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偏った食事や運動不足で若年でもサルコペニアリスクの可能性 勤労世代1,738人の横断研究

20~59歳の企業従業員の食事・運動習慣と、骨格筋量や体脂肪量との関連が報告された。骨格筋量は運動習慣やタンパク質摂取量との関連がみられる一方で、体脂肪量は脂質摂取量と年齢との関連が認められるという。千葉大学大学院医学研究院整形外科学の井上雅寛氏らが、健診受診者データを解析した結果であり、論文が「Cureus」に掲載された。

偏った食事や運動不足で若年でもサルコペニアリスクの可能性 勤労世代1,738人の横断研究

非高齢者の体組成を規定する因子はなにか?

加齢に伴い骨格筋量が減少する一方で体脂肪量は増加することが多く、前者はサルコペニア、後者は心血管代謝疾患のリスクを高め、さらに両者が併存するサルコペニア肥満では、転帰がより不良となりやすい。これまでに、十分なタンパク質の摂取と筋力トレーニングがサルコペニアの予防・改善につながり、適切なエネルギー量の摂取と有酸素運動が心血管代謝疾患の予防・改善につながることが示唆されている。

ただし、これらの知見の多くは高齢者を対象とする研究から得られたもので、若年成人のサルコペニアの有病率や体組成の関連因子は十分に検討されていない。また、非高齢者におけるそれらの加齢変化についても不明点が少なくない。

以上を背景として井上氏らは、非高齢者が多くを占める企業従業員の健診データを用いて、以下の横断研究を実施した。

解析対象と評価指標について

解析対象は、2023年に定期健康診断を受診した企業従業員3,156人(単一医療機関のデータ)のうち、年齢20~59歳で、疾患既往歴やデータ欠落がなく、インフォームドコンセントの得られた1,738人(平均年齢35.7±9.9歳、男性39.2%)。対象者の大半は日本人であり、職務はデスクワークや軽作業が多くを占めていた。

体組成は生体電気インピーダンス法により求めた、骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)と体脂肪指数(body fat mass index;BFMI)を指標とした。また、アジアサルコペニアワーキンググループの基準を用いて、SMIが男性は7.0未満、女性は5.7未満をサルコペニアと判定した。なお、SMIは四肢骨格筋量を身長の二乗で除した値、BFMIは体脂肪量を身長の二乗で除した値。

食習慣については、食品群別の摂取頻度を把握したうえで、過去1週間に摂取した食品群の多さを表す食事多様性スコア(dietary variety score;DVS)を算出して評価した。DVSのスコア範囲は0~10点で、本研究では0~2点を食事の多様性が低い、3~5点は中程度、6点以上は多様性が高いと判定した。

運動習慣については、「ほとんどしない」、「時々」、「ほぼ毎日」の三つに分類した。

加齢による体組成の変化の性差、運動習慣の体組成への影響が明らかに

解析は性別に行い、また加齢変化を見るために年齢を10歳単位で層別化し検討した。なお、平均年齢は男性・女性いずれも約36歳だった。

加齢により男性は体脂肪量が増加、女性は骨格筋量と体脂肪量の双方が増加

まず、体組成の全体的な傾向をみると、男性は女性より、BMI(23.0±3.1 vs 21.1±3.3)、SMI(8.37±0.76 vs 6.72±0.50)が高値であり、BFMIは女性のほうが高値だった(4.67±1.98 vs 6.13±2.63)。サルコペニア該当者は、男性2.8%、女性1.8%だった。

加齢に伴う変化に着目すると、男性のSMIは20代から50代にかけて有意な変化はみられなかった。それに対してBFMIは、20代4.17±1.84、30代4.75±2.04、40代4.96±2.03、50代4.95±1.70と、加齢に伴い上昇していた。

一方、女性はSMIが上記と同順に6.63±0.48、6.68±0.44、6.83±0.50、6.86±0.56、BFMIは5.81±2.31、6.01±2.49、6.20±2.66、7.09±3.35であり、ともに加齢に伴い上昇していた。つまり、加齢によって男性は体脂肪量の増加、女性は骨格筋量と体脂肪量の増加という体組成の変化が生じることが示唆された。なお、このような加齢変化とは別に、20代女性のサルコペニア該当者率が3.3%と顕著に高いことも明らかになった。

習慣的な運動の頻度は骨格筋量と関連するが、体脂肪量とは関連せず

次に運動習慣と体組成の関連をみると、男性・女性ともに、運動の頻度が高いほどSMIが高いという有意な関連が認められた。それに対して、体脂肪量については、男性・女性ともに有意な関連が認められなかった。

この結果について著者らは、「骨格筋量が運動により増大しやすいのに比べて、体脂肪量は運動以外にも食事などの影響を及ぼし得る因子が多いこと、および、本研究の対象者の大半がデスクワーク中心の労働者であったことが関係している可能性がある」と考察している。

食物摂取頻度は健康な若年成人の骨格筋量にも影響を与える可能性

魚介類、大豆製品、乳製品、脂質・油脂の摂取頻度が体組成に関連

続いて、食物摂取頻度と体組成との関連を単変量解析で検討すると、男性では魚介類、大豆製品の摂取頻度が低いことがSMI低値と関連し、女性では乳製品の摂取頻度が低いことがSMI低値と関連していた。また、男性・女性ともに、脂質食品・油脂の摂取頻度が低いことはBFMIの低さと関連していた。

女性は食事の多様性が高いほど骨格筋量が多い

食事多様性スコア(DVS)については、女性においてDVSが高い群ほどSMIが高いという有意な関連が認められた。つまり、食事の多様性が高い女性は骨格筋量が多かった。そのほか、女性におけるDVSとBFMIとの関連は有意でなく、男性においてDVSはSMIおよびBFMIの双方と関連がみられなかった。

前記の単変量解析で有意な関連が認められた食品群と、年齢、運動習慣を独立変数、SMIを従属変数とする重回帰分析の結果、男性では運動頻度の高さ(ほぼ毎日)がSMIの独立した正の関連因子として抽出された(β=0.25)。女性については、上記のようにDVSがSMIと有意な関連があったことから、DVSも独立変数に加えて解析した結果、年齢がSMIの独立した正の関連因子として抽出され(β=0.15)、運動頻度の低さ(ほとんどしない)は独立した負の関連因子として抽出された(β=-0.1)。

若年成人のサルコペニアリスクの経時的変化を探る研究が求められる

本研究により、比較的若年の健康な日本人成人において、2~3%がサルコペニアに該当する可能性のあること、運動習慣と食習慣は骨格筋量と有意に関連し、体脂肪量は年齢と脂質食品摂取量と関連していることが示された。

著者らは本研究が横断研究のため因果関係の考察は制限されること、単施設のデータであり対象者の大半がデスクワーク中心の業務であることなどを研究の限界点として挙げ、「労働年齢層を対象とした研究は限られている。今後は縦断的デザインの研究により、ライフスタイルが非高齢者のサルコペニアおよびサルコペニア肥満のリスクに及ぼす長期的な影響を評価する必要がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of Exercise and Dietary Habits With Muscle and Fat Mass in Healthy Working-Age Adults: A Cross-Sectional Study」。〔Cureus. 2025 Jul 29;17(7):e89003〕
原文はこちら(Cureus)

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