男性アスリートも利用可能エネルギー不足(LEA)に要注意 パフォーマンス低下や健康状態悪化に関連
スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)については女性アスリートを対象とする研究が多くなされているが、男性アスリートでもエネルギー不足が種々の健康リスクを高めたりパフォーマンスを低下させたりすることを示唆するデータが報告された。自己申告による心血管機能障害やメンタルヘルス関連疾患、トレーニング反応の低下、持久力パフォーマンスの低下などと有意な関連が認められるという。米国発の報告。
男性アスリートも、LEAがパフォーマンス低下や健康リスクにつながるのか?
アスリートは一般人口に比べて消費エネルギー量が多く、食事でそれを十分補えていないことがある。これには、トレーニング負荷による食欲低下や消化・吸収の遅延、体重が軽いほうが有利と考えられている競技や体重別階級のある競技、審美系競技のアスリートでの意図的な減量などが関係している。このようなことで利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)の状態となると、それが競技パフォーマンスや健康に悪影響となって現れ、選手寿命の短縮、および引退後の長期的なQOL低下などの懸念が生じてくる。これをスポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;REDs)と呼び、注意喚起がなされている。
REDsは、かつて「女性アスリートのトライアド(female athlete triad;FAT)」と呼ばれ、LEA、無月経、骨粗鬆症が重要な健康問題とされていたことから、現在に至るまでREDs関連の研究の多くは女性アスリートを対象に行われてきている。例えば今回取り上げる論文の著者らも以前、15~30歳の女性アスリート1,000人を対象とする調査を行い、LEAがREDsの後遺症と相関していることを報告している。
一方で近年、男性アスリートにもREDsはあり、やはりLEAが重要なリスク因子であることが示唆されるようになってきている。そこで本研究の著者らは、15~30歳の男性アスリートを対象とする調査を実施した。研究の仮説は、LEAの男性アスリートは適切なEAの男性アスリートよりも、REDs関連のアウトカムが高率に発生しているというもの。
スポーツ医学専門外来を受診した男性アスリートを対象に調査
この研究の対象は、ボストン小児病院とスタンフォード小児整形外科センターという、米国内の三次医療機関に設置されているスポーツ医学外来を受診した、15~30歳の男性アスリート。過去6カ月間に週4時間以上のトレーニングを行っていることを適格基準とした。LEA、およびREDsの評価方法・項目は以下のとおり。
LEAの評価方法
本研究が計画された時点では、男性アスリートのLEAの評価基準は確立されていなかった。そこで、サロゲートマーカー(代理の指標)として、自己申告による摂食障害の既往、摂食障害検査質問票(Eating Disorder Examination-Questionnaire;EDE-Q)、プライマリケアのための摂食障害スクリーニング(Eating disorder screen for primary care;ESP)という3種類を用いてLEAを判定した。
REDsの評価項目
REDsについては、健康関連では、自己申告に基づく心血管、消化管、免疫、骨代謝、内分泌・代謝、血液、成長・発達、メンタル、性腺機能など、11項目を評価した。競技パフォーマンス関連では、持久力、トレーニングへの反応、判断力、筋力の低下、怪我のリスク、集中力の低下、易怒性、抑うつなど、9項目を評価した。
男性アスリートもLEAはREDs関連症状のリスクにつながる
ボストン小児病院では1,561人の患者が研究参加に同意し786人が回答を完了した(完了率50.4%)。スタンフォード小児整形外科では64人が研究参加に同意し27人が完了した(同42.2%)。全体の完了率は50.0%で、平均年齢は18.4±2.8歳だった。
回答を完了した813人のうち、前記の3種類のサロゲートマーカーのいずれかに該当しLEAと判定されたのは119人(14.7%)だった。LEA群と非LEA群を比較すると前者のほうが若年で(18.3±2.90 vs 19.4±3.38歳、p=0.0006)、BMIは後者のほうが高かった(23.7±5.80 vs 27.42±6.11、p<0.0001)。
なお、3種類のサロゲートマーカーのうち、最も高い割合でLEAを判定したのはEDE-Qであり、対象全体の11.1%をLEAと判定した。自己申告に基づく何らかの症状を有することによるLEA判定は3.8%、ESPによる判定は2.1%だった。全体の0.50%(LEAの3.4%)は、3種類すべての基準が該当しLEAと判定されていた。
REDsのうちの健康関連の指標へのLEAの影響
自己申告に基づいて評価した11項目のREDs関連症状を有する割合を、LEAでない群を基準としてオッズ比としてみると、心血管(OR2.87〈95%CI;1.56~5.26〉)、メンタル(OR3.23〈1.91~5.41〉)という2項目は、LEA群で有意に多いことがわかった。
その一方、性腺機能については、OR0.49(0.30~0.81)であり、LEA群のほうがむしろ、自己申告による性腺機能低下が少なかった。ただしこの点について著者らは、「既報研究とは矛盾した結果であり、両群ともに70%前後が性腺機能低下ありと回答していた。性腺機能低下の有病率がそのように高いとは考えにくく、性腺機能の有無を評価する信頼性に優れた新たな質問票を開発する必要があるのではないか」との考察を述べている。
REDsのうちのパフォーマンス関連の指標へのLEAの影響
パフォーマンス関連では、LEAでない群を基準としてLEA群は、トレーニング反応の低下(OR2.64〈1.38~5.03〉、p=0.0032)、および、持久力の低下(OR2.26〈1.13~4.52〉、p=0.21)という2項目について、有意に多く認められた。その他、筋力低下、怪我のリスク増大などについては、有意差はみられなかった。
著者らは、本研究の実施期間が一部、新型コロナウイルス感染症パンデミック中にかかっていたことが結果に影響を及ぼした可能性のあることなどを限界点として挙げたうえで、「LEAを表すサロゲートマーカーは、男性アスリートにおけるREDs関連の多くの有害な健康アウトカム、およびパフォーマンス低下と関連している」と結論。また、「若い男性アスリートにおけるREDに関する、より多くの前向き研究が必要とされる」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Low energy availability surrogates are associated with Relative Energy Deficiency in Sport outcomes in male athletes」。〔Br J Sports Med. 2024 Oct 26:bjsports-2024-109165〕原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)