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過去50年間でタンパク質の過剰摂取と年間4兆円の食品ロスが問題に、農研機構が食の変遷を検証

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)はこのほど、過去半世紀にわたる日本の食生活と食料生産から生じている環境負荷の変遷を推計した、初めてのデータを公表した。それによると、国内消費用として供給される「食べる窒素」のうち22%はタンパク質の摂り過ぎであり、かつ11%は食品ロスになっているという。

過去50年間でタンパク質の過剰摂取と年間4兆円の食品ロスが問題に、農研機構が食の変遷を検証

現在、国連では持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals;SDGs)」の1つとして「2030年までに世界全体の1人当たりの食料廃棄を半減する」ことを目標として掲げており、国内でも本年5月に「食品ロス削減推進法」が成立し、国民運動として食品ロスの削減に取り組むことが明記された。今回発表されたデータは、これらの目標達成のための政策立案に向けて科学的根拠となり得る。

タンパク質による環境負荷

三大栄養素の1つであるタンパク質には、必須栄養元素である窒素が16%含まれている。この「食べる窒素」の元をたどると、化学合成された窒素肥料や生物学的窒素固定(細菌などが単独または植物との共生により、空気中のN2からアンモニアを生成する反応)によって、農地に投入された窒素が大部分を占める。しかし、食料が生産されてから消費されるまでの間には、我々が実際に摂取する「食べる窒素」の何倍にも相当する窒素が環境中に排出されており、地球環境に多くの負の影響、例えば地下水汚染、湖沼の富栄養化、地球温暖化、オゾン層破壊などを及ぼしている(図1)。

図1 食に関わる窒素フローと窒素フットプリント

食に関わる窒素フローと窒素フットプリント

これは食に関わる窒素フローを階段状の滝に見立てた模式図であり、各段の窒素プールからは漏れ(環境中への窒素の排出)が生じています。滝の最上流部にある農地に投入された「新しい」窒素(生物が利用可能な窒素化合物:反応性窒素)は、上流では作物生産のために利用され、中流付近では家畜への飼料となり、最下流端では食品として消費者に摂取されます。これらの過程で環境中に排出された窒素の総量が、窒素フットプリントです。
(出典:農研機構プレスリリース)

これまでにも環境保全のための農畜産業が推進されてきたが、生産物が食品として消費者の口に入るまでのフードチェーン全体を対象とした窒素フローの実態は、十分把握されていなかった。本研究は、過去半世紀にわたるフードチェーン全体での窒素フローの実態を明らかにし、構造的な問題点の抽出を試みたもの。

22%のタンパク質過剰摂取と4兆円分の食品ロス

研究では、まず日本における食生活の長期変遷を「食べる窒素」の供給・摂取等の観点から明らかにした。

食に関わる国の統計データ(人口推計、国民健康・栄養調査、食料需給表)や基準値(日本人の食事摂取基準)などに基づいて、日本の食料供給・摂取の実態を、窒素を基準として推計した。厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」の推奨量(2004年以前は「日本人の栄養所要量」)を、日本の消費者にとって最も健康的なタンパク質摂取量であるとし、実際のタンパク質摂取量は、同省の「国民健康・栄養調査」のデータから得て、その両者の差が、「タンパク質の摂り過ぎ」に相当するとみなした。また、国内消費向けの「供給純食料(食料の可食部)」のタンパク質と実際のタンパク質摂取量の差を、フードチェーンの過程で生じる「食品ロス(可食部の廃棄)」とみなした。

その結果、現在(2015年)、国内消費向けに供給されている純食料のうち、22%はタンパク質の摂り過ぎと計算され、11%(約1,400万人分の「食べる窒素」、約4兆円分の食費に相当)は食品ロスと計算された。また、食品ロスは高度経済成長期に急増したタンパク質の摂り過ぎが最大値に到達した後、1970年代後半から顕著となったことがわかった(図2)。

図2 日本の食料供給・摂取に関わる窒素量の長期変遷(タンパク質の摂り過ぎと食品ロスの長期変遷)

日本の食料供給・摂取に関わる窒素量の長期変遷(タンパク質の摂り過ぎと食品ロスの長期変遷)

現在(2015年)、国内消費向けの供給純食料(食料の可食部のみ)のタンパク質の22%はタンパク質の摂り過ぎ、11%は食品ロスとなっています。タンパク質の摂り過ぎと食品ロスの削減は、供給純食料の削減や非可食部の削減、さらには、農畜産業における窒素投入量の削減にもつながります。したがって、結果的に、フードチェーンシステムにおける食の窒素フットプリントを合計33%(719 Gg N/年)削減することが可能です。 本研究では、厚労省による「日本人の食事摂取基準」の推奨値(2004年以前は、「日本人の栄養所要量」)を、日本の消費者にとって最適なタンパク質摂取量であるとみなしました。実際のタンパク質摂取量は、国民健康・栄養調査(厚労省)から得ることにより、両者の差が、タンパク質の摂り過ぎに相当すると考えました。また、国内消費向けの供給純食料タンパク質と実際のタンパク質摂取量の差を、食品ロスとみなしました。なお、供給粗食料と供給純食料の差は、非可食部の窒素量に相当し、食品廃棄物となります。
(出典:農研機構プレスリリース)

摂取タンパク質が動物性タンパクに変化したことも一因

次に、食料消費のために国内外の環境中で生じている窒素負荷(食の窒素フットプリント)の実態を推計した。窒素フットプリントとは、化石エネルギーや食料の消費など、さまざまな人間活動に伴う環境中への窒素排出量の合計のことで、窒素負荷の大きさをわかりやすく表現した科学的指標。

日本における一人当たりの「食べる窒素」の供給量は、過去半世紀の間およそ一定であり、現在の供給量は1970年とほぼ同じと考えられた。一方、「食べる窒素」の中身はこの間に大きく変化し、畜産食品(肉類、鶏卵、牛乳等)は約5倍に増加、豆類等の植物性タンパク質は30%減少した(図3上)。このような食の嗜好の変化に伴う窒素フットプリントの変化を計算すると、例えば1970年の食生活(豆類・魚介類のタンパク質が主体)では、現在と同じ量の「食べる窒素」が供給されていたにもかかわらず、食の窒素フットプリントは19%小さいことがわかった(図3下)。

図3 日本の消費者一人当たりの供給純食料に含まれる主要食品群別の窒素量の長期変遷(上)とそれに伴う食の窒素フットプリント(環境中への窒素負荷)の推計値(下)

日本の消費者一人当たりの供給純食料に含まれる主要食品群別の窒素量の長期変遷(上)とそれに伴う食の窒素フットプリント(環境中への窒素負荷)の推計値(下)

日本の消費者一人当たりの供給純食料に含まれる主要食品群別の窒素量の長期変遷(上)とそれに伴う食の窒素フットプリント(環境中への窒素負荷)の推計値(下)

食の嗜好の長期的変化が食の窒素フットプリントに与える影響を見るため、供給純食料の窒素量がほぼ等しい1970年と2015年に注目して、「日本食」の窒素フットプリントを比較しました。その結果、1970年の「日本食」の方が、食の窒素フットプリントが19%小さいことがわかりました。なお、この図(下)では、食の嗜好の変化が食の窒素フットプリントに与える影響のみに着目するため、過去の農畜水産物の生産過程における窒素利用効率(=窒素利用量/窒素投入量)が、現在(2015年)と同じであることを仮定した計算結果を示しています。
(出典:農研機構プレスリリース)

このことから、日本人の食事摂取基準に沿った健康的な食事によるタンパク質の摂り過ぎの削減や食品ロスの削減、また、より窒素フットプリントの小さい食品を選択すること等によって、環境中への窒素負荷を大幅に削減できると考えられる。

農研機構では今後の展望として、消費行動を通じて食の窒素フットプリントの低減を図るためには、どの食品が環境保全的な低窒素負荷の食料生産方式(例えば、堆肥に含まれる「古い」窒素を農地で再利用し、「新しい」窒素である化学肥料を減らすなど)によって生産・供給されたかをラベル等で表示し、消費者の商品選択基準の1つとして利用を促進することが必要と提言している。また「食料生産から流通、販売のサプライチェーンを動かしている最大の駆動力は消費者ニーズ(市場ニーズ)。我々個人の毎日の小さな選択の積み重ねが自国だけでなく、海外の食料輸出国における環境中への窒素負荷の削減にも貢献し地球環境を守ることができる」としている。

関連情報

(研究成果) 食料生産~消費がもたらす窒素負荷の長期変遷(農業・食品産業技術総合研究機構プレスリリース)

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