ビタミンD不足がうつ病リスクに 米軍での調査結果
ビタミンDの欠乏がうつ病のリスクと相関することが米軍での調査から明らかになった。既報では現役軍人の12%、退役軍人の13%が大うつ病エピソードを経験するとされている。しかし、うつの不安を感じていてもキャリアパスに影響することを懸念し、自分から訴えることに消極的になるケースが多いため、ビタミンD測定がうつ病リスクのスクリーニングツールになり得ると著者らは提案している。また血清ビタミンD濃度とうつ病の関連は高齢者を対象とする研究が多いのに対し、本研究の対象の多くは現役軍人であり比較的若年であることも新たな知見につながる特徴と言える。
この研究は、米国軍人の医療システムである「Military Health System(MHS)」のデータを解析したもの。解析対象は、緯度による紫外線量の相違が血清ビタミンD濃度へもたらす影響を考慮し、全米の異なる地理的関係にある5つの州、6拠点(アラスカ、ニューヨーク、ワシントン、ノースカロライナの各州の1拠点およびテキサス州の2拠点)の外来患者とした。
解析対象の80.8%が現役軍人、86.2%が男性で、年齢層は18~24歳が36.9%、25~34歳が40.0%、35~44歳が17.1%、45歳以上が6.0%。この集団におけるうつ病の有病率は4.37%、ビタミンD欠乏症の有病率は1%未満だった。ビタミンD欠乏症の有病率が既報に比して低いが、その理由は医療機関を受診し血清ビタミンD検査が施行された結果のみで有病率を算出しており、受診や検査を受けていない者の中に存在するビタミンD欠乏症を把握できていないためと考えられる。
うつ病との関連をみると、ビタミンD欠乏症と診断されていない者におけるその頻度は4.2%であったのに対し、ビタミンD欠乏症と診断されている者での頻度は20.4%で、ビタミンD欠乏とうつ病の有意な関連がみられた(オッズ比〈OR〉5.84,p<0.001)。性や年齢、軍での階級などの因子で調整後も有意な関係がみられた(OR5.38,p<0.001)。調整因子に医療機関への受診頻度を加えると関連性は減弱したものの、引き続き有意だった(OR1.22,p<0.001)。そしてビタミンD欠乏とうつ病の間には有意な直線的関係が確認された(r2=0.75,p=0.026)。
一方、勤務拠点の緯度とビタミンD欠乏症の関連は、r2=0.92,p=0.002で、高緯度拠点ほどビタミンD欠乏症が多いという強固な関連が認められた。ところが勤務拠点の緯度とうつ病の間には有意な関連がみられなかった。この点について著者らは、うつ病の発症には地理的条件以外に、軍内の階級に応じたストレス、専門性、軍隊行動の頻度など、影響因子が多く存在するためではないかと考察している。
ビタミンDは食事から摂取される以外に皮膚において紫外線照射を受けて産生される。緯度の高い地域や冬季、および日照時間が短いことなどによって血清ビタミンD濃度が低下する。そのビタミンDは脳内神経伝達物質のセロトニンやドーパミンの合成・放出を変化させ精神活動に影響を及ぼすとされている。その結果が軍隊のパフォーマンスにも関係してくる可能性があると、著者らは述べている。本論文内で提案されている、うつ傾向のスクリーニングのための血清ビタミンD測定という考え方は、軍隊に限らず、うつの心配を隠そうとする傾向のある社会・集団にも当てはめることができるかもしれない。
文献情報
原題のタイトルは、「The relationship between vitamin D status and depression in a tactical athlete population」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2019 Sep 10;16(1):40〕