60歳以上の男性の突然心停止リスクは50歳未満の約6倍 国内マラソン大会の実態報告
日本陸上競技連盟(JAAF)公認コースマラソン大会(42.195km)参加者の心停止の発生状況が初めて明らかになった。60歳以上の男性は50歳未満の男性と比べてマラソン中の心停止発生率が約6倍高く、大会参加前に心臓病がないかのチェックを受けることの重要性が示唆された。JAAF医事委員会に所属する慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの真鍋知宏氏、国立病院機構霞ヶ浦医療センターの加藤穣氏、丸紅健康開発センターの山澤文裕氏らの研究グループによる研究であり、「Resuscitation」に論文が掲載されるとともにプレスリリースが発行された。ここではプレスリリースのテキストや図を引用しながら、論文の要旨を紹介する。
運動は健康にメリットがある一方、最悪の場合、突然心停止につながる
運動には多くの身体的・精神的なメリットがあるとともに、リスクが存在することも広く知られている。リスクの最悪のものは突然の心停止(sudden cardiac arrest;SCA)であり、男性、および習慣的に運動を行っていないことがSCAのリスク因子であると報告されている。ただし、日本国内で開催されるマラソン大会参加中に、どの程度の頻度でSCAが発生するのか、および、そのリスク因子は明らかになっていない。
これまでにスポーツ中の心停止に関する論文は数多く発表されており、マラソン関連の論文もあるものの、それらの多くは10kmやハーフマラソンを含めて検討されたものだった。そこで本研究グループでは、日本国内で1年間に約70大会が開催されているJAAF公認コースマラソン大会(42.195km)の主催団体に調査票を送り、各マラソン大会における参加者、医療救護体制、心停止例の有無などに関する情報を収集した。
2011~18年度の8年間に開催された全大会を対象に調査
2011~18年度の8年間に国内で開催されたJAAFコースマラソン大会は516大会であり、この全レース主催者に調査票を送付し、495大会(95.9%)から回答を得た。参加者数は延べ409万9,177人で、男性が78.6%だった。
回答を得られた大会のうち243大会については各年齢層の参加者数を特定できた。年齢構成は40歳未満が37.4%、40代34.7%、50代19.6%、60歳以上8.3%だった。
60歳以上の男性はマラソン参加前に入念なチェックを
57大会で突然の心停止(SCA)発生の記録が認められた。患者数は合計69人で、10万人あたりの発生率は1.7(95%CI;1.3~2.1)だった。患者の年齢は中央値53歳(四分位範囲44~62)で、95.7%が男性だった。男性のSCA発生率は10万人あたり2.1(95%CI;1.6~2.6)であるのに対して、女性では同0.3(0.05~0.7)と少なかった。
年齢層別にみると、40歳未満では10万人あたり0.9(95%CI;0.4~1.4)、40代も同0.9(0.4~1.4)だが、50代では2.6(1.5~3.8)と多くなり、60歳以上では5.5(5.9~8.2)と顕著に増加していた。なお、女性で50歳以上のランナーにはSCA発生の記録はなかった。また、男性では年齢層が高いほどSCA発生率が高かったが、女性ではその傾向はみられなかった。
図 ランナー10万人あたりの心停止発生率
SCAとなった69人のうち52人(75.4%)は、自動体外式除細動器(AED)による除細動を受けていた。それらの一次救命処置により68人(98.6%)は蘇生していたが、残りの1人は、胸骨圧迫とAEDの使用にもかかわらず蘇生が成功しなかった。
以上を基に論文の結論は、「我々の研究により、60歳以上の男性は、フルマラソン参加中にSCAの発生率が最も高いことが明らかになった。フルマラソンに参加するすべてのランナーに対して、参加前に潜在的なリスクを十分に理解し、必要なチェックを受けることを推奨する」と総括されている。
今後の展開:マラソン中の心臓突然死ゼロを目指して
なお、リリースによると、JAAFは現在もマラソン大会申し込み時と大会参加直前のチェックリストを公開しているが、本研究の成果を踏まえて、今後は60歳以上の男性に対する注意喚起を行う文言をそのリストに追加する予定とのことだ。また、マラソン大会で発生したSCAと、さまざまな条件(気象条件、医療救護体制など)との関連の研究を進めていくという。
研究グループでは、「本研究や今後のさらなる研究の成果により、マラソン大会をより安全、安心に実施し、心臓突然死ゼロを目指していくことが期待される」としている。
出典
日本陸連公認コースマラソン大会における年齢層別心停止発生状況を調査-60歳以上の男性に対する参加前検査の重要性を示す-(慶應義塾大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Sudden cardiac arrest during marathons among young, middle-aged, and senior runners」。〔Resuscitation. 2024 Oct 20:204:110415〕
原文はこちら(Elsevier)