イヤホン型光センサーで測定した咀嚼の回数・時間が、肥満女性の糖代謝指標と逆相関
食べ物を咀嚼する回数や咀嚼時間をイヤホン型の光センサーで計測し、代謝マーカーとの関連を性別・肥満の有無別に検討した結果が報告された。女性より男性は咀嚼回数や時間が少ないことや、肥満女性では咀嚼回数・時間がHbA1cやHOMA-Rなどの糖代謝マーカーと逆相関することなどが明らかになったという。関西医科大学健康科学教室の木村穣氏、黒瀨聖司氏、大阪産業大学の日高なぎさ氏らの研究であり、「Nutrients」に論文が掲載された。
咀嚼回数や時間を定量的かつ簡便に把握できるデバイスを使用
栄養指導においては、「早食いを避け、よく噛んで食べるように」と伝えることが多い。そうすることによって、食べ過ぎになりにくく、糖代謝異常のある人の食後血糖スパイクを抑制できるとされている。実際に、そのような効果を示した研究報告は少なくない。
しかし、摂取速度が速いか遅いかや、咀嚼回数が多いか少ないかの判断は、かなり主観的なものであり、客観的に正確に把握することは難しい。これまでに評価対象者の食事中の様子を動画撮影し、咀嚼回数や時間をカウントするという手法で行われた研究も報告されているが、これを日常の栄養指導の対象者全員に行うことは、膨大な時間を要するため現実的でない。
このハードルの解決策として日高氏らは、イヤホン型光センサーというデバイスを用いた。これは、外耳道の微細な変化を感知できる光センサーが内臓されたイヤホンであり、咀嚼行動(回数や時間)を測定し、外部のタブレットなどにリアルタイムで記録するもの。これまでにも顎に装着して用いるタイプのものはあったが、それよりも被検者の負担が少なく、より自然に近い条件で咀嚼行動を把握できる。同氏らによると、日本人対象にこのセンサーを用いて咀嚼行動を把握し代謝マーカーとの関連を調査した研究は、本研究が初めてとのことだ。
サラダ、おにぎり、ドーナツの咀嚼行動を、性別、肥満の有無別に検討
研究参加者は、関西医科大学附属病院で生活習慣病の指導を受けた外来受診者のうちBMI30以上の46人(40.8±11.3歳、BMI39.3±6.8、男性20人)と、非肥満の健常ボランティア41人(39.4±13.4歳、BMI20.6±1.9、男性21人)。いずれも20歳以上であり、非肥満群には同大学の関係者も含まれていた。咀嚼機能に障害のある人や口腔疾患、外耳道疾患などのある人は除外されている。
研究に用いた食品は、サラダ、おにぎり、ドーナツの3種類。それらの摂取時の咀嚼回数と咀嚼時間を測定するとともに、肥満群については生化学的検査値との関連も検討した。なお、3種類の食品の栄養成分は以下のとおり。
サラダ (キャベツの千切りなど) | おにぎり | ドーナツ | |
---|---|---|---|
カロリー | 39kcal | 188kcal | 214kcal |
タンパク質 | 1.2g | 5.6g | 3.0g |
脂質 | 0.5g | 1.6g | 10.4g |
炭水化物 | 6.2g | 37.8g | 27.4g (砂糖26.9g、食物繊維0.5g) |
食塩相当量 | 0.2g | 0.9g | 0.5g |
男性は咀嚼回数・時間が少なく、肥満群は咀嚼回数が少ない
では結果だが、まず全体的な傾向として咀嚼回数はサラダ、おにぎり、ドーナツの順に多く、咀嚼時間も同順に長かった。
性別での比較では、3種類すべての食品で女性より男性のほうが、咀嚼回数が少なく咀嚼時間が短いという有意差が認められた。
続いて肥満の有無で比較してみると、咀嚼回数については3種類すべての食品で、肥満群のほうが少ないことが明らかになった。一方、咀嚼時間については、おにぎりは肥満群のほうが有意に短いものの(p=0.001)、サラダは有意差がなく(p=0.210)、ドーナツはわずかに有意水準に至らなかった(p=0.067)。
肥満女性では、咀嚼回数・時間が複数の代謝マーカーと関連
本検討では、肥満群については、空腹時血糖値(FPG)、HbA1c、トリグリセリド、LDL-C、HDL-C、γ-GTP、インスリン分泌(IRI)、インスリン抵抗性(HOMA-R)などを評価している。男性の肥満群では、これらの値と咀嚼回数や咀嚼速度との間に、3種類の食べ物いずれについても有意な関連が認められなかった。
それに対して女性の肥満群では、多くの検査指標との関連が認められた。例えば、サラダの咀嚼時間はFPGやHbA1cと有意に負の相関があり、おにぎりの咀嚼時間はFPG、IRI、HOMA-Rと有意な負の相関があった。また、ドーナツの咀嚼時間はFPG、HbA1c、IRI、HOMA-Rと有意な負の相関があり、咀嚼回数はHbA1cと有意な負の相関があった。
なお、おにぎりの咀嚼回数はLDL-Cと有意に正相関していた。この点について著者らは、「メカニズムは不明」と述べている。
「よく噛んで、ゆっくり食べる」指導は、とくに女性に有用性が高い可能性
これらの結果を基に著者らは、「イヤホン型光センサーを用いて咀嚼回数と咀嚼時間を客観的に評価した結果、早食いが肥満に関連しているとのこれまでの一般的な考え方を支持するデータを得られた」とまとめている。そのうえで、「肥満者では非肥満者よりも、咀嚼回数と咀嚼時間が少ない傾向にあり、また肥満女性ではそのような咀嚼行動と複数の生化学的検査値との有意な負の相関が認められた」と結論づけている。
肥満者に対する「よく噛んでゆっくり食べる」という栄養指導は確かに有効で、特に女性においては、代謝機能の改善にも有用と言えるのかもしれない。ただし著者らは、本研究が横断研究であることから、「咀嚼行動の体重や代謝マーカーへの影響については縦断研究で確認する必要がある」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Masticatory Behaviors and Gender Differences in People with Obesity as Measured via an Earphone-Style Light-Sensor-Based Mastication Meter」。〔Nutrients. 2022 Jul 21;14(14):2990〕
原文はこちら(MDPI)