柔軟性運動で独居高齢者のうつ病リスクが低下 高齢化が急速に進む韓国からの報告
日本よりひと足遅れて超高齢化社会へ突き進んでいる国がある。お隣の韓国だ。韓国では2050年までに60歳以上の人口が倍加すると予測されている。
高齢化によりさまざまな疾患が増加するが、その疾患の一つにうつが含まれる。うつの多くは治療可能なものの、適切に治療されない場合、自殺リスクが高まり、また認知機能の低下につながる。
その一方、独居高齢者の増加がやはり韓国でも進行中だ。高齢者世帯に占める独居者の割合は、1990年の8.9%から2017年には19.3%と10ポイント増加したという。
身体活動が高齢者のうつに対し予防的効果をもつことは多くの研究から明らかになっている。しかし一人暮らしをしていると、身体活動の機会が減る可能性があり、そのためにうつのリスクが上昇すると考えられる。本研究はこのような背景から、独居高齢者の身体活動の種類や量とうつ病の関係を調査した結果である。
調査の手法は、韓国の2014年の国民健康栄養調査のデータを二次解析するというもの。同調査の対象者のうち65歳以上の高齢者1,586名から家族との同居者、および、うつ病のスクリーニングに参加しなかった者を除外し、256名を解析対象とした。年齢は65~74歳が49.4%、75歳以上が50.6%、性別は女性が83.9%を占めた。
身体活動の種類や量は過去1年間の習慣についてアンケートをとることで把握した。うつ病については、Patient Health Questionnaire (PHQ-9)の結果が10点以上と定義した。
結果だが、うつ病のリスクは、女性、教育レベルが小学校以下、経済的な困窮、柔軟性運動をしていない、といった場合に有意に高いことがわかった。
ロジスティクス回帰分析により、柔軟性運動(ストレッチ、フリーハンドエクササイズなど)とうつ病リスク低下との有意な関連が認められた。具体的には、週に1~4日、柔軟性運動をしている場合、性、年齢、居住地域、教育レベル、経済状況、民間健康保険の加入状況で調整後もオッズ比0.21(95%CI:0.06-0.74)で有意にリスクが低かった。調整因子に喫煙、摂食量、過去2週間における痛みや不快感を追加しても、オッズ比0.19(同0.05-0.75)で有意だった。これは、柔軟性運動を継続している人はうつ病のリスクが約8割低いことを表す。
ところが、有酸素運動の実施状況や1週間あたりの歩行を行う日数、筋力トレーニングを行う日数との関連は有意でなかった。この結果から、著者らは結論を「筋力強化運動よりも持続的な柔軟性運動が健康な精神状態を維持するのに効果的であることを示唆している」とまとめている。
同時に本調査の限界点として、うつ病の重症度を結果に反映していないこと、社会活動への参加状況を評価していないこと、身体活動について過去1年分しか評価していないこと、慢性疾患の影響の調整が不十分であること、横断研究であることを挙げ、「身体活動と独居高齢者のうつ病との因果関係を明らかにするため、縦断研究が必要」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Relationship between Physical Activity Level and Depression of Elderly People Living Alone」。〔Int J Environ Res Public Health. 2019 Oct 22;16(20)〕