短期間の夜間糖質制限法は精神的な負担を抑えてパフォーマンスを向上する可能性 国内大学アスリート対象RCT
低グリコーゲン状態にすることで運動中のエネルギー効率を高め、持久力を向上させ得るとされるSleep-Low法を短期間限定で行うことで、精神的ストレスに影響を与えることなく、そのメリットを得られる可能性を示唆するデータが報告された。森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科の坂本拓巳氏らの研究によるもので、「Nutrients」に論文が掲載された。
夜間糖質制限「Sleep-Low法」によるストレス負荷を抑えつつ、メリットを得られないか?
運動持久力を高める方法として、筋グリコーゲンの貯蓄を増やすという戦略が古くから行われている。ただし、筋グリコーゲンの貯蓄には限界があり、競技時間が長いスポーツでは試合後半に、いわゆるスタミナ切れが生じやすい。この対策として、グリコーゲンの利用効率を高めることでその消費を抑制しようとする戦略が模索されており、その一つとして、夜間糖質制限ともいうべきSleep-Low法のエビデンスが蓄積されてきている。
Sleep-Low法は、1日の糖質摂取量は変えずにその時間的分布をアレンジして、夜間に低グリコーゲン状態とすることで、その間にグリコーゲンの利用効率を高めるような体質の変化を誘導しようとするもの。より詳しくは、運動に必要なエネルギーは細胞内小器官であるミトコンドリアで生成されるが、そのミトコンドリアはアデノシン一リン酸キナーゼ(adenosine monophosphate activated protein kinase;AMPK)活性によって増加するものの、AMPKの活性はグリコーゲンにより阻害されてしまうため、低グリコーゲン状態としながらトレーニングを行うことでAMPK活性を高めてミトコンドリア数を増やすという戦略。
このSleep-Low法によって脂質酸化の増加など、グリコーゲン温存につながる変化が生じることが報告されている。ただし、スポーツパフォーマンスが向上するとする明確なエビデンスは確立していない。また、糖質制限は人によっては精神的ストレスとなり得るという課題も存在する。アスリートの場合、ストレスはパフォーマンス低下のリスク因子であり、かつ怪我のリスク上昇につながることも報告されている。
以上を背景として坂本氏らは、期間を短期に限定して夜間糖質制限法を行うなら、精神的ストレスを強めることなくメリットを得られるのではないかと考え、大学生アスリート対象の無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)による検討を行った。
学生アスリート対象1週間介入のRCTで、パフォーマンスとストレスの変化を比較
研究参加者は大学運動部に所属している学生22人。無作為に11人ずつの2群に分け、1群は夜間糖質制限群(22.3±1.23歳、男性6名、女性5名)、他の1群は通常の食事を続ける対照群(21.9±7.9歳、男性5名、女性6名)とした。
研究期間は2週間で、最初の1週間は両群ともに介入を行わず通常の食生活を送ってもらい、AIアプリを用いてエネルギー摂取量と糖質摂取量を把握した。そのデータに基づき2週目には、夜間糖質制限群ではエネルギー摂取量と糖質摂取量は変えずに毎日午後4時以降の糖質摂取を禁止するように指示した。事後解析で両群ともに、1日あたりのエネルギー摂取量、糖質摂取量は変化していなかったことが確認された。なお、研究期間中はアルコールとカフェインの摂取を禁止した。
低グリコーゲン状態でAMPK活性を高めるためのトレーニングとして、毎日、午前8時間から1時間、65%HRmaxでのランニングを屋外で行った。このランニングは対照群にも同様に課した。
夜間糖質制限でストレスの影響を強めることなく、パフォーマンスが向上する
介入効果は、自転車エルゴメーターによる漸増負荷テストによるVO2peakで判定した。具体的には、1分ごとに20Wずつ負荷を高めていき、対象者には回転数を60回/分に維持するよう求め、50回/分を切った時点で終了とした。
このほか、体組成の変化、呼吸商の評価によるエネルギー基質の変化を把握するとともに、気分プロフィール検査(Profile of Mood States scale 2;POMS2)を用いて精神的ストレスの変化を評価した。
夜間糖質制限群でVO2peakが有意に上昇し、POMS2のスコアは変化せず
VO2peakは対照群では介入前後で有意な変化がない一方、夜間糖質制限群では有意に上昇していた。最大出力も同様に、夜間糖質制限群でのみ有意な上昇が観察された。呼吸商については夜間糖質制限群でのみ有意な低下が観察され、脂質酸化が増大したことが示唆された。なお、心拍数に関しては両群ともに有意な変化がなかった。
一方、POMS2で評価したメンタルヘルス状態は、総合スコアおよびサブスケールスコアともに、両群とも有意な変化がなく、短期間の夜間糖質制限ではストレス面への影響は生じないことが示唆された。
夜間糖質制限群で体重が減少。ただし除脂肪体重も減少
体組成に関しては、対照群では体重、体脂肪率、除脂肪体重のいずれも、有意な変化が認められなかった。それに対して夜間糖質制限群では体重が有意に減少。体脂肪率に変化はなかったが、除脂肪体重は有意に低下していた。
夜間糖質制限群で除脂肪体重が減少したことに関して著者らは、本研究では生体インピーダンス法で体組成を評価しているために、夜間から午前中の糖質制限に伴う水分摂取量の減少が影響を及ぼした可能性があるとしつつも、体タンパク質の異化が亢進していた可能性もあると述べている。
夜間糖質制限法はパフォーマンス向上や減量に適用できるが、栄養モニタリングが重要
以上、一連の結果を基に著者らは、「短期集中的な夜間糖質制限法による、脂質代謝の向上と体重減少、持久力向上が示された。この手法はストレス負荷を強めることなく、肥満者の体重減少やアスリートのパフォーマンス向上に適用可能と言える」と結論づけている。
ただし、除脂肪体重の減少が生じる可能性も示唆されたことから、「とくにアスリートが本法を用いる場合、栄養面のサポートが必要である」とし、既報研究を基に「筋タンパク質合成刺激作用のあるロイシンの摂取を含めて、炭水化物以外の栄養素摂取量の調整を考慮すべきではないか」との考察が述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Short-Term Nighttime Carbohydrate Restriction Method on Exercise Performance and Fat Metabolism」。〔Nutrients. 2024 Jul 4;16(13):2138〕
原文はこちら(MDPI)