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咀嚼回数を増やす指導の追加で肥満関連指標が大きく改善 日本人女性対象RCTのエビデンス

減量介入に際して、通常の栄養・運動指導に加えて咀嚼回数や咀嚼時間を増やす指導を追加した場合、BMIの低下だけでなく、インスリン抵抗性、空腹時血糖値などの肥満関連指標が改善する可能性を示唆するデータが報告された。関西医科大学健康科学教室の木村穣氏、黒瀨聖司氏、大阪産業大学の日高なぎさ氏らの研究であり、「BMC Endocrine Disorders」に論文が掲載された。

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早食いは太るが、ゆっくり食べればやせるのか?

肥満者に対する減量指導において、適切なエネルギー量の中で栄養素をバランスよく摂取するという栄養指導と、有酸素運動を中心とする運動指導が一般的に行われる。一方、肥満のリスク因子の一つとして、古くから「早食い」が指摘されており、横断研究のエビデンスも少なくない。ただし、早食いに対する介入が減量につながるかという点については、いまだ十分明らかになっていない。40回以上の咀嚼で摂取エネルギー量が減少することを示した介入研究の結果の報告があるものの、その研究介入期間が3日間とわずかであり、体重等への影響は不明。

この状況を背景として日高氏らは、女性肥満患者を対象とする無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)を行い、咀嚼に対する指導介入の効果を検討した。なお、同氏らの以前の研究から、女性肥満患者では咀嚼の回数および時間が糖代謝指標と逆相関することが確認されている。

関連情報
イヤホン型光センサーで測定した咀嚼の回数・時間が、肥満女性の糖代謝指標と逆相関

咀嚼習慣への介入効果をRCTで検討

研究対象は、関西医科大学附属病院肥満外来を受診した患者のうち、研究参加の同意を得られ、薬物治療が行われておらず、口腔機能に異常のない20歳以上でBMI30以上の女性34名。無作為に2群に分け、両群に6カ月にわたって栄養・運動指導と認知行動療法を実施したうえで、1群にのみ咀嚼に関する指導介入を追加した。

咀嚼に関する指導は、月1回の管理栄養士による栄養指導の際に、1口あたり30回以上噛むこと、1口ごとに箸を置くことなどを伝え、現実的な目標設定とその達成度の確認、目標の修正などを継続するという内容。

介入期間中に6名が脱落し、最終的な解析対象者数は、従来療法群が12名、咀嚼介入群が16名となった。ベースラインデータを比較すると、脂質異常症罹患者の割合が咀嚼介入群で有意に高かったことを除いて、年齢、BMI、体脂肪率、骨格筋量、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病・高血圧・脂肪性肝疾患罹患者の割合に有意差がなかった。

イヤホン型光センサーで咀嚼回数と時間を計測

咀嚼回数や咀嚼時間の評価には、イヤホン型光センサーにより外耳道の微細な変化を感知して測定するという手法を用いた。試験食は、サラダ、おにぎり、ドーナツの3種類。

これらのうち、ベースラインにおいて、サラダの咀嚼時間のみ咀嚼介入群のほうが長いという有意差が認められたが、サラダの咀嚼回数、および、おにぎりとドーナツの咀嚼回数・咀嚼時間の群間差には有意な差は認めなかった。

咀嚼介入群では咀嚼回数と時間が有意に増え、肥満関連指標がより大きく改善

6カ月の介入後、咀嚼介入群ではドーナツの咀嚼時間以外のすべて(回数と時間)が有意に増加していた。一方、従来療法群でもサラダの咀嚼時間が有意に増加していたが、その他の有意な変化は認めなかった。

肥満関連指標については、両群ともに体重やBMI、体脂肪率、HbA1c、AST、ALTなど、多くの指標が有意に低下していた。ただし、BMIや糖代謝関連指標などで有意な群間差が認められた。

咀嚼介入群でインスリンレベルが低下し空腹時血糖値が改善

例えばBMIは、従来療法群が-4.2±3.8%、咀嚼介入群は-8.3±5.3%と両群ともに有意に低下していたが、低下幅は咀嚼介入群のほうが有意に大きかった(p=0.033)。

糖代謝関連では、ひと晩絶食後の空腹時血糖値が従来療法群では中央値-0.5(四分位範囲-4.8〜7.1)%と有意な差は認めなかったが、咀嚼介入群では-3.6(-15.8~-1.1)%と有意に低下しており、変化率の群間差が有意だった(p=0.039)。同様に、インスリン値も従来療法群では37.3±68.2%の上昇に対して、咀嚼介入群では-13.4±35.4%と低下し、変化率の群間差が有意だった(p=0.017)。

インスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rは、従来療法群は-18.4(-7.9~65.8)、咀嚼介入群は-31.5(-49.1〜21.3)と、いずれも有意な変化は認められなかったが、変化率の群間差が有意だった(p=0.041)。

咀嚼習慣を定量化した評価に基づく介入が有用

この結果について著者らは、「両群ともに栄養や運動に関す指導は同様に行っていたことから、BMIや血糖値、インスリン値、インスリン抵抗性でみられた変化率の群間差は、咀嚼習慣に関する指導介入によって生じたと考えられる」と述べている。その機序としては既報研究に基づく考察として、咀嚼回数と時間を増やすことでヒスタミン分泌を介して満腹中枢が刺激され過食が抑制されることや、食欲刺激ホルモンのグレリン分泌の低下、食欲および胃排出能を抑制するホルモンのGLP-1の増加などが関与している可能性を指摘している。

論文の結論は、「肥満女性の咀嚼回数と咀嚼時間の定量的評価に基づく指導介入によって、通常の減量指導に比べてBMI、糖代謝、インスリン抵抗性が有意に改善することが示された。とくに、おにぎりやドーナツなどの炭水化物の咀嚼指導が、糖代謝の改善に寄与するのではないか」とまとめられている。ただし、研究対象が女性のみであること、エネルギー量や栄養素の摂取量を評価していないといった限界点を挙げ、「今後のさらなる研究が必要」としている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of mastication evaluation and intervention on body composition and biochemical indices in female patients with obesity: a randomized controlled trial」。〔BMC Endocr Disord. 2023 Jun 21;23(1):134.〕
原文はこちら(Springer Nature)

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