スポーツ指導専門家対象 エクササイズ前血糖レベルに基づいた運動指導ガイド
糖尿病患者の安全な運動に、運動開始前の血糖測定が有用であることは論をまたない。実際に多くの学術組織から血糖測定と運動に関するガイドラインが発行されている。しかし実際に運動を指導する専門家が運動の可否を判断するのに役立つリソースは限られている。
糖尿病患者の運動に際しては、糖尿病の病型、運動前血糖値、投薬状況、食事摂取量等の情報を総合的に判断する必要があり、本論文はそれらを総括したガイドと言える。これまで報告された文献のレビューによりまとめられた内容。
まず、一般的推奨事項として、糖尿病の病型、投薬状況、臨床検査データ(空腹時血糖、血圧、心拍数、酸素飽和度等)、合併症、および運動実施に影響を与える可能性がある要因のアセスメントが必要であるとし、運動指導者は患者の健康状態を定期的に把握し、新たに発生する症状や問題を認識すべきとしている。ただし、このアセスメントに関連し、運動指導者のスキルに個人差があることへの懸念にも触れ、本論文で示すようなガイドやリソースが、運動プログラムによって生じ得る有害事象のリスク低減につなげる必要があるとも述べている。
続いて運動前のチェックポイントとして、直前の食事の摂取状況(種類と量、摂取からの経過時間)、作用が継続していると考えられる薬剤の影響、血糖値とそのトレンド、そして健康状態の把握を挙げている。細かくは、足潰瘍がある場合の免荷、低血糖血糖リスクがある場合はパートナーと運動をする、β遮断薬による心拍数低下の注意、SGLT2阻害薬による正常血糖ケトーシスの注意、自律神経障害がある場合の運動強度設定の注意などを記載している。
次に取り上げているのが本論文の主題とも言える、運動前血糖値に基づいた運動指導の解説で、1型糖尿病/2型糖尿病別にフローチャートで簡略化し要点を示している。
1型糖尿病の場合、まず、24時間以内に他者の助けを必要とした低血糖を生じていた場合と、体調不良の場合、血糖値2.9mmol/L(52mg/dL)未満の場合は運動不可としている。それ以外の血糖値での場合も6段階に細分化し対応を提示。例えば2.9~3.9mmol/L(52~70mg/dL)では15gの即効性のある炭水化物を摂取した後、15分後に再測定し5mmol/L(90mg/dL)以上であれば、15分ごとの血糖測定をしながらの運動を可としている(1人では運動させない)。
一方、15mmmol/L(270mg/dL)以上の場合、その原因が直前の食事にあるのであれば運動可であるものの、そうでない場合はケトーシスの疑いを否定する必要性を示している。
2型糖尿病も禁忌事項は1型糖尿病と同様。そして運動前血糖値では4段階にカテゴライズして対応をフローチャート化している。その対応は主としてインスリン製剤またはスルホニルウレア薬(インスリン分泌を刺激する経口薬)を使用しているか否かで判断することになる。
糖尿病患者への運動指導は困難なケースがあるのは事実だが、本リソースガイドを参照することで安全性を向上し、運動療法の効果を高めることが期待できる。
原題のタイトルは「Resources to Guide Exercise Specialists Managing Adults with Diabetes」。〔Sports Med Open. 2019 Jun 3;5(1):20〕
文 献
Resources to Guide Exercise Specialists Managing Adults with Diabetes(Springer Nature)