

食習慣は、文化や生活様式、環境、民族性といった因子によって変化する。これまでの研究でアルコール依存に関しては、ある集団に特有の遺伝的背景が関与していることがわかっている。しかしアルコール以外にもさまざまな食品の摂取量に影響を及ぼす遺伝因子が報告されてきており、従来考えられていたよりもはるかに多くの食習慣に遺伝的背景が関与していることが示されている。

今回、研究グループは、全国規模の病因ベースのゲノムコホート(ある集団の遺伝情報と疾患などとの関連性を解明するための研究)である「バイオバンク・ジャパン※1」のデータを用いて、食品の摂取頻度と食習慣に関するゲノムワイド関連解析(genome wide association study;GWAS※2)を行った。

16万5,084人の遺伝情報と飲酒(飲酒歴の有無、1週間の飲酒量)、飲料(コーヒー、緑茶、牛乳)の摂取頻度、食品(ヨーグルト、チーズ、納豆、豆腐、魚、小魚、野菜、肉)の摂取頻度など、13項目の食習慣情報の関連を検討した結果、ゲノム上の9カ所にいずれかの食習慣と関連のある領域を同定し、うち5カ所の領域において述べ10個の項目との関連を新たに発見した。とくに12番染色体上のALDH2遺伝子※3のアミノ酸配列を変化させる遺伝子多型※4(rs671)が、飲酒歴・飲酒量、コーヒー、緑茶、牛乳、ヨーグルト、納豆、豆腐、魚の摂取習慣という広範な食習慣と関連していることが明らかになった(図1)。

図1 食習慣情報を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果

食習慣情報を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果

横軸は染色体上の位置、縦軸は関連の強さ。遺伝子名の付いた点は、それぞれ1つの遺伝子多型を示している。赤色で示された遺伝領域が研究全体のレベルで有意な領域、オレンジ色で示された領域がゲノムワイドレベルで有意な領域。遺伝子は、領域内で最も関連の強かった遺伝子多型の近傍に位置しているものを示している。12番染色体上のALDH2遺伝子のアミノ酸配列を変化させる遺伝子多型(rs671)は、広範な食習慣(飲酒歴・飲酒量、コーヒー、緑茶、牛乳、ヨーグルト、納豆、豆腐、魚)と関連を持つことがわかった。
(出典:理化学研究所)

食品の好みに関連する15の有意な組み合わせ

次に、さまざまな食品の摂取習慣と遺伝的背景の共有関係(遺伝学的相関※5)を調べたところ、計78組の項目の組み合わせのうち15の組み合わせで、統計学的に有意な正の遺伝的相関が認められた(図2)。その一方で、飲酒量とヨーグルト摂取頻度は、負の遺伝的相関がみられた。つまり、飲酒量の多い人はヨーグルトをあまり食べず、飲酒量が少ない人はヨーグルトを多く食べるという、遺伝的背景を共有している。

また、同じ成分(例えば、大豆から作った豆腐と納豆、牛乳から作ったチーズとヨーグルトなど)から作られた食品の摂取頻度に、強い正の遺伝的相関が観察された。つまり、豆腐をよく食べる人と納豆をよく食べる人、また、チーズをよく食べる人とヨーグルトをよく食べる人は、それぞれ遺伝的背景を共有している。

図2 食習慣の間での遺伝学的相関

食習慣の間での遺伝学的相関

食生活習慣GWAS結果を用いて各項目間での遺伝学的相関を評価したところ、15組の組み合わせで統計学的に有意な正の相関があった(図中の黒い点)。青色は正の相関、赤色はその負の相関を示している。右側のバー数値は相関係数(濃いほど強い相関)を示している。飲酒量とヨーグルト摂取頻度は負の遺伝的相関があり、豆腐と納豆の摂取頻度、およびチーズとヨーグルト摂取震度は、それぞれ強い正の遺伝的相関がある。
(出典:理化学研究所)

食習慣と好発疾患の双方に関連する遺伝的背景

これまでの疫学的研究から、食習慣がさまざまな病気の発症や進行に関連していることがわかっている。今回の研究では、その食習慣が病気と遺伝的構造を共有しているか否かを明らかにするため、食習慣と関連する遺伝子多型がバイオバンク・ジャパンの臨床表現型に含まれる45種類の病気、および58種類の臨床検査値と関連するかを調べた。

その結果、食習慣のいずれかの項目で有意な関連が示されていた9個の遺伝子多型のうち5個が、14種類の病気、および39種類の臨床検査値の少なくとも1つと関連していた(図3)。とくに多くの食生活との関連がみられたALDH2遺伝子の遺伝子多型(rs671)は、心筋梗塞や2型糖尿病など12種類の病気、およびHDL-Cや白血球数など29種類の臨床検査値に対する広い多面的関連を持つことが明らかになった。このrs671はアジア人集団のみに認められる遺伝子多型で、集団特異的な遺伝的背景と食生活・病気との関わりを示唆する結果と考えられる。

図3 食習慣関連領域とさまざまな病気や検査値との関連

食習慣関連領域とさまざまな病気や検査値との関連

縦方向に食習慣と関連のあった遺伝子座を近傍遺伝子名で示してある。横方向は病気(上)と臨床検査値(下)を示している。各マスの色は関連の強さを示しており、ピンク、黄色、緑色になっている組み合わせが、統計的に有意な関連があったもの。領域ごとの関連の合計数が、一番右に棒グラフとして示してある。9個の遺伝子多型のうち5個(ALDH2、ADH1B、GCKR、AHR、ADORA2A-AS1)が、14種類の病気および39種類の臨床検査値の少なくとも1つと関連している。とくに、ALDH2遺伝子の遺伝子多型(rs671)が、12種類の病気と29種類の臨床検査値に関連している。
(出典:理化学研究所)

食習慣や病気のかかりやすさの個人差を遺伝子から解明する

以上の結果から研究グループでは、「本研究は日本人の食習慣に影響する遺伝的背景を理解するのに寄与するもの。全貌が明らかになっていなかった食習慣の個人差と疾患発症や健康寿命との関わりの解明が進むと期待できる。また、遺伝学的影響による食習慣と病気のリスクや予後の予測、個別化医療の実現に貢献すると考えられる」とまとめている。

※1:バイオバンク・ジャパン
約27万人の日本人を対象とした生体試料バイオバンク。日本医療研究開発機構(AMED)の「オーダーメイド医療の実現プログラム」を通じて実施され、ゲノムDNAや血清サンプルを臨床情報とともに収集し、研究者へのデータ提供や分譲を行っている。

※2:ゲノムワイド関連解析(GWAS)
病気や身長・体重などに影響がある遺伝的変異を、ゲノム全域にわたって網羅的に検索する遺伝統計的手法。

※3:ALDH2遺伝子
アルコール代謝によって生じるアセトアルデヒドを酢酸に分解する代謝酵素をコードする遺伝子の一つ。ALDH2遺伝子上の遺伝子多型(rs671)は東アジア人の集団に特異的に存在することが知られている。

※4:遺伝子多型
ゲノム上の個人間の違いのうち、集団での頻度が1%以上のもの。

※5:遺伝学的相関
二つの形質の遺伝的構造がどの程度類似しているかを示す指標。一般的には、GWASにより計算される遺伝的バリアントの効果量の相関として定義される。 〔理化学研究所のサイトより〕

プレスリリース

日本人の食習慣に関連する遺伝的特徴を解明(理化学研究所)

文献情報

原題のタイトルは、「GWAS of 165,084 Japanese individuals identified nine loci associated with dietary habits」。〔Nat Hum Behav. 2020 Jan 20〕

原文はこちら(Springer Nature)

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