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米軍特殊部隊の兵士はエネルギー出納が全員マイナスで、その程度の大きさが抑うつレベルと相関

海外に展開した米陸軍特殊部隊兵士のエネルギー出納を調査した結果、対象者全員が負のバランスとなっており、平均すると1日あたり3,000kcal近くマイナスであることが報告された。さらに、そのマイナスの程度の大きさが、怒りや抑うつの感情のスコアと有意に相関していたという。

米軍特殊部隊の兵士はエネルギー出納が全員マイナスで、その程度の大きさが抑うつレベルと相関

作戦中の特殊部隊はエネルギーバランスも極めて特殊

米陸軍特殊部隊は極限の環境下で厳しい身体的・精神的活動の推敲が求められる。消費エネルギー量を測定するゴールドスタンダードである二重標識水法を用いた過去の研究では、野外活動中の特殊部隊の兵士は1日に3,700~6,300kcalほど消費し、消費したエネルギー量を食事で満たすことは困難であることが示されている。負のエネルギーバランスは、免疫能の低下、筋力や体力の低下などを介して兵士としてのパフォーマンスを下げるように働く。さらに経験的に、気分障害や消化器症状とも関連することが知られている。

今回紹介する論文の研究は、海外に展開した米陸軍特殊部隊の兵士の消費エネルギー量と摂取栄養素および摂取エネルギー量、ならびに作戦従事中の食事の支度や摂取状況を調査するとともに、抑うつや怒りなどの気分状態も調査して、それらの関連を検討したもの。

米国外に半年間展開した特殊部隊兵士を対象として帰国後に調査

米国から海外に派遣され前線で展開中の陸軍特殊部隊の兵士に対して研究参加の募集要項を配布し、同意した96人がこの研究に参加した。参加は任意であり、インフォームドコンセントを得た。データ欠落のため、最終的な解析対象は46人となった。すべてが男性だった。

消費エネルギー量は、特殊部隊兵士の消費エネルギー量を二重標識水法で評価した値と強い相関(r=0.75~0.76)が確認されている、精度検証済みの計算式で算出。摂取栄養素量やエネルギー量は、127項目からなる質問票によって評価した。これらは、6カ月の海外展開から米国に帰国後2週間以内に実施された。この期間は、兵士の行動が最も自由であり、ミッション上の負荷が最も低くなる時期だという。

エネルギー出納は-2,854kcal/日で全員マイナス

解析対象者46人の主な特徴は、年齢30.3±3.5歳、BMI27.8±3.4であり、軍歴は8.9±3.9年、作戦参加回数2.5±1.6回、作戦参加期間20.0±14.0カ月だった。
作戦参加中の食事の状況:

最初に作戦参加中の食事の状況についての調査結果に着目すると、3分の1以上が「任務中に食事をするのが困難」と回答していた。具体的には「極めて困難(extremely difficult)」が8.7%で「たいへん困難(very difficult)」が26.1%であった。また、「任務中は食欲がない」という意見に対して、「ほぼ同意」が28.3%、「強く同意」が8.7%であり、「任務中は食べ物を準備する時間がない」に58.7%が同意。47.8%は「配給食の味が良ければもっと食べる」ことに同意した一方、「食べ物がもっとあればもっと食べらる」への同意は28.3%にとどまっていた。
作戦参加中のエネルギー出納:

作戦参加中の消費エネルギー量は、5,272±525kcal/日であり、一方、摂取エネルギー量は2,512±1,059kcal/日であって、-2,854kcal/日(95%CI;-3,055~-2,655)と、全員が負のバランスだった(範囲-3,813~-492kcal/日)。主要栄養素摂取量は、炭水化物が274.6g/日(44%エネルギー)、タンパク質113.8g/日(1.28g/kg/日、18%エネルギー)、脂質108.0g/日(38%エネルギー)だった。

エネルギーバランスが気分状態のスコアと有意に相関

65項目からなる質問票(Profile of Mood States;POMS)で気分状態が評価され、そのスコアとエネルギーバランスとの関連を検討した結果、抑うつ(r=0.517、p<0.001)と怒り(r=0.363、p=0.020)が負のエネルギーバランスと有意な関連が認められた。緊張や疲労、活力のスコアとの関連は非有意だった。

そのほか、主要栄養素や食物繊維の摂取量、軍歴、作戦参加回数・参加期間、睡眠時間、消化器症状などとの関連も検討されているが、いずれも有意な関連は認められていない。

抑うつレベルが負のエネルギーバランスと独立して関連

次に、エネルギーバランスを従属変数、抑うつおよび怒りのスコアを独立変数とする多重回帰分析を施行。その結果、抑うつレベルはエネルギーバランスが負であることと独立した関連が認められた(β=50.768、p=0.011)。怒りのスコアに関しては、独立した関連は示されなかった。なお、抑うつと怒りのレベルは、エネルギーバランスの分散の23%を説明すると計算された。

著者らは本研究を、「戦闘地域に派遣された特殊作戦部隊の兵士のエネルギーバランスの状態と、その関連要因を調査した初の研究」としている。結論として、「特殊作戦部隊の兵士は全員、著しいエネルギー不足に陥っており、これが身体的および作戦上のパフォーマンスに影響している可能性があり、さらに抑うつや怒りなどの気分状態と関連している」と総括。今後の研究では、気分状態がエネルギーバランスやその他の心理的特性に与える影響を、縦断的に検討する必要があると述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Energy Deficit and Factors Associated with Energy Balance during a Combat Deployment in U.S. Army Special Operation Forces Soldiers」。〔Nutrients. 2024 Sep 12;16(18):3072〕
原文はこちら(MDPI)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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