過去四半世紀のエネルギー摂取量の真の推移を探る 日米政府統計をDLWに基づく補正式を適用し検討
日本人成人の平均エネルギー摂取量は経年的に低下していることが示されているが、二重標識水法のデータを援用して開発された補正式を用い、年齢やBMIで調整した検討から、過去25年間にわたり実際にはほとんど変化していない可能性のあることが報告された。一方で身体活動量は有意に減少してきているという。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の井上裕美子氏、同大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝氏(現:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)、宮地元彦氏による研究の結果であり、「Journal of Nutritional Science」に論文が掲載された。

自己申告に基づく食事調査の「摂取量過小評価」という問題への対処
日本では「国民健康・栄養調査」、米国では「National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)」として、国民の食事・栄養素摂取量が長年調査されてきており、両国ともに、過去数十年にわたりエネルギー摂取量(energy intake;EI)が減少傾向にあることが報告されている。
この一因として高齢者人口の増加が考えられるが、そのほかに、これらの調査における摂取量は、24時間思い出し法または食事記録に基づいて推計されていることも関与しているという指摘もある。一般的に、自己申告に基づく食事調査では摂取量を過小評価し、かつ、肥満やBMIが高い者ほど実際との乖離が大きくなる(より少なく報告する)ことが明らかになっている。
この課題に対応し渡邉氏らは以前、二重標識水(doubly labelled water;DLW)法により計測した総エネルギー消費量(total energy expenditure;TEE)と、年齢、性別、BMI、食物摂取頻度調査(food frequency questionnaire;FFQ)により推定したEIを利用して、EIをより高精度に推測し得る補正式を開発している(doi.org/10.3390/nu11071546)。この補正式を用いることで、新たに別のデータを収集することなく系統誤差を低減可能と考えられ、実際、補正前のEIは全死亡リスクと関連がなく、補正後の値は関連がみられることも報告されている(doi.org/10.1002/jcsm.13122)。
今回の研究では、その補正式を日本の国民健康・栄養調査と米国のNHANESのデータに適用するという検討が行われた。研究仮説として、補正前のEIは日米ともに経年的に減少しているのに対して、補正後の値は増加傾向を示すという予測が立てられた。また、同期間のBMIの変化との関連、および日本については歩数(身体活動量の代替指標)の変化との関連も解析された。
日米ともにエネルギー摂取量(EI)は減っていない可能性
研究には1995~2019年の国民健康・栄養調査、および、2003~18年のNHANESのデータが用いられた。いずれも未成年(日本は20歳未満、米国は18歳未満)や妊婦・授乳婦などは除外され、日本人成人20万629人(女性55.2%)、米国人成人3万8,370人(同49.7%)が解析対象とされた。なお、以前の研究で、DLWで計測したTEEと補正式で求めたEIの相関係数(rs)は0.517であり、補正式を用いて誤差5%以内で集団の平均EIを求めるために必要なサンプルサイズは、女性682人、男性498人と計算され、今回のサンプルサイズはそれを大きく上回っており十分と考えられた(doi: 10.1017/S1368980021003785.)。
さらに本研究では、DLW法を用いた既報研究を収集し、TEEに対するEIの補正の有無による差を比較した。その結果、DLW法によるTEE、未補正EI、補正後EIの平均値はそれぞれ2,492、1,988、2,382kcal/日であった。未補正EIはDLWに比べて過小評価を示した一方、補正後EIはDLW値に近づき、食事調査に基づく平均エネルギー摂取量の推定精度が改善することが示された。
米国人のBMIとEIの変化
年齢調整後、米国人は2003~18年にかけて、男性・女性ともに平均BMIが上昇していた(男性は27.8から29.3kg/m2、女性は28.7から30.2kg/m2〈ともに傾向性p<0.001〉)。
同期間のEIの変化は、男性では、未補正値で2,291から2,281kcal/日へと有意に減少していたが(傾向性p<0.001)、補正後の値は有意な変化がなかった(傾向性p=0.240)。女性は未補正値では有意な変化がなかったが(傾向性p=0.996)、補正後の値は2,139から2,184kcal/日へと有意に増加していた(傾向性p<0.001)。
研究期間を通じて未補正EIは男性・女性ともに補正後の値より一貫して低く、乖離は女性のほうが大きかった(女性は-20~-23%、男性は-12~-15%)。
日本人のBMIとEIの変化
同じく年齢調整後、日本人は1995~2019年にかけて、男性は平均BMIが上昇しており(22.9から23.9kg/m2)、女性は下降し(22.7から22.5kg/m2)、いずれも有意に変化していた(ともに傾向性p<0.001)。
同期間のEIの変化は、男性では、未補正値で2,276から2,144kcal/日へと有意に減少していたが(傾向性p<0.001)、補正後の値は有意な変化がなかった(傾向性p=0.719)。女性は未補正値が1,820から1,713kcal/日へと有意に減少し、補正後の値も2,027から1,997kcal/日へと有意に減少していた(ともに傾向性p<0.001)。
日本人は性別にかかわらず歩数が有意に減少
次に、日本人の歩数の変化をみると、男性・女性ともに1995~2019年にかけて、平均約1,000歩/日減少していた。これに伴い、100歩あたりのEIが、男性は34から36kcal/100歩/日へ、女性は32から34kcal/100歩/日へと、ともに有意に増加していた(傾向性p<0.05)。
日本人男性はEIに変化なく身体活動量が減り、女性はEIが減り身体活動量はそれ以上に減少
著者らは本論文を、日米の成人の補正したEIとBMIの経年的変化を明らかにした初の報告と位置づけている。
本研究により、米国人成人のEIは実際には減少しておらず、女性では増加している可能性のあること、日本人成人も有意な減少は女性のみに生じている可能性のあることが示された。一方で日本人成人に関しては性別にかかわらず歩数が有意に減少しており、歩数に対するEIが有意に上昇していることが示された。このことから、日本人男性のBMIの有意な上昇は、身体活動量の減少による影響が大きい可能性が示唆された。女性に関しては身体活動量の減少を上回るEIの減少によって、BMIの有意な低下が起きていると考えられた。
補正済EIを用いることで系統誤差が抑制され、食事調査をより有効に活用できる可能性
著者らは本研究の限界点として、日本人のデータを基に開発された補正式を、肥満人口の多い米国人に適用していることの妥当性が未検証であること、国民健康・栄養調査とNHANESはいずれも反復横断研究であり同一対象のBMI変化を縦断的に追跡したものではないことなどを挙げている。そのうえで、結論を以下のように総括している。
「我々の研究結果は、過去数十年にわたる米国と日本における自己申告によるEIの低下は、食事調査における体系的なバイアスの影響を受けていることを示唆している。適切な体重を維持するために適切なEIを促すという公衆衛生施策において、自己申告に頼るのではなく、正確な評価を通じてEIと身体活動をモニタリングする必要があるのではないか」。
文献情報
原題のタイトルは、「Trends in body mass index and energy intake with and without biomarker calibration in the USA and Japanese National Nutrition Surveys」。〔J Nutr Sci. 2026 Jan 21:15:e11〕
原文はこちら(Cambridge University Press)







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