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運動生理学とスポーツ栄養のための血液バイオマーカー

血液バイオマーカーは、アスリートの栄養管理、トレーニング負荷の調整といったパフォーマンス向上戦略、および、怪我や病気の回避に役立つ可能性がある。ただし、バイオマーカーは個人差が存在し、また現段階ではアスリートが応用する際に参照可能なデータが限られている。その一方でこの分野の研究は急速に進化しており、将来的にはアスリートへの適用が拡大すると考えられるものも多い。このレビューは現時点での血液バイオマーカーの位置づけと実用性、限界点をまとめたもの。以下はその抜粋。

運動生理学とスポーツ栄養のための血液バイオマーカー

イントロダクション

血液バイオマーカーはスクリーニングとモニタリングという2つの目的で利用できる。各バイオマーカーからは1つ以上の生理学的な情報を得られる。検体の採取から測定・解析、各アスリートへの適用に際しては、医師、統計家、栄養士、トレーナーなど多職種による学際的な活動が必要となる。

アスリートの血液検査のリミテーション

少量の失血は数時間で補充されることがわかっている。しかし大量の血液を採血することは明らかに有害であろうことから、最小量の採血に抑えるべきだろう。持久系アスリートを対象に平均180mLの血液を抜いた26日間のシミュレーション研究では、有酸素パフォーマンスの向上が相殺された。これは、トレーニングの効果が失血によって失われる可能性を示している。

このほか、運動負荷に対する反応の個人差があり解釈が難しいことがあることや、測定コストの負担など、実際的なハードルが存在する。

栄養管理目的のバイオマーカーの具体例

赤血球脂肪酸に占めるEPAとDHAの割合を示すオメガ3インデックスは、アスリートにも使われ始めている。大学生での検討で、オメガ3インデックスが4%を超える者はそれ未満の者に比し、偏心運動後の筋肉痛が明らかに軽く、炎症を表すC反応性蛋白濃度が低く、そして気分状態のプロファイルが良好だった。

血清カロテノイドは、野菜や果物の摂取量の評価に利用できる。野菜と果物の摂取を制限するアスリート対象の実験の結果、血清カロテノイド濃度が大幅に減少することが確認されている。さらにアスリートの野菜、果物、ナッツ類の摂取量を増やすと、血清カロテノイド濃度が大幅に増加し、パフォーマンスの向上にまで寄与する可能性があることも報告されている。

アミノ酸のバイオマーカーとして、グルタミンとグルタミン酸、およびその両者の比が注目されている。例えば1992年のバルセロナオリンピックの前の検討で、急性・慢性疲労を訴えるアスリートは、疲労のないアスリートよりもグルタミン値が著しく低いことが観察された。また現在、グルタミン/グルタミン酸比はトレーニングストレスの指標としての使用が一部で試みられ始めている。ただし現状においてアミノ酸のアッセイを容易に利用できる環境は整っていない。

エネルギー可用性の評価

経験豊富なエリートアスリートは、強化トレーニングの期間中にエネルギー摂取量を自己調整せず、その結果としてパフォーマンスが低下することがある。女性スイマーを対象とする研究では、十分なエネルギー可用性があることがトレーニングを成功させる上で重要であることが確認された。卵巣ホルモンサイクルが正常なアスリートと、卵巣ホルモンが抑制されエネルギー可用性が低いアスリートとを比較したところ、400m競泳の記録は、同じトレーニング距離を完了したにもかかわらず、エネルギー可用性が良好な群でのみ改善がみられた。

上記のほか、本論文では「酸素運搬能と赤血球」「トレーニングキャパシティーの評価にバイオマーカーを利用する」といったテーマの考察を加えている。

最後の項目は「結論と今後の方向性」と題して、「静脈穿刺をせずにアスリートの血液を分析する新しい技術が普及する可能性がある。血液バイオマーカーの科学は急速に進化しており、既に一部の栄養バイオマーカー、例えばビタミンDや鉄などは十分に意義が確立されている。他の栄養バイオマーカーはスポーツでの有用性を実証するためにさらなる研究が必要。スポーツでの血液バイオマーカーの応用を成功させるには、適切なバイオマーカーの選択だけでなく、テストのタイミングや学際的なコラボレーション、適切な統計処理にも依存する」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Blood Biomarker Profiling and Monitoring for High-Performance Physiology and Nutrition:Current Perspectives, Limitations and Recommendations」。〔Sports Med. 2019 Nov 6〕

原文はこちら(Springer Nature)

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