高用量のビタミンD摂取で欠乏リスクは低下するも身体パフォーマンスへの影響は限定的
男性兵士を対象に、ビタミンDの投与量を2パターン設定して介入し、ビタミンD欠乏や身体的パフォーマンスへの影響を調査した、無作為化三重盲検試験の結果が報告された。高用量群ではビタミンD欠乏のリスクが有意に低下したものの、パフォーマンス指標に関しては群間差がなく、効果は限定的だったという。
ビタミンD摂取の血清25(OH)Dレベルや身体能力への影響は?
ビタミンDに関しては近年、精力的な研究が行われるようになり、古くから知られていた欠乏・不足による骨代謝への影響だけでなく、免疫能、メンタルヘルス、身体的パフォーマンスなどへのプラスの作用が示唆されてきている。新型コロナウイルス感染症パンデミック時には、一般生活者の間でもリスク抑制のためにビタミンDレベルを高めようとする動きもみられた。
体内のビタミンDの多くは日光曝露による皮膚で作られるため、高緯度地域ではビタミンD欠乏・不足のリスクが高くなる。今回紹介する研究が行われたエストニアは、北緯59度前後に位置するため、とくに冬季にはビタミンDが不足しやすい(ちなみに札幌は北緯43度)。兵士は夏季の屋外で行動中も迷彩服を着用するため、日光曝露が少なくなりやすい。ビタミンD低値が身体能力にとってマイナスに働く可能性もあることから、ビタミンDの身体パフォーマンスへの影響力次第では、兵士のビタミンD不足が健康課題であるとともに軍務上の問題ともなり得る。
新兵を対象に600IUまたは4,000IUで10カ月間介入
このような事情を背景として、この研究では兵士のビタミンDレベルの把握と、4,000IU(100μg)という高用量または600IU(15μg)という低用量のビタミンD経口摂取を10カ月継続した場合の血清25(OH)Dレベルへの影響、および身体パフォーマンスへの影響を、無作為化三重盲検比較試験で検討している。
研究参加者はエストニアのヴォルという都市(北緯58度。米国アラスカ南部に相当)を拠点とする大隊の新兵(徴兵)から募集された。1大隊438人のうち、116人が参加に同意。医学的理由による除外、および条件の標準化のハードルのため4人の女性兵士を除外し112人を適格とし、55人を低用量群、57人を高用量群と無作為に割り付けた。
10カ月の介入は同国の通常の軍事訓練中に行われた。軍事訓練は通常6~22時で、メインの食事が3回と軽食が2回支給される。訓練の内容は、0.5~2時間のトレーニングという軽度のものから、完全武装し複雑な地形の中で50kmの行軍をするというハードなもので構成されていた。
評価項目について
主要評価項目は血清25(OH)Dレベルであり、副次的評価項目として、陸軍体力テスト(army physical fitness test;APFT)と握力という身体能力関連指標が設定されていた。
陸軍体力テスト(APFT)
腕立て伏せ2分、腹筋2分、3.2kmのランニングという3種目で構成されているテストで、それぞれ年齢と性別に基づき0~100点の範囲で評価され、合計スコア最低180点以上が合格ライン。介入期間中に3回(7月、10月、および介入終了時である翌年の5月)実施された。
握力
両手で3回ずつ計測し、最も良好な値を記録した。介入期間中に3回(7月、10月、および翌年の1月)に測定した。
血清25(OH)Dレベルは介入後に有意差が発生も、身体能力の群間差は非有意で推移
介入前(ベースライン)において、年齢やBMI、および身体能力関連指標に有意差はなかった。なお、高用量群の2人、低用量群の3人が、研究参加前にビタミンDサプリメントを摂取していたが、その割合に有意差はなかった。また、介入開始以前にサプリ摂取は禁止された。
血清25(OH)Dレベル
ベースラインでの血清25(OH)Dレベルは、ベースラインで同等であったことを除いてすべての時点で群間差が有意であり、高用量群のほうが高値で推移していた(p<0.001)。
低用量群では、日光曝露の減少する冬季~春季(1月および5月)に、充足と判断されるレベル(75nmol/L)に達していた兵士は存在しなかった。一方、高用量群では1月に59%、5月に38%が充足していた。
身体能力関連指標
陸軍体力テスト(APFT)の合計スコアには、介入前から介入終了までの3時点いずれにおいても、群間差は非有意だった。握力についても群間差は非有意だった。ただし、各群内でのAPFTの成績の変化をみると、高用量群において向上している傾向が認められた。
例えば合計スコアは、低用量群は介入前が173.3±52.5点、介入後が195.3±47.2点で有意な変化がないのに対して、高用量群では174.1±60.6点から204.2±49.0点と有意に上昇していた(p<0.001)。腹筋の回数も高用量群でのみ有意に増加していた(p=0.02)。背筋の回数は両群ともに変化が非有意だった。3.2kmランニングのタイムは、両群ともに7月から10月にかけては有意に向上していたが、1月の記録はともにベースラインと有意差がないタイムだった。
以上一連の結果に基づき著者らは、「10カ月間の無作為・盲検化されたデザインで行った本研究から、ビタミンDを高用量摂取するとビタミンD欠乏・不足のリスクは抑制されることが示された。一方で身体能力には有意差がみられなかった」と結論している。ただし、プラセボ群を設けなかったことや、体組成などを評価していなかつたことなどの限界点があり、さらなる研究の必要性があるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「High dose vitamin D supplementation decreases the risk of deficiency in male conscripts, but has no effect on physical performance—A randomized study」。〔J Exp Orthop. 2024 May 1;11(3):e12023〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)