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水分補給の不足は本当に持久系運動のパフォーマンスを損うのか?

水分補給が運動中の人間の生理機能とパフォーマンスに与える影響は、スポーツ栄養関連の最も古い研究テーマの1つ。これまでに多くの研究がなされているが、被験者の水分補給欲求を誘発するには被験者を不快な状況におく必要があるため、その試験の結果としてみられる持久系スポーツパフォーマンスの変化は、水分補給の不足による影響ではなく、不快感の有無により左右されたものである可能性があり、結果の解釈を困難にする。

水分補給の不足は本当に持久系運動のパフォーマンスを損うのか?

本論文は、水分補給不足によるパフォーマンスへの影響を検討した研究について、それらの方法論的な考察にポイントを置き、近年の報告をレビューした内容。以下はその要旨。

水のバランス

水は人体で最も豊富な分子であり、成人体重の60〜70%を占めている。そのような豊富さにもかかわらず、体内の水分量は厳しくコントロールされており、通常、日々の変動は体重の1%以下とされている。これに対しアスリートはトレーニング中に1〜2L/時の発汗がみられ、一部の選手では3〜4L/時を超えることもある。とくにトレーニングを長時間、または高温多湿の環境で行う場合、体の水分量の恒常性に大きな影響をもたらす。

運動中の水分損失を考慮するとき、超長時間運動の場合は体重減少のかなりの部分が水以外の質量の減少に由来すると考えられるが、2〜3時間の運動であればその影響は比較的小さく、恐らく体重の0.5%程度である。つまり体重減少の大半は水分減少によるものである。

運動中の水分補給が不十分な場合、血漿量が減少し、結果として細胞外浸透圧が増加する。それによって心血管機能の低下や体温の上昇、また、口渇による不快感、自覚的運動強度(RPE)の上昇など一連の変化が生じ、パフォーマンスの低下につながると考えられる。

検討の方法論

このような現象に対して、水分補給が持久力のパフォーマンスをどのように損なうのかを明らかにしようとする研究は、方法論的な制限により、真の結論を得るに至っていない。その理由は主に2つあり、第一にパフォーマンス研究で被験者の水分補給状態を盲検化した研究自体が少ないことだ。第二に脱水状態を誘発するために使用される方法の多くは被験者にとって不快であるという点だ。

スポーツ栄養研究では、栄養戦略(例えば炭水化物や栄養補助食品の摂取など)のエルゴジェニック効果を調べる時、盲検化された実験計画を適用し、それによって潜在的なプラセボ効果やノセボ効果の影響を除外する。一流科学誌では、盲検化されていないデザインの研究で既知のサプリメントのエルゴジェニック効果を調べた論文を投稿しても、採用されることは少ない。

しかし水分補給に関する研究はそうでない。なぜなら、脱水状態を誘発するために使用される方法(運動前・中の水分摂取制限、日射への曝露、利尿剤投与など)は盲検化しようがないからだ。しかも現在、多くのアスリートは脱水に近い状態がパフォーマンスを低下させると信じている。

これらの問題をかかえつつも、これまで、運動中に等張液を静脈内に投与する試験により、水分補給と口渇のいずれもパフォーマンスに影響しないことを示唆した検討や、経口経鼻で挿管したチューブから胃に直接水を供給するという試験により、脱水状態でのパフォーマンス低下を確認した検討などが行われてきている。ただし、これらの検討方法は基本的に非生理的でありアスリートに通常のトレーニングとは異なる状態を強いている。

キーポイント

著者らは以上のように考察の上、ポイントを以下のようにまとめている。

  • 持久運動のパフォーマンスに対する水分摂取制限の影響を調査した以前の研究は、研究が盲検化されていないことや脱水状態を誘発するために使用される人為的で不快な方法によって、結果の解釈が困難
  • 最近の研究はこれらの問題を克服しようと試みているが、この作業はまだ始まったばかりであり、現在のところ検討対象は耐久性サイクリングのパフォーマンスに限定されている
  • これらの研究の結果を総合的に考えると、少なくとも水分が全く、もしくはわずかしか摂取されない場合に、体重の2〜3%に相当する水分の減少は持久系運動のパフォーマンスを損なうことが示唆される

文献情報

原題のタイトルは、「Does Hypohydration Really Impair Endurance Performance? Methodological Considerations for Interpreting Hydration Research」。〔Sports Med. 2019 Nov 6〕

原文はこちら(Springer Nature)

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