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世界最大のハーフマラソン大会における運動関連性虚脱の発生率と特徴

健康スポーツとしてのマラソンの人気は世界的に根強い。例えば米国には5,000万人以上のレクリエーションランナーがいて、1,800万人以上が公式レースを完走した経験をもつと推計されている。マラソンには高血圧や糖尿病、うつ、サルコペニア等の一次・二次予防に関するエビデンスがある一方で、医学的合併症のリスクも伴う。

世界最大のハーフマラソン大会における運動関連性虚脱の発生率と特徴

医学的合併症の種類としては、筋骨格・皮膚関連のトラブルとともに、運動関連性虚脱(exercise-associated collapses)の頻度が高い。運動関連性虚脱は競技直後に生じる一過性の体位性低血圧によって生じると考えられているが、多因子性であって、熱中症や低ナトリウム血症などの初期症状との鑑別が必要となる。しかし、これまで欧州で開催されている持久系競技会での運動関連性虚脱の発性頻度は十分に検討されておらず、電解質異常や血糖、乳酸レベルに関する詳細な検討も少ない。

本報告は、スウェーデンのヨーテボリで開催されているハーフマラソンで発生した運動関連性虚脱を、後方視的に解析したコホート研究。ヨーテボリハーフマラソンは例年6万人前後がエントリーする世界最大規模のハーフマラソン大会として知られている。

解析対象は 2013~2017年の大会に参加した23万501人。大会中に発生したインシデントのうち、救護テントへ収容された者や救急車で搬送された者を「重度の虚脱」と定義し解析対象とした。競技場内やマラソンコース沿いの現場で治療された軽度のものは対象から除外した。

その結果、23万501人中、356名に重度の虚脱が観察され、その発生頻度はスターティングランナー1,000人あたり1.53人だった。救護テントに収容されたのは276人で、性別にみると男性が66%を占めた。これは大会参加者の3分の2が男性であったことから、発生頻度に性差がないことを意味している。救急車での搬送は合計80回行われており、年平均16回だった。

虚脱症状を呈した者のうち、2人は低血糖のためグルコース投与が行われ、8人は筋痙攣のためジアゼパムが投与されたが、その他の虚脱はすべて運動関連性虚脱と診断された。なお、胸痛を伴う虚脱は救護テント内での診断を経ずに救急搬送されたため、本検討の対象には含まれていないが、突然の心停止は計5回(10万人あたり2.14件)報告されていた。

救護テントでの医療介入が必要だった者の検査値をみると、体温は平均38.2℃で、基準値内は38%にとどまり、60%が高値を示していた。血圧に関しては、収縮期血圧は平均110mmHgで77%が基準値内にあったものの、拡張期血圧は平均58mmHgで基準値内にあったのは49%に過ぎず、47%は低値を示していた。脈拍は平均112bpmで、79%が頻脈を呈していた。

また、救護テント内で治療された者の54%にあたる150人に血液ガス等の記録があり、それによると38%がpH低値(<7.32)を示し、乳酸値は大多数(93%)が高値を示していた。また63%にナトリウムレベルの上昇(>145mmol/L)という脱水症を示唆する所見が認められた。低ナトリウム血症を認めた者はいなかった。カリウムに関しては86%が基準値内で、14%が高値を示していた。

救護テントに収容された者の70%に輸液投与が行われ、治療の平均所要時間は1時間だった。救護テントへ収容された時刻が遅かったためにテント閉鎖後にも治療継続が必要だった少数の者を除き、全ての患者はさらなる医療を必要とせずに回復した。

本研究で示された1,000人あたり1.53人という運動関連性虚脱の発生頻度は既報に比べるとかなり低い。これに関して著者らは「重症虚脱の定義の問題であり、他の研究との単純な比較は困難である」と述べている。またスウェーデンの比較的涼しい地域での大会であることが関係している可能性も考えられる。

論 文

原題のタイトルは、「Incidence and characteristics of severe exercise-associated collapse at the world's largest half-marathon」。〔PLoS One 2019 Jun 7; 14(6)〕

Incidence and characteristics of severe exercise-associated collapse at the world's largest half-marathon(PLoS One)

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