中学生時代の食習慣が成人期の食行動などに関連 農水省「食育に関する意識調査」のデータ分析
農林水産省の「食育に関する意識調査」のデータを用いて、思春期の食習慣と成人後の食行動との関連を検討した結果、有意な関連が認められたとする研究報告が、「Nutrients」誌に掲載された。神戸大学大学院農学研究科食料環境経済学講座の石田章氏らによる研究によるもの。
成人後の食行動を規定する因子は何か?
日本も含めて多くの国で肥満の増加が公衆衛生上の課題となっている。肥満は身体活動量の少なさと摂取量の過剰によって生じる。そのような肥満につながる生活習慣は、肥満の有病率が増加し始める成人期よりも前に身についてしまっていると、よく指摘される。ただし、そのような関連を示した国内の研究は、実は多くない。
本論文の研究背景に述べられているところによると、ある研究では成人を対象に、子ども時代の食習慣を振り返ってもらい、現在の食行動との関連を検討しているが、子ども時代の食習慣を把握する質問項目はわずかだった。別の研究は、成人後の食行動に影響を及ぼし得る複数の因子を評価しているものの、関連性の検討は単変量で分析されているとのことだ。
そこで石田氏らは、思春期の食習慣や食事に関連する体験の好ましさを複数の質問項目を用いて統計的に評価し、成人後の食行動や食事に関する認識との関連の有無を検討した。
食育に関する意識調査のデータを分析
この研究には、農林水産省が行っている「食育に関する意識調査」の個票データが用いられた。思春期の食生活も調査されたこの年の調査では、20歳以上の一般住民3,000人が調査客体とされ、1,721人がアンケートへ回答し個別インタビューに応じた(回答率57.4%)。そのうちデータ欠落のない1,569人(男性679人、女性890人)を分析対象とした。
成人後の食行動や食事に関する認識については、「日頃から、健全な食生活を実践することを心掛けているか」、「主食・主菜・副菜を3つそろえて食べることが1日に2回以上あるのは、週に何日あるか」、および「生活習慣病の予防や改善のために、ふだんから適正体重の維持や減塩などに気をつけた食生活」について、意識していることと実践していることを問うという、4つの質問に対する回答をリッカートスコアで評価(健康維持に好ましい回答ほど高得点と評価)。
一方、思春期の食習慣や食事に関連する体験については、13~15歳のころを思い出してもらい、「家では、1日3食いずれも決まった時間に食事をとっていた」、「家では、家族そろって食事をとっていた」、「家では、家族と一緒に食料品の買い物をした」、「家では、食事の準備や後片付けを手伝った」、「家では、『いただきます』、『ごちそうさま』のあいさつをしていた」、「家では、季節の食材や、季節にあった料理が用意されていた」、「家では、食事が楽しく心地よかった」、「家、学校、地域などで、田植え、野菜の収穫など、食の生産に関する体験活動をした」、「学校で、先生から食に関する話を聞いたり、指導を受けた」という9項目の質問に対する回答に、カテゴリカル主成分分析を適用することによって評価した。
その他、年齢、性別、主観的経済状況、主観的健康観、同居家族の有無、家族とともに食事を摂るか否かなどを共変量として把握した。
評価した成人後の食行動の多くが思春期の食習慣・行動と関連
まず、分析対象者の特徴をみると、年齢層は70歳以上が26.1%と最多で、45~49歳と65~69歳が約10%、その他の年齢層(5歳刻み)は、20~24歳が最も少ない4.0%から50~54歳の9.1%の範囲に分布していた。性別は女性が56.7%だった。また、全体の67.9%が家族と同居し食事も一緒に食べていると回答し、20.1%は家族と同居しているものの食事は一人で食べていて、12.0%は独居だった。
条件付き混合プロセスモデル(conditional mixed process model)という統計学的手法により、成人後の食行動や食事の認識に関する4項目を従属変数、その他の因子を独立変数とする分析を施行。その結果、女性は男性に比べて、評価した食行動の4項目すべてが有意に良好であることや、主観的経済状況が良好であるほど食行動が良好であることが明らかになった。
主観的健康観も、「主食・主菜・副菜を3つそろえて食べることが1日に2回以上あるのは、週に何日あるか」を除く3項目と有意な正の関連が認められた。年齢に関しては、45歳以上では20~24歳に比較し、評価した4項目のすべてが良好だった。
また、ほかの家族と同居だが一人で食べている人を基準とすると、ほかの家族と同居し食事を一緒に食べている人は、4項目すべてが良好だった。一方、独居者は「主食・主菜・副菜を3つそろえて食べることが1日に2回以上あるのは、週に何日あるか」の評価が有意に不良だった。
思春期の栄養教育をより重視すべき
では、本研究の主題である、思春期の食習慣や食事と、成人後の食行動や食事に関する認識の関連だが、分析の結果、4項目中3項目と正の有意な関連が認められた。
最も強い関連がみられたのは「主食・主菜・副菜を3つそろえて食べることが1日に2回以上あるのは、週に何日あるか」と「日頃から、健全な食生活を実践することを心掛けているか」であった。「生活習慣病の予防や改善のために、ふだんから適正体重の維持や減塩などに気をつけた食生活」については、それらに対する意識は有意な関連があったが、実践については非有意だった。
これらの結果を基に著者らは、「思春期の中期に良好な食習慣だった人は、そうでない人よりも成人後に健康的な食行動への関心が高く、実際にそのような行動をとっている人が多かった。したがって、保護者と教育関係者には、思春期中期の子どもたちに対する栄養教育と、食事に関連する適切な行動の指導に、より力を入れていく必要があるのではないか。それによって、子どもたちの成人後の食生活・食行動が健康的なものとなる可能性がある」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of Mid-Adolescent Dietary Practices on Eating Behaviors and Attitudes in Adulthood」。〔Nutrients. 2023 Jan 1;15(1):225〕
原文はこちら(MDPI)