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高強度インターバルトレーニング、低酸素トレーニング後は食欲が低下しやすい

高強度インターバルトレーニング、または低酸素環境でのトレーニング、あるいはそれら双方の条件を満たすトレーニングは、食欲および食欲関連ホルモンに、どのような影響を及ぼすのかという点について、既報研究に基づき考察を加えたナラティブレビュー論文を紹介する。台湾の研究グループによる報告。

高強度インターバルトレーニング、低酸素トレーニング後は食欲が低下しやすい

高強度インターバルトレーニング+低酸素環境で、食欲はより低下するか

トレーニングは、アスリートがパフォーマンス向上のために行う介入であり、コーチは競技の特性やアスリートの能力に応じて、最適なトレーニングメニューを選択し指導する。それらのメニューの中で、高強度インターバルトレーニング(high-intensity interval training;HIIT)は短期間で持久系パフォーマンスを向上させ得ると考えられている。また、古くから低酸素環境でのトレーニングによってVO2maxの上昇などが生じて、通常の酸素環境で行われる競技でハイパフォーマンスが達成されることが知られている。

一方、60%VO2maxを超える強度でのトーニングの後に食欲刺激ホルモンの分泌の低下が生じ、実際に食欲が低下しやすくなることも知られている。トレーニングの筋タンパク質再構築、筋グリコーゲン回復、炎症抑制という点では、トレーニング終了後の早期に適切な栄養素量を摂取する必要があり、食事の摂取量減少は筋タンパク質の異化にもつながる。また、低酸素環境では、異化ホルモン(アドレナリンやノルアドレナリン)が上昇するといった報告がある。

これまでの研究で、高強度インターバルトレーニング(HIIT)は食欲を抑制する可能性のあることが示唆されているが、低酸素環境でのトレーニングの食欲や食欲関連ホルモンへの影響についてはわずかな研究しかなく、また、低酸素環境でHIITを行った場合のそれらへの影響の知見はより限られている。以上を背景としてこの論文の著者らは、これらのトピックに関するナラティブレビューにより、現時点のエビデンスを整理する試みを行った。

MEDLINE/PubMed、Web of Science、およびGoogle Scholarを用いて、1980年から2021年10月までに公開された、英語で執筆されている論文および灰色文献(伝統的な商業ルートでは入手困難な情報)を検索した。検索キーワードとして、HIIT、高強度インターバルエクササイズ(HIIE)、食欲、低酸素、高地などを使用。218報がヒットし、タイトルと要約に基づくスクリーニングで絞り込んだ63報を全文精査の対象とし、最終的に25件の研究報告をレビューの対象として特定した。それらのうち10件はHIIT、8件は低酸素トレーニング、7件は低酸素環境でのHIITによる、食欲および食欲関連ホルモンへの影響を検討していた。

高強度インターバルトレーニング(HIIT)と食欲

高強度インターバルトレーニング(HIIT)は食欲抑制ホルモン(ペプチドYY〈PYY〉、グルカゴン様ペプチド-1〈GLP-1〉など)を上昇させ、主観的な食欲の低下を引き起こすことが報告されている。ただし、最近の包括的レビューの中には、習慣的な運動習慣のある対象では、トレーニング後の主観的な食欲に変化がみられないと結論づけたものもある。しかし運動強度と食欲関連ホルモンの反応には正の相関関係があるようであり、主観的な食欲は性別やトレーニングパターンによって異なる可能性があって、とくに習慣的なトレーニングを行っていない集団で食欲低下の影響が顕著のようだ。

全体として、現時点のエビデンスとしては、HIITではペプチドYYとGLP-1を上昇させ、食欲を抑制させると考えられる。

低酸素トレーニングと食欲

低酸素環境でのトレーニング(高地トレーニング)は、組織への酸素供給が減少するとともに、アドレナリンの増加、心拍数の増加、心拍出量の増加などが生じる。また、高地では食欲不振につながる高山病を来すことがある。

ある研究では、高地に滞在した経験のない人をヘリコプターと陸路を使って高地に輸送し、食欲や食欲関連ホルモンの変化を検討している。その結果、レプチンは海面条件と比較して50%以上増加し、空腹感は30%以上低下したという。ただし、低酸素環境での食欲関連ホルモン分泌を調査した研究のすべてが、同様の結果を報告しているわけではない。例えばGLP-1レベルには有意な変化は生じないとする報告もみられ、GLP-1およびレプチンの双方に有意な変化がないとする報告もある。

とはいえ、極端な高高度では吐き気やめまいなどのリスクが高まり、悪影響が強くなる可能性が考えられる。食欲という点を考慮した場合、3,000m以下の高度が現実的ではないか。

低酸素環境でのHIITと食欲

運動は運動誘発性神経性食欲不振を引き起こす可能性があり、低酸素環境への曝露は高地誘発性神経性食欲不振を引き起こす可能性がある。それら両者は相加的または相乗的に働く可能性があるが、その現象の有無はまだ十分検討されていない。

そのようななか、無作為化クロスオーバーデザインにて、通常酸素条件での中強度運動、低酸素条件での中強度運動、通常酸素条件でのHIITなど複数の条件で食欲への影響を検討した研究がある。その研究では、低酸素条件での運動負荷により食欲が急速に低下し、グレリンレベルが低下することを報告している。別の女子大学ホッケー選手を対象に実施された研究報告では、低酸素環境での生じる摂取エネルギー量の低下は、主としてタンパク質と脂肪の摂取量の有意な減少によるものであると述べられている。

低酸素環境でのHIITによる食欲低下をサプリで補えるか?

これらの知見をまとめると、通常の酸素条件では、習慣的にトレーニングを行っているアスリートは、馴化のためにHIIT後にも主観的な食欲には変化が生じにくいものの、食欲関連ホルモンの分泌には有意な変化が生じていると考えられる。運動強度が高く、運動時間が長いほど、運動誘発性食欲低下や食欲抑制ホルモンの分泌増加が生じやすいと言える。

一方、低酸素環境でHIITを行った場合に、食欲がより抑制され、運動後の回復に悪影響が生じる可能性はあるが、それをサプリメントの摂取などにより抑制可能かどうかという点は明らかでない。HIITや低酸素トレーニングは短期間でパフォーマンスを高める可能性があり、近年、実践するアスリートが増加していることから、今回のナラティブレビューで検討した視点でのより多くの研究が望まれる。

文献情報

原題のタイトルは、「A Sports Nutrition Perspective on the Impacts of Hypoxic High-Intensity Interval Training (HIIT) on Appetite Regulatory Mechanisms: A Narrative Review of the Current Evidence」。〔Int J Environ Res Public Health. 2022 Feb 2;19(3):1736〕
原文はこちら(MDPI)

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