サプリメントはいつ摂取すべきか? エルゴジェニックエイドの時間栄養学
「何をどれだけ食べれば良いか」だけでなく、「いつ食べるべきか」を追加して考察・研究する時間栄養学は、糖尿病などの代謝性疾患の治療やスポーツ栄養の領域で応用されつつある。ただし現在のところ、その研究テーマの主体は炭水化物と蛋白質の摂取タイミングに限られている。一方、スポーツ栄養においては、サプリメント等のエルゴジェニック効果(スポーツにおけるパフォーマンス向上効果)の研究が盛んに行われている。しかしそれらを「いつ食べるべきか」という点についてはまだ不明点が山積している。
このような現状を背景に本論文の著者らは、エルゴジェニックエイド(スポーツにおけるパフォーマンス向上が期待される手段・食品)や微量栄養素の摂取タイミングと体組成・運動パフォーマンスの関係を検討している文献を収集し、批判的考察を行った。対象とした食品・栄養素は、カフェイン、硝酸塩、クレアチン、鉄、カルシウム、炭酸水素ナトリウム、βアラニン。これらを、パフォーマンス改善のためのタイミング戦略と、有害事象軽減のためのタイミング戦略という二つの面から検討している。
以下は文献検索から得られた情報のまとめの抜粋。
パフォーマンス改善のためのタイミング戦略
カフェイン
カフェインはアデノシン受容体に拮抗する作用を有する。期待される効果として、脂肪利用の促進、疲労感の軽減や意欲の向上などメンタル面への影響、筋力アップ、疲労感の抑制、持久力向上、それらによるパフォーマンス向上が挙げられる。摂取のタイミングは、競技開始の2時間前から直前の間で急性効果が期待される。用量としては、絶対量として100~300mg、相対量として3~6mg/kg。
硝酸塩
ほうれん草やレタス、セロリ、ビートルートなどに豊富な硝酸塩は、一酸化窒素の供給を増やし、血流増加、筋肉の収縮力増加などの効果が期待される。摂取のタイミングは、競技開始2~3時間前で急性効果が期待される。
クレアチン水和物
クレアチンはクレアチンリン酸やATP(アデノシン三リン酸)となり細胞のエネルギー源となる。筋肉量や筋力を増加させ高強度の運動能力の向上が期待される。10~12週間継続し、クレアチン水和物の絶対量として5g/日、相対量として0.1g/kg/日摂取する。
鉄
鉄はヘモグロビンを介した組織への酸素供給、DNA合成、細胞内電子伝達に不可欠であり、摂取により有酸素運動能力の向上が期待される。3~6週間にわたり、100mg/日摂取する。ただし鉄欠乏状態または貧血でない場合、運動パフォーマンスのエルゴジェニック効果は明らかでない。
カルシウム
カルシウムの主作用は骨量の維持だが、筋肉の収縮にも関与している。カルシウム摂取により骨量の増加や副甲状腺機能亢進の抑制が期待されるが、アスリートへの効果はカルシウム摂取量が不足している場合に限られる。最大12カ月にわたり運動開始60分前に摂取する。用量は1g/日。
有害事象軽減のためのタイミング戦略
炭酸水素ナトリウム
炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム、重曹)は代謝性アシドーシスを抑制するほか、疲労の改善効果の報告があるアルカリ化剤。肯定的な報告と否定的な報告が混在するが、現状では、スプリント競技の反復や高強度運動時のエルゴジェニック効果が期待されている。消化器系有害事象の抑制のため、競技開始1~3時間前に摂取することが有効な可能性がある。相対用量は0.3g/kg。
βアラニン
肉類に含まれるβアラニンには、摂取により高強度運動能力の向上や神経筋の疲労の抑制が期待される。炭酸水素ナトリウムと同様に、摂取タイミングを工夫することで、知覚異常や紅潮など既知の有害事象を緩和できる。1日あたり6~7gを4回に分けて摂取する(1回につき1.3~1.6g)。
本論文の著者は結論の中で、「微量栄養素等の摂取タイミングの研究はまだ始まったばかりだが、研究が進化し理解が深まることで、アスリートはサプリメント摂取のレジメンを工夫できる。不必要なものは避け、有害事象を最小限に抑え、トレーニング効果の最大化とパフォーマンスの向上に役立つ」と述べている。
なお、疾患治療に用いられる製剤をパフォーマンス向上を期待し使用することは厳に避けなければならないことは、副作用・有害事象やドーピングリスクの観点からも当然である。
文献情報
原題のタイトルは、「Timing of ergogenic aids and micronutrients on muscle and exercise performance」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2019 Sep 2;16(1):37〕