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ビタミンDはアスリートの疲労骨折リスクを抑制する 文献レビューによる骨折のタイプ別の検討

ビタミンD摂取による骨折抑止効果を、骨折のタイプ別に検討した文献レビューが報告された。大腿骨頚部骨折や転倒リスクの抑制、筋肉機能の改善などが改めて確認され、またアスリートや軍隊の新兵の疲労骨折のリスクも抑制すると考えられるという。一方、小児の骨折に対する抑止効果は認められないようだとされている。

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ビタミンDの骨折予防効果は骨折のタイプによって異なるのか?

近年、ビタミンDの受容体が全身に分布していることや、血中ビタミンDレベルの低さが、がんや循環器疾患、糖尿病、抑うつ、新型コロナウイルスを含む感染症など、さまざまな疾患の罹患リスクや死亡リスクの高さと関連のあることが報告されている。ただし、ビタミンDの機能性について、最も古くから研究されているのは骨代謝の改善と骨折予防効果といえ、既に活性型ビタミンD製剤が長年、骨粗鬆症の治療薬として用いられてきている。

とはいえ、骨折にはいろいろなタイプがあり、それらに対してビタミンDが同じように保護作用を発揮するのか、そうではなく、より強い保護効果が発揮される骨折のタイプと、あまり保護作用を期待できない骨折のタイプがあるのかは、これまで十分に検討されてはいない。そこで今回紹介する論文の著者らは、既報研究のレビューによってこの点を検討した。

検討されている骨折のタイプは、椎体骨折、大腿骨頚部骨折、疲労骨折、および小児の骨折。以下、要旨を紹介する。

椎体骨折

椎体骨折は骨粗鬆症性の骨折として最も多くみられるタイプの骨折で、その有病率は年齢とともに増加し、70歳以上では約2割が罹患している。ただし、臨床的に診断されているのはその4分の1~3分の1程度である。

椎体骨折はQOLの低下だけでなく死亡リスクの上昇と関連している。1,130人の閉経後女性を対象とした8件の無作為化臨床試験を対象とするメタ解析からは、カルシウム製剤と活性型ビタミンD製剤との併用によって、椎体骨折の発生率が低下することが示されている。ただし、同等の患者数が対象となっている別のメタ解析からは、ネガティブな結果が報告された。

研究間の不一致の理由はいくつか考えられる。第一に、被験者のビタミンDレベルのベースライン値や介入後の値を記載している論文が限られており、介入によってビタミンDレベルが目標域に到達しているのか否かを判断できていない。投与量は大半の研究が300~800IUであったが、この用量は高齢者の骨折リスク抑制には十分ではない可能性がある。また、投与間隔が日単位ではなく週単位、または月単位の研究も含まれているが、ビタミンDは投与間隔が長い場合に効果が低下するという報告もある。

まとめると、椎体骨折の予防におけるビタミンDの有効性には一貫性がなく、調査間の不一致の原因と想定される諸点を考慮したプロトコルによる、将来の研究が必要とされる。

大腿骨頚部骨折

大腿骨頚部骨折は骨粗鬆性骨折の最も深刻なタイプの骨折であり、罹患率が高いだけでなく骨折発生後にQOLが大きく低下し要介護状態となりやすく、その後の死亡リスクも高い。

大腿骨頚部骨折のために入院した平均年齢85.7歳の974人のイタリア人患者を対象とする研究では、その84.2%がビタミンD欠乏症であったと報告されている。同様の結果は他の研究者も報告している。

800IUのビタミンDと1,200mgのカルシウムが投与されていた患者は、36カ月間での大腿骨頚部骨折の発生率が対プラセボで25%低いというデータや、65歳以上の女性に年間40万IUのビタミンDを投与し、対照群と比較で10%大腿骨頚部骨折が減少したといった介入研究のデータがみられる。

また一部の研究では、ビタミンDが筋肉組織にプラスの影響を及ぼす可能性を報告している。筋力の増加は、大腿骨頚部骨折の主要な原因である転倒の発生率の低下つながると考えられる。実際、ビタミンDとカルシウムの3カ月の投与で、転倒リスクが49%減少したという報告もみられる。さらに別の研究では、800IUのビタミンD投与と簡単な下肢トレーニングを並行して行ったところ、1年で下肢機能が改善したという。

一方、否定的な報告もみられる。75歳以上の高齢者9,440人を対象とする無作為化二重盲検対照試験では、エルゴカルシフェロール30万IUの年1回の筋肉内投与で、骨粗鬆症の予防に効果がないと結論付けたものなどだ。ただし、大腿骨頚部骨折に関する研究は、総じてビタミンD投与の予防と治癒促進のメリットを示していると言える。

疲労骨折

疲労骨折は、最大強度未満の運動を回復が不十分な状況で反復することによって生じる。軍隊の新兵の3.3~8.5%、スポーツアスリートの0.5~20%が疲労骨折を経験すると報告されている。疲労骨折を来したアスリートが完全に回復し、無制限に参加できるようになるまでの推定期間は、平均で12~13週間という報告もみられる。疲労骨折のリスク因子として、白人、女性、月経異常、鉄欠乏症、高身長、高齢、過剰な身体活動などとともに、ビタミンD不足も挙げられる。

疲労骨折に対するビタミンDの予防効果のエビデンスの一つとして、海軍の女性新兵志願者を対象とする無作為化二重盲検試験の結果がある。被験者は、800IUのビタミンD+2,000mgのカルシウムまたはプラセボを摂取するように無作為に割り付けられ、実薬群では疲労骨折の発生率が20%抑制された。他の研究では、ベースラインの血清ビタミンDレベルが50nmol/L(20ng/mL)未満であった新兵は、疲労骨折の発生率が高いことが報告されている。また、アスリート対象の研究からは、ビタミンDが骨の健康に関与するだけでなく、スポーツパフォーマンスを改善する可能性があることも示唆されている。

要約すると、ビタミンDは疲労骨折に対する予防効果を示す可能性が認められる。ただし、より高いエビデンスの裏付けを得るために、無作為化された研究が必要とされる。とはいえ、現在のエビデンスレベルでも、新兵やアスリートの疲労骨折の予防目的でビタミンDをルーチンで用いることが考慮されるべきだろう。

アスリートの疲労骨折予防、パフォーマンス改善にもつながる可能性

このほか、小児の骨折に対するビタミンDの効果については、「一貫性のないデータが示されている」とされ、やや否定的な見解が述べられている。

論文の結論では、「このレビューによると、いくつかのタイプの骨折のリスクに対するビタミンDの有用性を確立するには、無作為化されたより品質の高い臨床研究を実施する必要がある」としたうえで、「ビタミンDの特徴の一つは低コストという点であり、日常生活で容易に介入可能であって、かつ骨折だけでなくさまざまな健康の側面に有用な影響を及ぼす可能性がある」としている。

また、スポーツアスリートと軍隊の新兵の場合は、疲労骨折の抑制とパフォーマンスの向上、治療コストの削減につながる可能性があるとも付け加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Vitamin D Supplementation and Its Impact on Different Types of Bone Fractures」。〔Nutrients. 2022 Dec 25;15(1):103〕
原文はこちら(MDPI)

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