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朝食を家族と一緒に食べない子どもにメンタルヘルス上の問題が多い――国内小学生での調査 静岡県立大学

生活習慣病の増加だけでなく、メンタルヘルス関連疾患の増加が世界各国で問題となっている。生活習慣病のリスクを押し上げる生活習慣が小児期に身についてしまいやすいことはよく知られているが、メンタルヘルス上の問題についてはどうだろうか? 子どもたちのメンタルヘルスに、生活習慣が関連している可能性はないだろうか? このような疑問について、食事スタイルの面から検討した研究結果が報告されている。静岡県立大学食品栄養科学部栄養生命科学科・大学院食品栄養環境科学研究院の桑野稔子氏らが岐阜県内の小学校で行った調査の結果であり、家族と一緒に朝食を摂る頻度が低い子どもはメンタルへルス上の問題が多い可能性が示された。

朝食を家族と一緒に食べない子どもにメンタルヘルス上の問題が多い――国内小学生での調査 静岡県立大学

研究の背景:メンタル関連疾患も小児期にリスクが芽生える

メンタルヘルス関連疾患の増加は、今や多くの国で最も重要な公衆衛生課題の一つとなっている。その有病率は10~20%と報告されており、さらに増加が予想されている。また、成人のメンタル関連の問題のかなりの割合が、小児期または思春期初期に発生することが報告されており、小児期の早期の介入により成人後のそれらの問題を抑制可能であるとする報告もみられる。

子どものメンタルヘルス障害のリスク因子として、遺伝的背景のほかに、身体的健康や栄養状態、養育や教育の環境、家族構成や家族の心身の健康状態、有害物質への曝露などが挙げられている。遺伝的背景以外のライフスタイルにかかわる因子の多くは修正可能であり、中でも「食事」は、長期にわたって日々繰り返され、脳の発達に潜在的な影響を及ぼすことが示唆されている。

子どもの食事とメンタルヘルスを結びつける要素として、栄養素の摂取状況とは別に、家族とともに食卓を囲んで食事を摂る(共食状況)頻度といった食事スタイルの影響も想定される。また、家族とともに食事を摂ることが、栄養的にも良好な食習慣の形成につながると考えられる。ただし、家族と食事を摂る頻度と子どものメンタルヘルス状態の関連は、これまであまり検討されてきていない。

桑野氏らは、これらを背景として、「家族と食事を摂る頻度は、子どものメンタルヘルス状態と正の関連がある」との仮説のもと、以下の研究を行った。

研究の内容:共食状況とSDQ(Strength and Difficulties Questionnaire:子どもの強さと困難さアンケート)の関連を評価

この研究は、2015年5~6月に、岐阜県山県市内のすべての公立小学校9校で横断調査として実施された。1,141人の児童の保護者に対して、子どもの食事スタイルに関するアンケートを配布。868人(76%)から回答が得られ、解析に必要なデータが欠落しているものなどを除外し、678人の回答を解析対象とした。

子どもの平均年齢は9.3±1.5歳、男児48.5%であり、アンケートに回答したのは母親が94.0%、父親3.2%、祖母2.1%、施設スタッフ0.6%。回答した保護者の教育歴は50.2%が高卒以下、49.7%が短大卒以上。全体の65.8%が核家族で、祖父母や曾祖父母との同居は32.0%だった。

共食状況とメンタルヘルス状態の評価について

共食状況については、子どもが1週間のうち何日、朝食および夕食を家族とともに食べるか、土日や祝祭日(給食のない日)の昼食をどの程度の頻度で家族とともに食べるかなどを質問。メンタルヘルス状態については、SDQで評価した。

SDQは、情緒の問題、行為の問題、多動/不注意、仲間関係の問題という四つの困難さ(difficulties)に関するサブスケールと、向社会的な行動(strengths)という、合計五つのサブスケールを、それぞれ0~10点で評価する。本研究では、向社会的な行動を除いた4項目を合計40点満点で評価。0~12点は問題のない範囲、13~15点は境界域、16点以上は何らかのメンタルヘルス関連の問題を有すると判定した。

研究の結果

子どもの朝食の孤食がメンタルヘルス上の問題と関連

結果について、まず、子どもが家族とともに食事をする頻度に着目すると、朝食については週7回とも家族とともに食べているとの回答が全体の71.5%であり、週4~6回が10.5%、週1~3回が16.1%で、1回未満は1.9%だった。夕食については、週7回が91.9%と大半を占めていた。また土日や祝祭日の昼食も、91.7%と大半は家族とともに食べていた。

次に、SDQ(子どもの強さと困難さアンケート)の結果をみると、平均スコアは9.5±5.3点であり、75.1%の子どもは問題なし、11.5%は境界域で、13.4%の子どもは何らかの問題があると判定された。性別の比較では、男児が10.2±5.6点、女児が8.8±5.0点であり、男児のほうが有意に高く(p=0.002)、問題ありと判定された割合も男児のほうが高かった(17.6 vs 9.5%,p=0.008)。年齢や疾罹患歴、保護者の教育歴、家族構成は、SDQスコアとの有意な関連がなかった。

家族と食べる頻度が週7回に比べて週1回未満では、メンタルヘルス上の問題のオッズ比が4.79倍

続いて、SDQスコアが13点以上(境界域と何らかのメンタルヘルス関連の問題を有すると判定される状態の合計)の割合と、子どものメンタルヘルスに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、疾患罹患歴、家族構成、保護者の学歴)を調整のうえ、共食状況との関連を検討。その結果、家族とともに朝食を摂る頻度が週に1回未満の場合、週7回に比べてSDQスコアが13点以上の割合が4.79倍多いことが明らかになった(AOR4.79〈95%CI;1.51~15.25〉)。

また、土日や祝祭日の朝食を一人で食べている子どもは、家族全員で食べている子どもに比べてオッズ比が有意に高かった(AOR3.61〈95%CI;1.42~9.23〉)。

一方、夕食に関しては、家族とともに食べる頻度の少なさや一人で食べる習慣と、メンタルヘルス上の問題との関連がなかった。論文中の考察として述べられているところによると、この点は海外からの報告との相違点であり、今回の調査では夕食を家族とともに食べていない子どもがごく少数であったことが、統計的に有意でなかった理由として考えられるという。

因果関係とメカニズムの検討が求められる

これらの結果をもとに著者らは、「日本の小学生では、朝食を家族と一緒に食べる頻度が低い場合、および土日や祝祭日に一人で朝食を食べている場合、SDQによって評価されるメンタルヘルス上の問題がある可能性の高いことが明らかになった。これは、家族との食事、とくに朝食における家族との食事が、子どものメンタルヘルス状態と正の関連があることを示唆しており、家族とともに食卓を囲むことは子どもの精神的健康にメリットをもたらし得るのではないか」と結論づけている。

また、この関連のメカニズムについては、文献的考察により、「家族の絆、価値観の共有などを介する経路や、栄養不良のリスクが低く質の高い食事が脳の発達を促進するという経路が想定され、孤食ではそれらが阻害されるのではないか」としている。ただし、本研究では栄養素摂取量は評価していないこと、横断研究であるため因果関係は不明であることなどの限界点があるとし、このトピックに関する今後のさらなる研究の必要性を指摘している。

文献情報

原題のタイトルは、「The Relationship between Family Meals and Mental Health Problems in Japanese Elementary School Children: A Cross-Sectional Study」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Sep 2;18(17):9281〕
原文はこちら(MDPI)

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