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栄養上のエルゴジェニック効果を考える際に留意すべきチェックリスト

スポーツパフォーマンスを高めるためにサプリメントなどを摂取しているアスリートは少なくないが、それらの利用に際して考慮すべき生理学的側面をまとめた、カナダの研究者によるレビュー論文が発表された。要旨を紹介する。

栄養上のエルゴジェニック効果を考える際に留意すべきチェックリスト

イントロダクション

栄養上のエルゴジェニックエイドは、通常の食品でも構わないが一般には、食品から分離された特定の栄養素または化合物のサプリメントとして摂取される。それらの効果は総じてわずかなものであるが、そのわずかな違いが表彰台に立てるか否かを分けたり、メダルの色を変える可能性がある。文献的には、古代の戦士やアスリートも特定の食品を摂取していたことが記録されている。近年ではサプリメントの消費量が急増しており、アスリートでは8割以上が何らかのサプリメントを摂取していると報告されている。

サプリメント摂取のスポーツパフォーマンスへの影響についても多くの研究がなされている。ただし、医薬品の効果や副作用リスクを評価する際に留意すべきことと同様に、サプリメントについても研究対象全体で認められた効果が、特定の個人にも同様に期待できるとは限らず、効果が認められない、またはより大きな効果を得られる、さらには有害事情の発生リスクといったことが、さまざまな因子の影響を受けて変化する。例えば、吸収や代謝は人それぞれ異なり、性差、人種/民族、体重の多寡、摂取タイミング、複数のサプリメントを利用している場合の相互作用など、実に多くの条件により影響が異なると考えるほうが自然である。

今回紹介する論文には、それら、栄養上のエルゴジェニックエイドを利用する際に考慮すべき生理学的側面がまとめられている。

吸収や分布、代謝の違い

吸収や代謝の個人差に関連する可能性のあることとして、口腔内の細菌、胃内のpH、消化酵素、消化管ホルモン、消化管の通過時間、腸内細菌叢の組成などが挙げられる。肝臓は初回通過代謝に関する主要な臓器であり、消化管から吸収されたすべての栄養素は門脈経由で肝臓に入り、解毒等を経た後、体循環に向かう。また肝臓は、グルコースやコレステロール、脂肪酸の代謝にも重要な役割を担っている。

体循環でのエルゴジェニック成分の濃度は、肝臓での代謝のほか、腎臓での排泄の影響により左右される。また、期待される効果を発揮するには、循環血液中の成分が標的臓器・組織に取り込まれなければならない。それらの個人差も効果の有無や強弱に影響を及ぼす可能性がある。

中枢神経系に関連する口腔内受容体

大半のエルゴジェニックエイドは経口摂取され、上記のように初回通過代謝を受ける。これに対して近年、初回通過代謝を回避する方法として、口腔内受容体の活性化を利用することの有用性が検討されている。より具体的には、洗口(うがい)によりパフォーマンスを高められないかというアプローチであり、エルゴジェニック成分を濃縮したものを口に含み、5~20秒ほどすすいだ後、飲み込まずに吐き出すというものだ。

これまでに、炭水化物溶液、カフェイン、メントールなどの洗口のエビデンスが蓄積されてきている。

考慮すべき実際上の課題

人間の多様性

栄養素を摂取したあとの代謝が異なるのと同様に、エルゴジェニックエイドに対する反応も個人差が大きい。例えば、クレアチン摂取後の筋肉内の蓄積には個人差があることが報告されている。エルゴジェニックエイドの影響をより正しく評価するために、研究の際の適切なサンプル数の設定が重要となる。また、サイエンスとして再現性の確認が必須であり、同一のプロトコルで実施された研究が一方でポジティブ、一方でネガティブとなることは珍しくない。

摂取プロトコル

用量や摂取タイミング、摂取頻度が異なれば、当然ながら影響は異なる。また、用量に関しては、絶対量か相対的な量か(体重で補正した用量か否か)という視点も大切であり、例えばカフェイン200mgは60kgの人では1kgあたり3.3mgだが、85kgの人では2.4mgという違いが生じる。

同時摂取による相互作用も留意すべき事項の一つ。例としてクレアチンは炭水化物との同時摂取により、インスリンレベルの上昇によって骨格筋への取り込みが高まる。反対に影響が相殺される組み合わせもある。抗菌性の洗口液は硝酸塩のエルゴジェニック効果を減弱することなどが知られている。

トレーニング量

レクリエーションレベルかエリートレベルかといった競技レベルの差も、エルゴジェニック効果に影響を及ぼす。エリートレベルで活動するアスリートはすでにパフォーマンスが極めて高い状態にあるため、レクリエーションレベルのアスリートに比べ、エルゴジェニックエイドの寄与し得る余地が限られている。

とはいえ、一部のサプリメントはトレーニングを受けた個人で有利に働くことが報告されている。例えばβ-アラニン摂取による筋中カルノシン産生刺激作用は、よくトレーニングされた筋肉のほうが高いとされている。

論文では上記のほかに、性差やプラセボ効果などの視点を取り上げ、サプリメント摂取時に考慮すべき事項としている。スポーツパフォーマンスに関するエルゴジェニック効果を検討した研究論文を読む際には、これらの点に注意して、自分にあてはめることが可能かどうかを確認していく作業をすると良いかもしれない。

文献情報

原題のタイトルは、「Food for thought: Physiological considerations for nutritional ergogenic efficacy」。〔Scand J Med Sci Sports. 2023 Jan 17〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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