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健康リスクマーカーである「握力」をスポーツで鍛えることで、健康寿命が延伸するか?

2024年07月11日

握力は、成人におけるさまざまな疾患のリスクと関連のあることが知られている。では、この握力を鍛えることで疾患リスクを下げることはできるのだろうか? また、握力も全身の筋力と同様にスポーツによって高めることができるのだろうか? これらの疑問を考察した、順天堂大学スポーツ健康医科学研究所の安部孝氏らの論文が、「順天堂醫事雑誌」に掲載された。

健康リスクマーカーである「握力」をスポーツで鍛えることで、健康寿命が延伸するか?

握力と健康リスクとの関連を、既報文献と順天堂大のデータを用いて検討

握力は現在、非侵襲的に健康リスクを評価可能で測定コストをほとんど伴わない、簡便に利用可能なマーカーとして位置付けられている。既にサルコペニアの診断やフレイルの判定に用いられており、疫学研究からは、心疾患、糖尿病、癌、認知症、および死亡リスクなどとの関連が示され、それらの関連は、年齢やBMI、飲酒・喫煙習慣、教育歴などの交絡因子を調整してもなお有意と報告されている。

このように、握力が低いことが健康リスクの高さと関係があることは明らかだが、それには因果関係は存在するのだろうか? 仮に因果関係によるものだとすれば、スポーツ等によって握力を高めることが、健康寿命の延伸に役立つ可能性がある。このような疑問に基づき安部氏らは、これまでの研究報告に基づく文献レビューを行ったうえで、約50年間にわたる順天堂大学スポーツ健康科学部の学生の運動能力等のデータベースである「J-Fit+ Study」のデータを用いた解析を行った。

主な関心の的は、(1)身体トレーニングが成人の握力に与える影響、(2)身体活動やスポーツへの参加が小児や若年者の握力に与える影響、および、(3)握力の変化が健康リスクに影響を及ぼし得るのかを明らかにするために必要な研究課題――の3点。

これまでの研究報告に基づく検討

まず、これまでに報告されている研究結果からの考察が行われた。

「身体トレーニングが成人の握力に与える影響」という点については、栄養介入、運動介入、およびそれら両者の介入による身体機能への影響を検討した研究が複数報告されており、いずれも握力という点ではわずかな影響にとどまるとするものが多く、高齢者対象研究のメタ解析では標準化平均差が0.3未満と報告されていた。このことから、成人期や高齢期に握力を高い状態とするには、若年期までに握力を高めておく必要性があると考えられた。

次に、「身体活動やスポーツへの参加が若年者の握力に与える影響」という点については、7~12歳の男児と女児を対象に上半身と下半身のレジスタンストレーニングによる8週間の介入を行った結果、握力には有意な変化がなかったとする報告がみられた。しかし、より最近に報告された研究では、手で何らかの器具を握るという動作が含まれる上半身の活動を行っている子どもでは、握力の発達が大きくなることを報告していた。

つまり、小児・若年期の握力の発達という点では、上半身を中心とする身体活動やスポーツが寄与する可能性が考えられた。順天堂大学スポーツ健康科学部の学生を対象とする「J-Fit+ Study」では、学生の握力とともに、各自が行っているスポーツの種類も把握している。そこで、引き続きJ-Fit+ Studyのデータを用いた解析が行われた。

J-Fit+ Studyに基づく検討

J-Fit+ Studyにおいて、握力を含む運動能力テストは1973年から実施されている。毎年、新入生のほぼ全員がこのテストを受けるという伝統行事でもある。本研究では1973~2018年のデータを用いた。

男子学生での検討

体育学部(スポーツ健康科学部の前身)は1991年まで男子のみであったことから、まず男子を対象とし、1年次のデータを解析に用いた。なお、体育系学部の1年生は一般に、高校時代に行っていたスポーツを引き続き行っていることが多いという。

主に下半身のみを用いるスポーツとして『サッカー』、上半身と下半身を用いるスポーツとして『野球』と『剣道』を行っていた学生が選ばれた。理由は、それぞれの集団の体格(身長と体重)がほぼ一致していたからでもある。各群の人数は、サッカーが1,127人、野球は698人、剣道は297人だった。

この3群を比較すると、サッカー群は他の2群に比較して握力が有意に低値だった(-3.78kg〈95%CI;-4.27~-3.29〉)。最も握力が高かったのは剣道で、次いで野球、サッカーの順であり、各スポーツ間に有意差が存在していた(p<0.001)。剣道群とサッカー群の握力の差は、サンプル全体で約5kgであり、この値は経時的な拡大傾向が認められた。

女子学生での検討

次に、1996~2018年の女子1年生のデータを用いた解析を行った。比較する競技は、サッカー(161人)と剣道(53人)とした。剣道群の握力は34.0±4.3kgであり、サッカー群の27.9±4.4kgより有意に高値だった。この有意差は、身長と体重を調整後にも維持されていた。

若年期なら上半身を使うスポーツで握力が上昇する可能性

これらの解析は男子と女子のいずれも横断的なものであり因果関係を検討することはできないが、得られた結果は、若年期であれば上半身を用いるスポーツによって握力を鍛えられる可能性があることを示唆していた。また、学生は握力を鍛えるトレーニングを行っていたわけでなく、スポーツへの参加に伴うナチュラルな身体活動が握力の増大に寄与した可能性が考えられた。一方、とくに剣道については、握力が強い学生が剣道というスポーツを選んで取り組んでいたという、因果の逆転の結果である可能性もある。
(注*:その後の調査で発達期に実施する剣道は握力の向上に貢献する可能性が確認された)

注*の文献:American Journal of Human Biology 2024;36(5):e24022

今後の課題として縦断研究が必要とされる

では、握力の変化は健康リスクに影響を及ぼし得るのだろうか? 論文では「残念ながら現時点ではこれを評価する十分なエビデンスがない」としたうえで、これを明らかにするために求められる今後の研究課題を挙げている。

例えば、発達期にスポーツを行うことで向上した握力が引退後にどのように変化し、その変化が健康リスクにも影響するのかといった視点での縦断的デザインでの研究が必要だと述べられている。

なお、このトピックに関連する最も注目される点は、握力と死亡リスクの関連、およびその関連におけるスポーツの媒介効果の有無にあると考えられる。J-Fit+ Studyのデータベースがスタートしたのが1973年であるため、研究参加者は今年70歳となっている。これを背景に安部氏は、「あと10年ほどするとJ-Fit+ Studyから、スポーツ、握力、死亡リスクの関連について興味深い結果を得られるかもしれない」と付け加えている。また現時点で、1年生時点のスポーツの種類(下半身のみの競技か上半身も使う競技か)によって粗死亡率に差が生じているという。

文献情報

原題のタイトルは、「Handgrip Strength and Healthspan: Impact of Sports During the Developmental Period on Handgrip Strength (Juntendo Fitness Plus Study)」。〔Juntendo Iji Zasshi. 2023 Jul 24;69(5):400-404〕
原文はこちら(J-STAGE)

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