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アスリートの骨の健康をサポートするための栄養学

アスリートは、栄養摂取が不適切な場合には長期的に骨減少症や骨粗鬆症のリスクがあり、また短期的には骨損傷のリスクに注意を払う必要がある。もっとも単純なリスクヘッジはトレーニングの負荷を弱めることだが、アスリートにとって現実的な方法となり得ない。よって、アスリートの骨の健康をサポートする他の可能性を検討する必要があり、本論文はそのような視点で栄養学に関する現時点のエビデンスを俯瞰したレビュー。以下はその要旨。

アスリートの骨の健康をサポートするための栄養学

アスリートと骨の健康

アスリートは多くの場合、健康に対する潜在的なリスクよりも現在のパフォーマンスレベルに関心がある。競技生活から退くと、骨量と筋力を完全に回復できるという誤解も根強い。さらに現役のアスリートにおいては、ストレス骨折の発生などによりパフォーマンスが低下する恐れもある。

エネルギー可用性

アスリートではエネルギー可用性の減少が、急性骨損傷や長期的な骨量・骨強度の低下など、骨に悪影響を与える可能性がある。それを考慮すると、その状態が長期間にわたって持続する場合、より深刻な結果が生じる可能性があると考えるのが賢明だろう。これは重要な問題であるが、まだエビデンスはない。特に着目すべきことは、エネルギー可用性の大きさの影響、言い換えれば、それ以下のエネルギー摂取量では骨に負の影響が生じる閾値、それがあるか否かという点である。

低炭水化物食

一部のアスリートにはパフォーマンスの面で低炭水化物ダイエットや低炭水化物/高脂肪食の効果を期待できることを示唆する報告がある。しかし、歴史的に炭水化物の摂取がアスリートのエネルギー摂取に最大のメリットを提供してきており、かつ低炭水化物食が低エネルギー可用性のリスクを生じる可能性があることを考えると、コンセンサスを得るに至っていない。低炭水化物食は、アスリートの骨の健康に悪影響を与える可能性があるかもしれず、ただしこの点も決して確かなことではなく、今後の研究が必要。

タンパク質摂取

アスリートには、トレーニングのため一般者より多くのタンパク質を摂取することがしばしば推奨される。アスリート向けの推奨事項は、1.2〜1.6g/kg/日で、特定の状況下では2.2/kg/日まで増加することもあり得るが、メリット/デメリットの相反をもたらす可能性がある。高タンパク質(特に動物性のもの)を摂取するアスリートが、長期にわたって骨の脱灰を誘発するリスクを負い、潜在的に有害であることを示唆する報告もみられる。

その一方でタンパク質が骨にとって有益であり、有害ではないとする報告もあり、アスリートにとってさらに重要なことは、より多くのタンパク質を摂取すると筋肉量と機能の発達のサポートにもなり得るという点だ。ただし、骨への悪影響がないことが確認されるまで、タンパク質摂取量を増やす場合は、同時に十分なカルシウム摂取の維持をアスリートに推奨するのが賢明かもしれない。

ビタミンDの摂取

ビタミンDが不足しているアスリートは、骨折やストレス骨折などの骨量や骨損傷のリスクが高くなる可能性がある。一般集団におけるビタミンD欠乏の原因は多因子だか、アスリートの場合の主な原因は、屋内でトレーニングおよび競技を行うアスリート、および高緯度で生活およびトレーニングを行うアスリートに関して、皮膚への紫外線照射の減少である可能性が最も高い。

血清ビタミンDレベルと筋骨格転帰との直接的な関係は比較的明確で、骨折の既往のあるプロアメリカンフットボール選手のビタミンDレベルは有意に低いことや、若い女性ランナーの骨量増加とストレス骨折率の低下の関連などが報告されている。アスリートが骨の健康を守るためには、ビタミンDの不足を回避することが重要であることは明白なようだ。

皮膚のカルシウム、およびナトリウムの減少

長時間の運動に伴う骨塩量低下の潜在的な原因の1つは、血清カルシウムレベルの低下による副甲状腺ホルモンの分泌亢進を介した骨吸収の増加と考えられる。真皮のカルシウム減少の結果として発生する可能性がある。また低ナトリウム血症が骨粗鬆症のオッズ比増加と有に関連するとの報告もあり、破骨細胞機能へのナトリウムシグナルの関与も研究されている。

摂食と急性運動

多くのアスリートは、一晩の絶食後の朝に運動する。この行動は骨の代謝回転を促進する可能性がある。運動中に摂食することは骨代謝反応を恐らく抑制し、また運動後の時間帯が栄養的な介入にとって最も有用な時間枠だろう。ただし、運動前・中・後の摂食による骨の健康への影響を判断するには、長期間にわたる研究が必要。現在、この分野の研究は主に男性を対象に行われており、女性でも結果が同様なのか否か興味深い。

キーポイント

以上からのポイントが、次のようにまとめられている。

  • 骨の健康を守るためにアスリートが必要とする食事は、いくつかの特定の課題があるが一般人と著しく異なるものではない
  • 45kcal/kg(除脂肪体重)/日のエネルギー可用性は、アスリートの骨の健康をサポートするのに理想的だが、多くの場合は非現実的な目標。現時点では、骨への悪影響を最小限に抑えるために、30kcal/kg(除脂肪体重)/日を超えるエネルギー可用性を達成することが目標として考えられる
  • アスリートは、推奨量の2〜3倍のタンパク質を摂取することがよくある。これは、適切な食事性カルシウム摂取を前提とする場合、骨の健康には悪影響を与えないと考えられる
  • 皮膚のカルシウム減少は今後の重要な考慮事項かもしれない
  • アスリートの骨代謝に特化したより多くの研究が必要

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrition and Athlete Bone Health」。〔Sports Med. 2019 Nov 13〕

原文はこちら(Springer Nature)

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