ウシ初乳はドーピングになるか? 血漿IGF-1は増加させないとの報告
長距離ランナーを中心とする持久系スポーツ選手にとり、消化管透過性の亢進等による消化器症状がハードルとなることが少なくない。またハードなトレーニングから上気道感染症を来しやすいことも知られている。
これらの事象に対する薬剤による対処はドーピングの懸念が付きまとうことから、天然由来栄養食品への関心が高い。中でも既に市場に流通しているウシ初乳は、免疫グロブリン、抗菌ペプチド、インスリン用成長因子(IGF-1)が豊富で注目されている。例えばIGF-1レベルは成熟乳の約5倍の濃度がある。実際にヒトにおいてもウシ初乳が運動誘発性消化管透過性亢進を抑制し上気道感染症罹患頻度を減少させるとの報告もみられる。
しかしその一方で世界ドーピング防止機構(World Anti-Doping Agency;WADA)は、血漿IGF-1濃度の上昇を招く恐れがあることからドーピングペナルティーのリスクがあるとして、アスリートにウシ初乳を使用しないようアナウンスしている。仮に血漿IGF-1値が高値になるのであれば、ドーピングペナルティー以外にも、乳がんや前立腺がんなどの悪性腫瘍のリスクも懸念される。これらの懸念に対し、本報告の研究者らは、ウシ初乳摂取後の血漿IGF-1濃度の急性および慢性的な影響を、プラセボ対照二重盲検試験で検証した。対象は健康で試験開始前4週間にわたり感染症の兆候がなく、いかなる薬物および栄養補助食品を用いていない男性。
まず、急性効果に関しては16名(25±6歳)が参加。最低10時間以上の絶食後、30gのウシ初乳、または等エネルギー量で等栄養のプラセボ(いずれも300mLの水溶液)を摂取させ1時間の安静(例えば読書)の後、55%Vo2maxの運動を2.5時間課した。運動開始前と運動開始から1.25時間経過した時点で、それぞれ5gのウシ初乳またはプラセボを摂取させた。結果、血漿IGF-1値は両群間に有意差は生じていなかった。
続いて慢性効果に関する検討は、4週および12週にわたって施行された。4週間の検討には、20名(28±8歳)が参加。初乳またはプラセボを20g、毎日4週間にわたって摂取させた。4週間後のIGF-1レベルに有意差はなかった。
12週間の検討には57名が参加し、うち4名がプロトコール違反で脱落。ウシ初乳群25名(30.5±13.8歳)とプラセボ群28名(31.5±13.2歳)で比較したところ、12週経過後にもやはり有意な群間差はなかった。
結論として著者は、健康な成人においてウシ初乳の標準的な用量の摂取は循環IGF-1濃度に急性および慢性的な上昇をもたらさないとし、それは恐らく、消化酵素によるIGF-1の消化によるものであろうと述べている。
原題のタイトルは「Oral bovine colostrum supplementation does not increase circulating insulin-like growth factor-1 concentration in healthy adults: results from short- and long-term administration studies」。〔Eur J Nutr. 2019 May 23〕
Eur J Nutr. 2019 May 23(Springer)
関連情報
WADA Statement on the prohibited substance IGF-1(WADA)
PROHIBITED LIST Q&A "WHAT IS THE STATUS OF COLOSTRUM?"(WADA)