相対的エネルギー不足(REDs)の回復期に推奨したい2種類のトレーニング方法
スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)の回復期に推奨されるトレーニングに関する、英国とカナダの研究者による総説論文が「International journal of sports physiology and performance」に掲載された。著者らは、エネルギー需要が満たされる状態まで改善した以降における、筋骨格系トレーニングの重要性が過小評価されていると述べ、具体的な介入方法も挙げている。要旨を紹介する。
相対的エネルギー不足(REDs)とは
REDsを知る・見つける・治す・予防するREDs回復期期における筋骨格系トレーニングの必要性
REDsは「relative energy deficiency in sport」の略で、「スポーツにおける相対的エネルギー不足」と訳されている。REDsは持久系や審美系の競技および体重別階級のある競技のアスリートに多く、骨代謝の低下や筋委縮、内分泌異常、メンタルヘルスの変調など、さまざまな障害が起こる。REDsへと進行する過程では、体重が軽いことで一時的に競技成績が良好になることもあるが、最終的にはパフォーマンスが低下し健康が蝕まれてしまう。
REDsのベースには、エネルギー出納がマイナスの状態「利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)」があり、REDsの治療ではLEAを改善する、つまり摂取エネルギー量を増やすことが欠かせない。ただし、現状においてREDsの検出や対応の意思決定等に関しては、国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)によるのコンセンサスステートメントなどのガイドラインがあるものの、運動処方や栄養介入の具体的な推奨事項が提示されるに至っていない。
REDsに関するIOCコンセンサスリポート
スポーツにおける相対的エネルギー不足に関するIOCコンセンサスリポートとは一方、エネルギー需要が満たされている状態においては、筋骨格系(musculoskeletal;MSK)のトレーニングが健康に多くのメリットをもたらすとするエビデンスがあり、また炎症性疾患等の慢性疾患を有する人でもMSKトレーニングは安全で効果的とされている。他方、REDsではエネルギーバランスが負に傾いているため、トレーニング量を減らすことが多い。しかし、今回紹介する論文の著者らは、前記の理由から、REDsの回復期に入りエネルギー需要が満たされる状態になっていれば、むしろMSKトレーニングを行ったほうが回復が促進すると仮定している。
有酸素トレーニングはREDs回復期にはエネルギーコストが高すぎる
REDsへの介入によりエネルギー需要が満たされた後の推奨は、現段階ではケーススタディーに基づくレベルだ。理論的には、この時期のアスリートは体力の消耗を避け、エネルギーバランスがプラスの状態を維持する必要性が高いといえる。身体トレーニングはエネルギーバランスを負に傾ける因子だが、かといってトレーニングを行わないことは、筋量や筋力の回復遅延または骨代謝低下を招き、このようなことは避けなければならない。
アスリートの基礎体力の維持や向上のために心肺機能トレーニングが重要であることは疑いないが、心肺機能トレーニングはエネルギーコストが高く、REDs回復期には最適とは言えない可能性がある。それに対して、心肺機能トレーニングと並ぶアスリートの基礎的なトレーニングであるMSKトレーニングは、比較的エネルギーコストが低く効率が良い。
REDsからの回復期間のMSKトレーニング
MSKトレーニングはスポーツのパフォーマンスと健康にとって重要なトレーニングだと、広く認識されている。MSKトレーニングによって同化ホルモンの基礎分泌が高まることも知られており、この点はREDsからの回復期間中の健康にとって有利に働く。
MSKトレーニングの主要な様式として、レジスタンストレーニングと衝撃を利用したプライオメトリックトレーニングが挙げられる。これらの様式のトレーニングがREDsからの回復にプラスに作用することを示唆する研究報告が複数見られる。例えば、REDsのリスクを有する男性サイクリストを対象とする研究では、6カ月間のレジスタンストレーニングとジャンプ運動(1セッション15~20分、週3回)により、自転車のみのトレーニングよりも腰椎骨密度改善幅が有意に大きかったと報告されている。
ただし、利用可能エネルギー不足(LEA)の改善が不十分な状態(エネルギー出納が正でない状態)でのプライオメトリックトレーニングは、骨形成の促進につながらないという報告もあり、やはり栄養介入によるLEAの改善が大前提として重要と言える。LEAが改善した状態であれば、REDsからの回復におけるMSKトレーニングに対する現在の評価は、過小と言えるのではないか。
レジスタンストレーニングとプライオメトリックトレーニングの実践
REDsからの回復には、適切な指導者の下でのレジスタンストレーニングとプライオメトリックトレーニングを推奨したい。アスリートは通常、これらのトレーニングの経験を有しているため、REDsからの回復期にもスムーズな導入が可能だろう。
論文では、REDs回復期におけるレジスタンストレーニングとプライオメトリックトレーニングの目的(効果)、それぞれの特徴、方法などを表形式でまとめている。ここではその表から、トレーニングの目的(効果)と処方の項目の一部を抜粋する。
レジスタンストレーニング
- 目的
- 除脂肪体重の増大、最大筋力の増大、骨代謝の改善、競技復帰後の怪我のリスクの低減、精神的健康
- セッション例
- 自重スクワット、腕立て伏せ、バックスクワットなど
- 処方例
- 監督下で週2~3回、1セットにつき8~12回の反復、1エクササイズあたり2~3セット、セット間隔は2~3分
プライオメトリックトレーニング
- 目的
- 瞬発力と反応速度の向上、骨代謝改善、競技復帰後の怪我のリスクの低減、精神的健康
- セッション例
- ポゴジャンプ、ジグザグジャンプ、ラテラルステップ、30cmハードル跳躍、幅跳びなど
- 処方例
- 監督下でほぼ毎日。ジャンプ時の接地時間を短く、高さと距離を最大化する。1セットあたり足の接地が50回、筋力向上にあわせて60~100回
文献情報
原題のタイトルは、「The Role of Musculoskeletal Training During Return to Performance Following Relative Energy Deficiency in Sport」。〔Int J Sports Physiol Perform. 2024 Jun 4:1-6〕
原文はこちら(Human Kinetics)