スポーツ栄養士のフルタイムサポートで、ラグビー選手の主要栄養素摂取量の時間的分布が改善
スポーツ栄養士がラグビー選手に対してフルタイムサポートすることで、タンパク質の摂取量と摂取タイミングの分布が改善し、炭水化物にもその傾向がみられたとする研究結果が報告された。ただし、除脂肪体重は有意な変化がなかったという。
養成課程の選手にスポーツ栄養士がフルタイム介入
エリートレベルのラグビー選手の主要栄養素摂取量は、タンパク質についてはベストプラクティス(最適)とされる1.2~2.0g/kg/日を満たしているとの報告が多いが、順エリートレベルでの調査結果は一貫性が欠如している。また、筋タンパク質の合成はアミノ酸摂取から45~90分後にピークに達し、180分後にはベースラインレベルに戻ると報告されており、より最適な筋タンパク質合成には、0.4g/kg程度のタンパク質を1日4~6回に分けて食べるほうが良い可能性がある。
一方、炭水化物については、エリートレベルであってもベストプラクティスとされる6~10g/kg/日を満たしていないとする報告が多くみられる。トレーニング後の炭水化物摂取が不十分な場合、筋グリコーゲンの再合成が不十分となり、その後のトレーニングや試合のパフォーマンスが低下する懸念がある。
今回紹介する論文の研究は、スポーツ栄養士の指導の機会が限られている、養成課程にあるラグビー選手に対して、スポーツ栄養士がフルタイムでホリスティック(全体的)な介入を行うことで、タンパク質と炭水化物の1日の摂取量と摂取タイミングにどのような変化が現れるかを検討したもの。研究仮説は、介入によりタンパク質と炭水化物の摂取量が増加し、除脂肪体重が増加するというものだった。
4週間のホリスティックな介入で主要栄養素摂取量や除脂肪体重は変わるか?
研究対象は、ニュージーランドの非都市部にあるラグビーアカデミーに所属している17人の選手で、研究デザインは非無作為化クロスオーバー法。著者によると、介入の性質のため無作為化は困難だったという。
まず4週間にわたって習慣的な食事摂取状況がモニタリングされ、その後の4週間に介入が行われた。栄養介入は行動変容テクニックに基づき、スポーツ栄養士が継続的にサポートするほか、グループ単位での健康とスポーツと栄養に関する講義、個別の相談などで構成されていた。
介入期間中、参加者はすべての食事をサイズの参照基準となるペンや手などとともに写真撮影し、スポーツ栄養士に送信。調理工程が複雑な場合は調理中の写真をできるだけこまめに撮影することが求められた。また、調理方法、調味料などの情報をテキストベースで報告し、体重測定も推奨された。それらに基づく栄養素摂取量の計算は、ニュージーランド栄養協会に登録されている1人の栄養士によって行われた。
1日に6~7回の食事を評価
介入期間中のトレーニングセッションにあわせて、スポーツ栄養士は参加者に対して対面で指導を行い、その他の時間帯はリモートにより指導や相談に応じるという、ほぼフルタイムのサポートを行った。
4週間の介入期間中の食事は、トレーニング量の少ない日(セッション数が1回以下)が8日、トレーニング量の多い日(午前と午後に各1回のセッション)が4日だった。トレーニング量の少ない日は、6機会(朝食、午前中の間食、昼食、午後の間食、夕食、や夜食)の食事を評価し、トレーニング量の多い日は午前中の朝食の評価をジムトレーニングの前後に分けて行い、計7機会の食事を評価した。
17人の参加者のうち、4人はプロトコル逸脱、2人は怪我または病気、1人はアカデミー退会のために脱落し、解析対象は10人(20.7±1.7歳、103.3±18.8kg、186.8±9.1cm)となった。
タンパク質と炭水化物の摂取量が増加したものの除脂肪体重は変化なし
タンパク質摂取量は、多くの摂取タイミングで有意に上昇
タンパク質の摂取量は以下のように、介入後に多くの摂取タイミングで有意な上昇が認められた。
トレーニング量の少ない日
トレーニング量の少ない日のタンパク質の絶対摂取量(体重未調整の摂取量)は、介入前に比べて介入中(フルタイムサポート中)は、朝食、午前中の間食、午後の間食、夜食において、有意に多かった。相対摂取量(体重調整後の摂取量)は、さらに昼食についても有意差が認められ、フルタイムサポート中のほうが多かった。
トレーニング量の多い日:
トレーニング量の多い日のタンパク質の絶対摂取量は、介入前に比べて介入中は、午前中の間食、昼食、夜食において、有意に多かった。午後の間食、夕食については、介入前のほうが有意に多かった。
相対摂取量はさらに、午前中のジムトレーニング後の食事についても有意差が認められ、フルタイムサポート中のほうが多かった。また、体重調整により、午後の間食のタンパク質相対摂取量が介入前のほうが多いという有意差は消失した。
炭水化物摂取量は、トレーニング量の多い日は上昇する傾向
炭水化物の摂取量は以下のように、トレーニング量の少ない日は介入による大きな変化がなかった。それに対してトレーニング量の多い日は、介入中に多くの摂取タイミングで有意な上昇が認められた。
トレーニング量の少ない日
トレーニング量の少ない日の炭水化物の絶対摂取量は、朝食のみ、介入前に比べて介入中のほうが有意に多かった。一方、相対摂取量は、有意差のみられた摂取タイミングはなかった。
トレーニング量の多い日
トレーニング量の多い日の炭水化物の絶対摂取量は、介入前に比べて介入中は、午前中のジムトレーニング前の食事、午前中の間食、昼食、夜食において、有意に多かった。午後の間食については、介入前のほうが有意に多かった。相対摂取量は、夕食についても有意差が認められ、介入前のほうが有意に多かった。
除脂肪体重には有意な変化なし
除脂肪体重は、ベースラインが82.8±13.0kg、介入前(モニタリング期間終了後)が81.8±12.8kg、介入後が82.2±12.3kgであり、有意な変化がみられなかった。
以上を基に著者らは、「スポーツ栄養士による行動変容アプローチによって、多くの摂取タイミングでのタンパク質の摂取量が増加した」と効果を述べる一方、炭水化物に関しては「いくつかの摂取タイミングで介入により摂取量の減少が認められた。アスリートがベストプラクティスの推奨事項を満たしていない場合、この手法によるアプローチは炭水化物摂取に関しては逆効果になる可能性がある」としている。
結論には、「今後の研究では、ラグビー特有の1日全体の食事、および食事ごとの栄養素の摂取量を最適化するため、主要栄養素摂取がパフォーマンスと回復に及ぼす急性および慢性の影響を調査する必要がある」と記されている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Influence of Full-Time Holistic Support Delivered by a Sports Nutritionist on Within-Day Macronutrient Distribution in New Zealand Provincial Academy Rugby Union Players」。〔Nutrients. 2022 Dec 21;15(1):17〕
原文はこちら(MDPI)