栄養知識が豊富な大学生は栄養素摂取量が相対的に良好 ただし関連は限定的
国内の大学生を対象とする調査の結果、栄養に関する知識の豊かさと、栄養素摂取量の適切さに関連がみられることが明らかになった。ただし、その関連性は弱く、全体的に食物繊維の不足やナトリウムの過剰傾向にあるなどの課題も浮かび上がり、単に栄養の知識を高めるだけでは、若年成人の食習慣是正につながりにくい可能性も示唆された。立命館大学食マネジメント学部の柳原八起氏らの研究によるもので、論文が「Journal of Nutritional Science」に掲載された。
大学生の栄養知識と栄養素摂取の適切さの関連についてのアジア初の研究
中年期以降に好発する多くの非感染性疾患(non-communicable diseases;NCD)のリスクは、生活習慣、とくに食習慣と関連している。そして食習慣は、若年期までに形成され、いったん身に付いた習慣の変更は困難であることが多い。
食習慣に影響を与える要因の一つとして、栄養に関する知識の多寡が挙げられる。これまでに、栄養知識と食習慣との関連が成人の日本人対象研究からも報告されている。ただし、食習慣の形成に重要な二十歳前後の若年者を対象とした調査は行われていない。そして、その世代の多くは大学生であり、大学生は朝食欠食、ファストフードの頻繁な利用、果物や野菜の不足などの非健康的な食生活を送りがちであることが知られている。
そこで柳原氏らは、国内の大学生を対象とする調査を実施し、栄養知識と栄養素摂取量の適切さとの関連を検討した。大学生を対象とするこのような研究は、アジアでは初めてのものだという。
NKQで栄養知識を評価し3群に分けて比較
調査は兵庫県にある、学生数1万人以上の大学で実施された。医療・健康系、人文科学系、社会科学系など広範囲の学部生、2,036人に自記式質問票を配布し、1,295人(63.6%)から回答と同意を得た。なお、適格条件は18歳以上の学生であることとし、疾患治療のために医師や栄養士から食事・栄養の個別指導を受けたことのある学生、および妊娠・授乳中の学生は除外した。
栄養に関する知識は、海外で開発され日本人向けに改訂された84項目の質問票(nutrition knowledge questionnaire;NKQ)で評価。食事・栄養素摂取量は簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)で把握し、「日本人の食事摂取基準(dietary reference intakes;DRI)」の必要量や目標量を参照して適切さを判定した。
NKQの正答率は全体で64.7±15.4%、高知識群は78.5±4.2%、低知識群は48.1±13.8%
エネルギー摂取量が極端な(摂取エネルギー量がDRIの身体活動量「最低」カテゴリーに必要とされる量の半分未満、または身体活動量「最大」カテゴリーに必要な量の1.5倍超)学生、BMIが平均から2標準偏差以上乖離している学生、質問票の回答に不備があるものなどを除外し、801人(回答者の39.3%)を解析対象とした。その解析対象者全体の栄養知識(NKQ)は、64.7±15.4%だった。
NKQのスコアの三分位数に基づき3群に分類すると、高位群は78.5±4.2%、中位群は68.3±2.8%、低位群は48.1±13.8%だった。
この3群間の学生の特徴を比較した場合、高位群は女性の割合が中位群より高く(低位群から順に52.5、45.2、59.5%)、低位・中位群と比べて医療・健康系の学生が多く(同順に40.6、49.8、68.9%)、中位群より摂取エネルギー量が少なかった(1,874、1,938、1,744kcal/日)。また、中位群は他の2群に比べて身体活動量が多かった(歩行速度などの3項目による評価スコアが1.7点で、他の2群は1.3点)。年齢、BMI、喫煙状況、自由に使えるお金の額などは有意差がなかった。
なお、解析から除外された回答者との比較では、解析に含まれた対象はNKQスコアが有意に高く、「日本人の食事摂取基準(DRI)」の必要量や推奨量を満たしていない栄養素の数が有意に少なかったことからも、健康リテラシーの高い集団であった可能性が高い。
NKQはDRIの目標量と関連し、推定平均必要量とは関連なし
栄養素摂取量の適切さは、「日本人の食事摂取基準(DRI)」に推定平均必要量が掲げられている13種類の栄養素(タンパク質とビタミンやミネラル)については基準値より少ない栄養素の数をカウントし、DRIに生活習慣病予防のための目標量が掲げられている7種類の栄養素(タンパク質、脂質、飽和脂肪酸、炭水化物、食物繊維、ナトリウム、カリウム)はその範囲を逸脱している栄養素をカウントして、それらが少ないことをもって適切と評価した。
NKQが高いほど、推定平均必要量を満たしていない栄養素が少ない
推定平均必要量を満たしていない栄養素の数は、解析対象全体で3.3±2.8であり、栄養知識(NKQ)の多寡で比較すると、低位群は3.6±2.9、中位群は3.2±2.6、高位群は3.1±2.7であって、栄養知識が豊富な学生ほど摂取量が不適切な栄養素が少ないという有意な関連が認められた(傾向性p=0.016)。
一方、目標量を満たしていない栄養素の数は、全体で4.4±1.2であり、NKQ低位群と中位群はともに4.4±1.2、高位群は4.5±1.3であって、栄養知識と摂取量の適切さの関連はなかった(傾向性p=0.856)。
ふだん摂取している食品群との関連
次に、栄養知識の多寡とふだん摂取している食品群との関連を解析した。
その結果、麺類(傾向性p=0.011)、および果汁や野菜のジュース(傾向性p<0.001)の摂取量は、NKQが高い群ほど少ない傾向がみられた。反対に、イモ類(傾向性p=0.014)、キノコ類(同0.013)、緑黄色野菜(0.022)の摂取量は、NKQが高い群ほど多い傾向があった。
食習慣改善は、栄養知識だけでなく健康リテラシー全体の底上げが必要
以上の結果から、栄養知識が豊富な学生は、そうでない学生よりも健康的な食生活を送っていることが示唆された。ただし、その差は推定平均必要量でのみ有意であり、生活習慣病予防のための目標量については有意差がないという限定的な差であった。また、目標量が掲げられている7種類の栄養素のうち、推奨を満たしていない栄養素が平均4.4種に上り、食物繊維の不足(目標量からの逸脱が94.9%)、ナトリウムの過剰(同98.8%)などが観察された。
このことから著者らは、「健康な若年成人の生活習慣病予防のための食習慣改善指導に際しては、栄養知識の向上だけでは不十分であり、健康リテラシーを全体的に高めるような介入が必要ではないか」との考察を述べている。
なお、研究の限界点として、横断研究であり因果関係の検討が制限されること、単一の大学での調査であること、解析対象は回答者の約4割であり選択バイアスの存在を否定できないことなどを挙げている。とくに最後の点については、解析に含まれなかった学生の特徴として、解析対象学生に比べて女性が少ない、喫煙者が多い、NKQが低いという違いが認められたことから、「本研究の結果は健康リテラシーが比較的高い学生で得られたものであり、他の集団での調査が必要とされる」と付け加えられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Relationship between nutrition knowledge and nutritional adequacy in Japanese university students: a cross-sectional study」。〔J Nutr Sci. 2025 Feb 5:14:e14〕
原文はこちら(Cambridge University Press)