女子プロサッカー選手への栄養カウンセリングの留意点 オランダトップリーグでの調査結果
オランダの女子プロサッカーリーグ選手を対象に、二重標識水法法による評価も含めて、エネルギー出納を詳細に検討した結果が報告された。ポジションによる差異やピリオダイゼーションの実態が明らかにされ、結果に基づき著者らは「スポーツ栄養士は高タンパク質の重要性を強調するのではなく、炭水化物の摂取を優先することに焦点を移すべきではないか」と述べている。
いまだエビデンスが少ない女子サッカー選手の栄養管理
女子サッカーは世界的に人気が上昇してきているが、栄養管理に関するエビデンスはまだ限られている。欧州サッカー連盟(Union of European Football Associations;UEFA)の専門家グループは、エリートサッカー選手の栄養に関する声明を発表しているが(doi.org/10.1136/bjsports-2019-101961)、これは主として男子選手のエビデンスに基づきまとめられている。
身体的・生理学的な違いにより、男性選手で得られたデータをそのまま女子選手に適用することはできない。女性と男性では体組成が異なり、また月経周期によって代謝が変化し、そのほかにも試合中の走行距離には差がないもののスプリントの割合は少ないことなども報告されている。さらに、女子サッカー選手のエネルギー消費量を、ゴールドスタンダードとされる二重標識水法で評価した研究の報告は過去に2報しかないことが、本論文の背景に述べられている。
以上を背景として著者らは、オランダ女子サッカーのトップリーグの選手を対象として、二重標識水法でエネルギー消費を評価し、体組成や安静時代謝トレーニング・試合の負荷、摂取エネルギー・栄養素との関連の詳細な検討を行った。
トップレベルの女子選手をシーズン中に14日間にわたって観察
この研究は2021年4~5月のシーズン中に観察研究として実施された。過去5年間で同国のトップ3にランク付けられているクラブに所属している16歳以上の選手15人が研究に参加。主な特徴は、年齢22.9±4.5歳、BMI21.7±1.4、体脂肪率11.8±2.0%、Fat-Free Mass 49.9±3.6kg、Lean Body Mass 7.3±3.5kg。ポジションはアタッカー5人、ミッドフィルダー6人で、ディフェンダーとゴールキーパーが各2人。
14日間にわたり、加速度計、トランスポンダーおよび二重標識水法により、試合やトレーニングおよび日常生活での身体活動量や消費エネルギー量を把握。栄養素摂取量については、予告なしに4回実施した24時間思い出し法により把握した。なお、選手が試合で60分以上プレーした場合に、その日を試合日と定義した。
消費エネルギーの解析結果
消費エネルギー量は平均2,882kcal
1日の総エネルギー消費量(total daily energy expenditure;TDEE)は2,882±278kcal/日、体重換算では46.9±4.6kcal/kg/日だった。安静時代謝量(resting metabolic rate;RMR)は1,406±125kcal/日、身体活動によるエネルギー消費量(physical activity energy expenditure;PAEE)1,207±213kcal/日、体重換算で19.6±3.4kcal/kg/日、加速度センサーによる身体活動レベル(counts per minute;CPM)は1,543±312回、歩数は1万854±1,777だった。
PAEEをポジションで比較した場合、ディフェンダーが23.3±2.6kcal/kg/日で最も高く、アタッカーは17.5±1.16kcal/kg/日で最も低かった。
評価項目の相関
評価項目同士の相関をみると、体重は1日の総エネルギー消費量(TDEE)、安静時代謝量(RMR)、身体活動によるエネルギー消費量(PAEE)と相関がなかったのに対して、除脂肪体重(FFM)はTDEEと強い正相関があり(r=0.620、p=0.014)、PAEEと非有意ながら正相関の傾向がみられた(r=0.482、p=0.081)。
TDEEはトレーニング負荷の指標とは相関がなかったが、PAEEはフィールド上での累積時間(r=0.679、p=0.022)と正相関し、走行距離(r=0.588、、p=0.057)と有意水準に近い正相関がみられた。また、体重換算したTDEEやPAEEは、身体活動量(CPM)や歩数と正相関していた。
摂取エネルギー・栄養素の解析結果
摂取エネルギー量は2,344kcal/日だった。つまり、TDEEに対して20.2±12.2%低値だった。ただし、研究期間中の選手の体重の変化率は中央値0.0%であり変化がみられなかった。このことから、摂取量が不足していたのではなく、過小報告によるものと示唆された。
トレーニング日、試合日、休息日別に比較すると、同順に2,285、2,552、1,987kcal/日であり、有意差が認められた。
主要栄養素の摂取量
炭水化物の摂取量は平均4.2±0.9g/kg/日で、トレーニング日、試合日、休息日の順に、4.4±1.1、5.3±1.9、3.2±0.7g/kg/日であり、休息日は有意に少なく試合日に多いという有意差が認められた。タンパク質の摂取量は平均1.9±0.4g/kg/日で、前記と同順に、2.1±0.5、1.9±0.8、1.6±0.5g/kg/日であり、休息日はトレーニング日よりも有意に少なかった。
脂質に関しては平均1.3±0.4g/kg/日であり、日差変動は非有意だった。
女子サッカー選手にかかわるスポーツ栄養士は、タンパク質より炭水化物に焦点を
まとめると、女子プロサッカー選手の1日のエネルギー消費量は中等度~高度の範囲で、トレーニングや試合の負荷、日常生活での身体活動に関連していた。シーズン中の体重あたりのエネルギー需要は、男性に比べてわずかに高いと考えられた。
結論は、「栄養摂取量に関して、炭水化物についてはピリオダイゼーションが行われていることが示唆された。ただし、その摂取量は推奨量よりも低く、一方でタンパク質の摂取量はやや過剰と考えられた。したがって、女子サッカーに携わるスポーツ栄養士は、高タンパク質の食事を重視するよりも、身体的要求の変動を考慮しながら炭水化物の摂取量を最適化することを重視すべき」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Energy expenditure and dietary intake in professional female football players in the Dutch Women’s League: Implications for nutritional counselling」。〔J Sports Sci. 2024 Mar 13:1-10〕
原文はこちら(Informa UK Limited)