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急速な減量は急性腎障害のリスク上昇の可能性 レスリング選手対象に2条件で比較した研究

格闘技アスリートは試合前の短期間で急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行うことが少なくないが、それには急性腎障害(AKI)のリスクが伴うとする研究結果が報告された。RWLを行わない場合に比べて、尿素窒素やクレアチニンなどの腎障害を表すマーカーが有意に上昇し、一部は基準範囲を超過するものもあったという。

急速な減量は急性腎障害のリスク上昇の可能性 レスリング選手対象に2条件で比較した研究

急速な減量を繰り返す格闘技アスリートの腎臓は大丈夫か

格闘技アスリートの約8割が、試合前に何らかの方法で急速な減量(RWL)を行うという報告があり、多くは1週間ほどの間に2~10%体重を減らすとされる。手段としては、摂取エネルギー制限または絶食、下剤の使用、トレーニングりょうの増大、サウナや発汗スーツなどが用いられる。このようなRWLはリスクを伴う行為であり、死亡例の報告もある。

RWLによる減量は主として脱水によるものであり、脱水は腎機能を一時的に低下させる。脱水による腎機能の一時的な低下は長期予後には影響しないと考えられていたが、近年ではそれが否定されるようになり、軽度の脱水であっても腎機能低下を速める可能性も指摘されている。

試合前RWLを行う格闘技アスリートは、1年間で最大10回程度、RWLを繰り返すことになる。このような行為は腎臓に負担となると考えられるが、十分なデータがない。今回紹介する論文の著者らは、同一の対象者に、3日間で-5%というRWLを行う場合と行わない場合とで、同一のトレーニングプロトコル実施後の腎機能マーカーを比較検討した。

男子グレコローマン選手に対する同一トレーニング後の腎バイオマーカーを比較

研究参加者は、男子グレコローマンレスリング選手12人。適格条件として、競技歴5年以上、1週間のトレーニング時間10時間以上で、過去2年間に急速な減量(RWL)を行ったことのある現役レスラー。年齢は24.3±5.1歳、体重73.48±4.52kg、身長175.22±3.68cmだった。

研究は二つのフェーズからなる。まず、体組成測定と採血検査を実施した後の最初のフェーズでは、3日間で5%のRWLを課し、その最終日にレスリング特異的高強度運動を負荷しその後、体組成測定と採血検査を行った。それから7日おいて、フェーズ2としてRWLを行わずに、レスリング特異的高強度運動の負荷後、体組成測定と採血検査を行った。

レスリング特異的高強度運動では、9mのサークル内でのスパーリングパートナーとの断続的な投げ技を中心として、ジョギングなどを組み合わせて構成されていた。また採血検査では、急性腎障害(acute kidney injury;AKI)のマーカーとして、尿素窒素(BUN)、尿酸、クレアチニン、およびシスタチンCを測定した。なお、BUNやクレアチニンは腎機能以外の因子により値が変動することがあるが、シスタチンCはそのような因子が少ないことが知られている。

急速な減量を実施後のトレーニングではAKIマーカーが上昇

二つのフェーズの前後の体組成の値に、有意な差が観察された。急速な減量(RWL)を行ったフェーズ1では、ベースライン値に比較し、体重、BMI、体脂肪率が有意に低下していた。筋肉量については両方のフェーズで、ベースラインからの増加が観察された。

フェーズ1後とフェーズ2後で比較すると、体重、BMI、体脂肪率はフェーズ2後のほうが有意に高値であり、筋肉量は有意に低値だった。

同一のトレーニング後に、BUN、尿酸、クレアチニンに有意差

次に、急性腎障害(AKI)マーカーの変化に注目すると、シスタチンCを除くすべてのマーカーが、急速な減量(RWL)を行ったフェーズ1のトレーニング後に、ベースラインとの比較で有意な上昇が観察された(BUNはp=0.011、尿酸はp=0.000、クレアチニンはp=0.001)。シスタチンCの変化は有意水準未満だった。

フェーズ1後とフェーズ2後で比較すると、前者のほうが、BUN(p=0.002)、尿酸(p=0.000)、クレアチニン(p=0.006)が有意に高値だった。また、フェーズ1のトレーニング後には、AKIマーカーの一部の値が基準範囲を超過していた。

コーチも含めて、急速な減量のリスクの認識を高める必要性

本研究の限界点として著者らは、テスト期間中の食事がモニタリングされていないこと、対象が男性のみであること、採用したトレーニングプロトコルはシーズン中のレスリング選手が頻繁に行う体の動きを模倣したものではあるが、標準化されたものではないことなどを挙げている。そのうえで以下のように結論づけている。。

「本研究では、急速な減量(RWL)は急性腎障害(AKI)のリスク上昇と関連していた。RWLが健康に有害であることを示唆するデータがあるにもかかわらず、多くの格闘技アスリートが依然としてこれを行っている。すべてのアスリートは、RWLを避け、十分な水分補給の重要性についてアドバイスを受ける必要があり、RWLの結果として起こり得るAKIの長期的なリスクについて、コーチの認識を高める必要もある」。

文献情報

原題のタイトルは、「Rapid weight loss can increase the risk of acute kidney injury in wrestlers」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2023 Jun 29;9(2):e001617〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

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