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国内トップレベル男性トライアスリートのキャンプ中の栄養管理と連続血糖測定からわかったこと

国際大会出場経験をもつ国内トップレベルの男性トライアスリートのトレーニング合宿中に、連続血糖(間質液中グルコース)測定を実施した結果が報告された。夜間の血糖レベルが前日のエネルギー可用性(EA)と相関することや、EAが大きく低下した日でも夜間低血糖は発生しないことなどが示されている。立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科の廣松千愛氏と後藤一成氏の研究によるもので、「Nutrients」に論文が掲載された。

国内トップレベル男性トライアスリートのキャンプ中の栄養管理と連続血糖測定からわかったこと

5人のトップトライアスリートのキャンプ中に、4日連続で計8回、CGMを施行

持久系スポーツではエネルギー可用性(energy availability;EA)が重要とされ、EAを高めるためにさまざまな栄養戦略が提案され試みられている。近年ではグリコーゲンの温存を目的に脂質利用を促進するとされるケトン食や、炭水化物の総摂取量は変えずに時間的なバランスを調整するSleep-Low法などの報告が増えている。またEAが低下した「利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)」では、競技パフォーマンスの低下だけでなく、種々の健康リスクが生じるため、その点でもアスリートのEAの維持が重視される。

EAは摂取エネルギー量(energy intake;EI)から運動による消費エネルギー量(exercise energy expenditure;EEE)を減じた値と定義され、持久系競技の中でもとくにEEEの高いトライアスロンではEAが低下しやすくLEAリスクが高くなる。EAが低下した状態では血糖値が低値で推移し、夜間睡眠中に低血糖が発生し得ることも報告されている。

近年、皮下間質液中の糖濃度(interstitial fluid glucose concentration;IGC)をアルゴリズムに基づき血糖値に換算して連続的に血糖を測定(continuous glucose monitoring;CGM)できるようになり、その測定値が低いことでEAを検出できるのではないかとする考え方もある。またCGMを用いることで、食事や運動の直接的な影響を受けにくい夜間の血糖変動を把握可能となり、アスリートの糖代謝に関する多くの知見が蓄積されてきている。

ただしこれまでのところ、トライアスリートのIGCに関して報告されている研究は、実験室内での環境で行われていたり、対象者が非エリートレベルのものに限られている。そこで廣松氏と後藤氏は、国内トップレベルで活躍しているトライアスリートのトレーニング合宿中にCGMによる測定を施行し、IGCの変動と食事・栄養素摂取量、EEEとの関連、夜間低血糖の発生状況などを検討した。

研究参加者と研究手法

この研究は、5人の男性トライアスリートを対象に行われた。全員、国際大会参加経験があり、日本代表のメンバーまたは候補者で、年齢は25.0±2.6歳、BMI21.0±0.4、体脂肪率9.7±0.5%。

5人中3人は、4月と翌年2月に参加したトレーニングキャンプ中に4日間連続(計8日間)でCGMを施行した。他の2人は2月のトレーニングキャンプ中に4日間連続でCGMを施行した。つまり5人で合計8機会、32日間分のデータを入手した。

4月のキャンプでは、1日3食の食事が提供され、主食(米や麺)の量は個人で調節し摂取された。3食以外の飲食物は自由に摂ることができた。2月のキャンプでは1日2回、ビュッフェスタイルで食事が提供され、その他の機会の飲食物も含め、すべて参加者の判断で摂取された。摂取された飲食物は、精度検証済みの遠隔食品写真撮影法や製品ラベルなどの情報を基に管理栄養士によって、エネルギー量と栄養素量が算出された。

IGCには間歇スキャン式持続血糖測定(intermittently scanned continuous glucose monitoring;isCGM)を用いて、研究参加者には8時間ごと(データが保持される時間内)にスキャンをするよう指示した。ただし夜間に8時間以上連続で睡眠をとっているアスリートが多かったため、21~23時のデータは解析から除外した。

夜間の血糖レベルはEAと相関するが、低EAの日の夜でも低血糖は発生しない

5人の炭水化物摂取量は平均9.6±1.7g/kg/日であり、大きな個人差が観察された。測定機会が2回であった3人の参加者のうち1人は8日間すべて10g/kg/日を超えていた一方、測定機会が1回であった2人の参加者は4日間すべて10g/kg/日未満だった。

このほか論文中では、5人の参加者の8機会の摂取エネルギー量(EI)、主要栄養素摂取量、運動による消費エネルギー量(EEE)、およびエネルギー可用性(energy availability;EA)のデータについて、詳細な分析と考察が加えられている。ここではポイントのみを紹介すると、例えばEAについては、基本的にEEEが低い日に高くなっていた。また、測定機会が1回だった2人のうち1人(症例5)は、4日間すべて30kcal/kg除脂肪体重〈FFM〉/日未満だった。

低血糖は発生しておらず、昼間の平均血糖値は110mg/dL以上で推移

IGCデータに着目すると、すべての参加者においてIGCが70mg/dL未満の低血糖を示したポイントは存在しなかった。また昼間(6~21時)の平均IGCは、1人の被験者で1日のみ109±11mg/dLが記録されたことを除いて、すべて110mg/dLを上回っていた。

夜間のIGCとエネルギー出納関連指標との関係

次に夜間(23時~翌6時)のIGCに着目すると、平均が100mg/dLを下回る日が参加者全員に認められた。測定機会が1回だった2人のうち1人(症例5)は、4日すべて夜間IGCの平均が90mg/dL未満だった。

5人のデータを統合した解析により、夜間の平均IGCは、EI(r=0.595、p<0.001)およびEA(r=0.553、p=0.001)と正相関することが明らかになった。また、EAが30kcal/kgFFM/日以上の日(n=20)と、30kcal/kgFFM/日未満の日(n=12)に二分して比較すると、後者の夜間平均IGCは有意に低値だった(109±6 vs 97±10mg/dL、p<0.001)。一方、体重あたりの炭水化物摂取量(g/kg)は、夜間平均IGCやEEEとの間には、有意な関係が認められなかった。

なお、炭水化物摂取量(g/日)と1日あたりのEEEの関連は有意でなく、同様にタンパク質摂取量や脂質摂取量についてもEEEとの関連はみられなかった。

トップレベルのトライアスリートは血糖低下に対する耐性を備えている可能性

以上、主な結果を紹介した。本研究で明らかになった重要なことの一つとして、著者らは、夜間IGCの平均がEAと有意に相関していたことを挙げ、これはEAが血糖変動に影響を及ぼし得ることを示していると述べている。

一方、EAが大きく低下していた日でも低血糖は生じていなかった。本研究の参加者は、EAが30kcal/kgFFM/日未満だった日に炭水化物を6.9~13.3g/kg/日摂取しており、これが夜間低血糖のリスク抑制に寄与していたと考えられ、トップレベルのトライアスリートは血糖低下に対する栄養戦略を身に付けている可能性が示唆されるとしている。また、EAの状態が1人(症例5)を除いて連続的には発生していなかったことも、低血糖のリスク抑制につながっていた可能性が考えられるとのことだ。

なお、研究の限界点として、限られたサンプル数のケーススタディであるため、女性も含めたより大規模なサンプルサイズでの検討の必要性を指摘している。

文献情報

原題のタイトルは、「Energy Availability and Interstitial Fluid Glucose Changes in Elite Male Japanese Triathletes during Training Camp: A Case Study」。〔Nutrients. 2024 Jun 27;16(13):2048.〕
原文はこちら(MDPI)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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