社員食堂の調味料を低Na/K比製品に変更して牛乳を追加すると、1日のNa/K比が0.8低下する
国内の社員食堂の調理に使われている調味料や麺つゆを低Na/K比製品に変更し牛乳を追加することの影響をシミュレーションした結果、1食のNa/K比(モル比)は2.39低下し、1日でみても0.8低下する可能性のあることが明らかになった。京都府立大学大学院生命環境科学研究科の奥田奈賀子氏らの研究であり、「Nutrients」に論文が掲載された。
高齢期の心血管疾患抑制には、若年期からの減塩が必要
日本人高齢者の主要な死因が心血管疾患であり、心血管疾患の主要なリスク因子が高血圧であること、さらにその主要な生活習慣関連因子が食塩の過剰摂取であることはよく知られている。また、高血圧や心血管疾患は長年の生活習慣の結果として発症することから、高齢期の心血管イベントを抑制するには若年期からの血圧管理が重要とされる。しかし、過去10年ほどの間、多方面で減塩啓発活動が続けられているにもかかわらず、日本人の平均食塩摂取量は約10g/日で下げ止まりしていて、従来とは異なる効果的な介入手段の確立が求められている。
現役世代の日本人のナトリウム(Na)過剰摂取や、高血圧予防に寄与するカリウム(K)摂取が不足する原因として、外食や中食(テイクアウト)、加工食品の利用増加や、野菜の摂取量減少などが指摘されている。しかしそれらは、女性の就業率の上昇や長時間労働の蔓延といった社会構造も一因と言え、個人の努力による改善には限界があることも近年指摘されるようになった。一方、日本人労働者の一定数は企業内の社員食堂で昼食を摂取しており、介入の大きな機会となり得るが、これまでのところあまり活用されていない。
日本では、醤油や味噌などの調味料のNa削減と牛乳摂取がNa/K比抑制のポイント
栄養と血圧との関係に関する国際共同研究である「INTERMAP(International Study of Macro-Micro nutrients and Blood Pressure)」からは、中国ではNa摂取量の75.8%が調味に用いる「塩」由来である一方、日本では塩由来のNaは9.5%と少なく、醤油(20.0%)や味噌(9.7%)が多くを占めていた。よって、日本での減塩推進に際しては、それら調味料に含まれるNaを減らし、腎臓においてNaの再吸収を阻害するKを増やすことが、効果的な血圧対策となる可能性がある。Kは塩味を強化する効果もあることが知られており、既にNa含有量を減らしてK含有量を増やした食塩、醤油、味噌、麺つゆなどが商品化されている。
Kの摂取量を増やす方法としては、Kを多く含む野菜の摂取がしばしば推奨される。しかし野菜料理にはしばしば調味料を使うこと、野菜価格が近年上昇していること、野菜料理を用意する手間を敬遠する層があることなど、血圧対策としての野菜の摂取推奨には限界もある。それに対して牛乳は、Kを豊富に含み、価格も安定しており、摂取に際して調味料の添加を必要とせずそのまま摂取可能である。日本人の牛乳摂取量は平均61.9g/日と少ないことから、積極的な摂取が勧められる。
以上を背景として奥田氏らは、企業の社員食堂の調味料や麺つゆを低Na/K比のタイプに変更し、牛乳を追加することによって、社員のNa/K比にどの程度のインパクトを及ぼし得るかを検討した。
社員食堂の昼食メニューの調味料を低Na/K比製品に換えたとしたら…
この研究はシミュレーション研究として実施された。
西日本に所在する企業の社員食堂1施設で調査期間(2020年8月の4週間)に提供された昼食メニューと原材料リストを入手した。調味料およびその他の食材について製品ラベルあるいは日本食品標準成分表に基づき、食塩(NaCl)とKの含有量を特定。各食材の使用量を基にNaClとKの含有量を算出し、それを同期間の延べ利用者数で除すことで、1食あたりの平均含有量を求めた。NaCl、K量はメニュー別、食材別にも算出した。
その結果、例えば和定食の主菜はNaClが2.15±1.15g、Kが485±159mg、洋定食の主菜は同順に1.66±0.59g、479±155mgであり、味噌汁は1.96±0.74g、94±46mg、麺類は4.77±1.75g、312±102mgなどと計算され、昼食1食あたりの平均はNaCl 5.40g、K 718mgであり、Na/K比(モル比)は4.61であることがわかった。
次に、調味料塩分の8割を低Na/K比製品(Na含有量が25%少なく、それに相当する量のKを多く含む調味料)に置き換えることを目標として、塩、醤油、味噌、ポン酢、めん類スープ(うどん・そばつゆ、ラーメンスープ4種)を低Na/K比タイプに変更した場合に、当該昼食のNaClとKの含有量がどのように変化するかを計算した。また、それに加えて牛乳200mLを摂取した場合の変化も予測した。
昼食のみならNa/K比が2.39低下
前述のとおり、社員食堂の昼食は普通調味料を使用した場合(普通食)、NaClを5.04g含んでいた。しかし調味料を低Na/K比製品に変更した場合、NaCl含有量は4.25gであり、0.8gの減少が見込まれた。牛乳200mLを加えた場合は4.47gであり、普通食との差は0.57gだった。
K量は、社員食堂の昼食は普通食で718mgであるものが、調味料を低Na/K比製品に変更した場合は1,019mgであり、301mgの増加が見込まれた。さらに牛乳200mLを加えた場合は1,328mgであり、普通食との差は610mgに拡大した。
これらの変化の結果として、食事中のNa/K比は4.61から、牛乳を摂取しない場合は2.89に低下し、牛乳を摂取した場合は2.22に低下すると予想された。
1日のトータルでもNa/K比が0.8低下
次に、昼食では調味料を低Na/K比製品に変更し牛乳を追加するものの、朝食と夕食は変更しない場合の1日分のNa/K比への影響をシミュレーションした。なお、この社員食堂の利用者の多くが40~50代の男性であることから、2019年の国民健康・栄養調査のデータを基に、NaCl摂取量は11g/日、K摂取量は2,300mg/日と仮定した。この仮定に基づくと、1日のトータルのNa/K比は、食事レベルでは3.20で、尿中Na/K比としては4.00になる。
一方、社員食堂の調味料を低Na/K比製品に変更した場合は前述のように、NaCl摂取量は0.8g減少することが見込まれ、1日の合計では10.20gとなり、牛乳200mLを加えた場合は10.43gとなると考えられた。Kについても社員食堂の調味料を低Na/K比製品に変更した場合は前述のように301mgの増加が見込まれ、1日の合計では2,601mgとなり、牛乳200mLを加えた場合は2,910mgとなると考えられた。
これらの変化の結果として、1日のトータルのNa/K比は牛乳を追加しない場合でも、食事レベルでは3.20から2.63へと0.57低下、尿レベルでは4.00から3.29へと0.71低下すると予想され、昼食時に牛乳200mLを摂取した場合は同順に2.40(差は-0.80)、3.00(-1.00)に低下すると予想された。
この研究について著者らは、単施設のデータに基づいた試算であること、食べ残しはないと仮定していることなどの限界点があり、解釈の一般化は制限されると述べたうえで、「社員食堂での昼食に使われる調味料と麺つゆを低Na/K比のものに置き換え、牛乳を摂取することで、1日の食事性Na/K比が0.80低下する。このような施策は、労働者人口の高血圧予防に役立つ可能性がある」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Na and K Intake from Lunches Served in a Japanese Company Cafeteria and the Estimated Improvement in the Dietary Na/K Ratio Using Low-Na/K Seasonings and Dairy to Prevent Hypertension」。〔Nutrients. 2024 May 9;16(10):1433〕
原文はこちら(MDPI)