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炭水化物の摂取量に応じて筋トレの効果が異なる? 上肢筋力の指標の一部に有意差

炭水化物の摂取量が多いほうが、レジスタンストレーニング後のアームカールで評価した上肢筋力が、より大きく上昇する可能性を示唆するデータが報告された。日常的にトレーニングを行っている男性を対照とした遡及的研究によるもの。ただし、ベンチプレスやスクワットなどの評価結果は、炭水化物摂取量の多寡による有意差が観察されなかったという。

炭水化物の摂取量に応じて筋トレの効果が異なる? 上肢筋力の指標の一部に有意差

筋トレにおける炭水化物の摂取量の違いの影響を検討

炭水化物の摂取によるパフォーマンスへの影響は、エネルギー基質としての利用という観点から持久系競技においてよく研究されている。一方、筋量や筋力についてはタンパク質の摂取との関連から、多くの研究がなされている。ただし、レジスタンストレーニング(resistance training;RT)の前に炭水化物を摂取することで、RTによる総作業量が増加することが複数の研究から示されている。また、筋グリコーゲンが細胞内同化シグナル伝達などを介するメカニズムで、筋量増大に影響を与える可能性も示唆されている。

とはいえ、RTの効果を最大化するための炭水化物要件はよくわかっていない。パワーリフターの日常の栄養素摂取量に基づく報告では、3~7g/kg/日の範囲が最適である可能性が示されている。ただしこれは観察研究に基づくデータであり因果関係は不明であり、「3~7」という範囲の広さも、推奨値というには曖昧すぎる。

これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、習慣的にRTを行っている男性を対象とする研究を行った。

若年男性の日常の炭水化物摂取量で二分し、漸進的RT前後の筋力を比較

過去の報告を基に、以下に示す研究デザインで有意差の有無を検討するには、研究参加者が29人必要と計算され、ブラジル国内からソーシャルメディアや研究者の個人的なつながりを用いて30人の男性が募集された。適格条件として、日常的にレジスタンストレーニング(RT)を行っていること、整形外科的疾患を含む既往症がないこと、ベジタリアンやビーガンでないこと、サプリメント(プロテインやクレアチンなど)や同化ステロイドを使用していないことなどが設定されていた。研究中に1人が個人的な理由で脱落し、最終的な解析対象は29人だった。

食事摂取量は、連続していない3日(平日2日と休日1日)の食事記録を基に栄養士が評価。筋力はベンチプレス、スクワット、アームカールで評価し、体組成はDXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)で評価した。

研究開始時点で行った食事調査から、炭水化物摂取量が5.0g/kg/日以下だった14人を「炭水化物摂取量が少ない群(L-CHO群)」とし、5.0g/kg/日を上回っていた15人を「炭水化物摂取量が多い群(H-CHO群)」と2群に分類。8週間にわたって作業量を徐々に増加させる漸進的RTに参加してもらった。この漸進的RTには全員が85%以上に参加し、プログラム遵守率は満足のいくものと判断された。

両群の栄養素摂取量

各群の主な特徴は以下のとおり。

  • 年齢:L-CHO群22.9±4.9歳、H-CHO群22.4±2.8歳
  • BMI:L-CHO群23.8±3.1、H-CHO群22.1±2.1
  • 摂取エネルギー量と主要栄養素摂取量:すべてH-CHO群のほうが有意に高値だった(すべてp<0.001)
  • 摂取エネルギー量:L-CHO群28.50±5.7kcal/kg/日、H-CHO群41.2±3.2kcal/kg/日
  • 炭水化物:L-CHO群3.80±0.81g/kg/日、H-CHO群5.29±0.24g/kg/日
  • タンパク質:L-CHO群1.28±0.32g/kg/日、H-CHO群1.68±0.18g/kg/日
  • 脂質:L-CHO群0.91±0.22g/kg/日、H-CHO群1.49 ± 0.32g/kg/日

炭水化物摂取量の多い群でのみ、アームカール1RMが有意に上昇

では、8週間の漸進的RTの前後での体組成や筋力の変化をみていこう。なお、群間差の検討に際しては、各評価指標のベースライン値、摂取エネルギー量、摂取タンパク質の相対量(体重換算値)の影響が統計学的に調整されている。また、筋力は1RM(repetition maximum.1回だけ施行可能な最大負荷量)で評価している。

除脂肪軟組織重量(LST)

除脂肪軟組織重量(lean soft tissue;LST)の変化幅は、L-CHO群がΔ1.39kg(95%CI;0.07~2.71)、H-CHO群はΔ1.37kg(同0.12~2.63)で、同順に0.8%、3.5%の変化率であり、両群ともに有意に増加し、群間差は非有意だった。

一方、脂肪量は両群ともに有意な変化がなく、群間差も非有意だった。

ベンチプレスとスクワットの1RM

ベンチプレスの1RMの変化幅は、L-CHO群がΔ3.17kg(0.42~5.91)、H-CHO群はΔ4.64kg(2.03~7.24)で、同順に3.6%、5.8%それぞれ有意に上昇しており、群間差は非有意だった。

同様にスクワットの1RMは、Δ9.23kg(4.19~14.2)、Δ14.1kg(9.41~18.9)で、7.5%、9.4%それぞれ有意に上昇しており、群間差は非有意だった。

アームカールの1RM

アームカールの1RMの変化幅は、L-CHO群ではΔ1.62kg(-0.61~3.85)であり有意な変化が認められなかった。それに対してH-CHO群はΔ2.62kg(0.50~4.735)であって有意に上昇していた。変化率は同順に3.6%、5.8%であり、H-CHO群のほうが有意に大きく上昇していた。

除脂肪軟組織重量(LST)とアームカールの反応に有意差

除脂肪軟組織重量(LST)の変化について、L-CHO群では効果量(d)が0.08であり、参加者の21%に応答性があったと考えられた。一方、H-CHO群はd=0.34であって、参加者の80%に応答性があったと考えられ、その割合に有意差が認められた(p=0.002)。

アームカールの1RMの変化については、L-CHO群はd=0.16であり、参加者の43%に応答性があったと考えられた。一方、H-CHO群はd=0.4であって、参加者の87%に応答性があったと考えられ、その割合に有意差が認められた(p=0.013)。

ベンチプレスとスクワットの1RMの変化については、同様の手法による検討で、有意な群間差は認められなかった。

まとめると、プレコンディショニングを経た男性において、8週間の漸進的レジスタンストレーニングによる除脂肪軟組織重量およびベンチプレスとスクワットの1RMへの影響は、炭水化物摂取量で異ならないことが示された。ただし、高用量を摂取していた群でのみ、アームカール1RMが有意に上昇した。また、アームカール1RMや除脂肪軟組織重量の反応は、高用量の炭水化物を摂取しているほうが良好と考えられた。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effects of Carbohydrate Intake on Body Composition and Muscular Strength in Trained Men Undergoing a Progressive Resistance Training」。〔Int J Exerc Sci. 2023 Feb 1;16(2):267-280〕
原文はこちら(PubMed Central)

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