魚油に含まれるEPAが疲労回復の一助に? EPAが脂質燃焼型の抗疲労性筋線維を増加させる 北里大学
魚油に含まれる脂肪酸の一種であるエイコサペンタエン酸(EPA)がラット骨格筋において、脂質代謝に優れ、抗疲労性の遅筋タイプの割合を増加させることがわかった。また、そのメカニズムとして核内受容体であるPPARδおよびAMPKシグナリングの活性化が関与していることも明らかにされた。北里大学などの研究グループの研究の成果であり、「iScience」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された
研究の背景:魚油摂取が筋線維タイプを遅筋方向へ移行させるメカニズムの探求
この研究は、北里大学、麻布大学、九州大学、京都大学、弘前大学、東海大学の共同研究グループによるもの。
骨格筋を構成する細胞である筋線維は、代謝や収縮特性の違いから遅筋タイプ(type1)※1、速筋タイプ(type2B)、および中間タイプ(type2A, 2X)に分類される。筋線維タイプごとに性質が異なり、遅筋タイプの筋線維は収縮速度が遅く、ミトコンドリアを豊富に含み、脂質酸化能力に優れ、疲労しにくい特徴を持っている。一方の速筋タイプの筋線維は収縮速度が速く、解糖系能力に優れ、疲労しやすい。中間タイプはおおよそ両者の中間的な性質を有している。
このような特徴の違いから、筋線維タイプ構成は代謝特性と密接に関連しており、遅筋線維の増加は抗疲労性、かつ脂質を燃焼しやすい体質づくりに貢献できる。研究グループでは以前、食餌性の魚油摂取がラットにおいて筋線維タイプを遅筋方向へ移行することを報告した(DOI: 10.1371/journal.pone.0080152)。しかし、その詳細なメカニズムは明らかになっていなかった。
そこで、本研究では魚油に含まれる特徴的な脂肪酸に着目し、ラットの骨格筋線維タイプ、骨格筋機能や全身代謝に対する作用やその機序を明らかにすることを目的とした。
EPAは全身の酸化的代謝を促進し、筋機能を向上
まず、魚油に含まれる代表的なオメガ3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を含むさまざまな脂肪酸を用いて、遅筋タイプ形成や骨格筋の脂質代謝に関連しているPPARδ※2のアゴニスト活性を調べた。その結果、EPAに合成PPARδアゴニストに匹敵するほどの高いアゴニスト活性があることがわかった。一方でDHAではこの活性は確認されなかった。
そこでEPAに着目し、ラットにEPAを4週間投与した。まずは呼気ガス計測装置を用いて、全身代謝を測定したところ、EPA投与区で対照区と比較して酸素消費量が有意に増加した。また、麻酔下での脛骨神経への電気刺激により発生する後肢ふくらはぎ筋の最大発揮張力を測定した結果、EPA投与区で有意に高い値を示し、筋持久力も有意に向上した。
すなわちEPA投与はラットのエネルギー代謝を亢進し、筋機能も向上させることがわかった。
次に、これらのEPAによる作用に筋線維タイプの変化が関与しているかを調べた。長趾伸筋からタンパク質およびtotal RNAを抽出し、遅筋タイプマーカーであるミオシン重鎖(MyHC)1の発現量を解析した。その結果、EPA投与区でタンパク質、mRNAレベル両方で対照区と比較して、有意に発現量が増加した。免疫組織化学染色で足底筋の筋線維タイプ組成を調べた結果、上記と同様にEPA投与区でMyHC1陽性筋線維の割合が有意に増加した。
EPAは筋細胞のPPARδ、AMPK経路、TCAサイクルを活性化する
最後に、EPAが培養筋管細胞で遺伝子や代謝物にどのような影響を与えているかを確かめるために、網羅的解析(RNA-seqおよびメタボローム解析)により検討した。その結果、EPA添加は筋細胞のPPARδおよびAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)※3経路を活性化することが明らかになった。これに加え、脂質をエネルギー源として有酸素系の代謝経路であるTCAサイクルを活発にすることも示唆された。
参考図
以上より、魚油に含まれるEPAの新規機能性として「骨格筋の遅筋線維割合を増加し、全身脂質代謝・筋機能を向上する」ことが示された。
本研究により、古くから知られていた魚油摂取が脂肪燃焼を促進する理由の一端を解明するとともに、魚油摂取が脂質燃焼作用の亢進や抗疲労性体質の獲得といった運動トレーニングと類似した効果を引き起こすことが明らかにされた。研究グループでは、本成果は健康科学分野やスポーツ科学分野に貢献できると考えているとしている。
出典
魚油に含まれるエイコサペンタエン酸が脂質燃焼型の抗疲労性筋線維を増加することを発見!!(北里大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Eicosapentaenoic acid increases proportion of type 1 muscle fibers through PPARδ and AMPK pathways in rats」。〔iScience. 2024 Apr 26;27(6):109816〕
原文はこちら(Elsevier)